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「失礼します。名城なぎ風紀委員長、どのようなご用件でしょうか」

奥の机で書類の山に囲まれた男が顔を上げた。私たち風紀委員の長を務める名城風紀委員長。学園指定の制服で上下を固め、これと言った装飾品は身に着けていない。こちらに向ける表情は柔らかく、知らない人が見れば人の好さそうな印象を受けるだろう。普段から接していると常に同じ表情を保ち続けている上に何を考えているのか分からない怖さが勝る。

「セイレムさん。風紀委員会だからってそこまで肩ひじを張る必要は無いよ。少しリラックスしてくれると嬉しいな」
「了解しました。何の用?はやく言いなさない」

返答を聞いた彼は曖昧な笑みを浮かべていた。

「用件を話すね。図書委員会からウチに出動要請が来た。服飾規定を逸脱した学生が図書館に入り浸っているそうだよ」
「服飾規定って飾りじゃなかったのね」
「学園の校風が生徒の自主性を尊重しているとはいえ、度が過ぎれば取り締まりも必要となる。それがボクたちの仕事さ」
「そういうものかしら」

服飾規定を始めとした各種規定の内きちんと意識して守られているのは"戦争"のルールくらいだ。腕章を付けた風紀委員や先生がたまに指導を行っているのは見かけても、規定違反を理由に風紀委員会へ出動要請が出される機会は少ない。むしろ、生徒のやらかしで発生したよく分からない怪物の撃退などで駆り出されることの方が多いくらいである。

「服飾規定で言ったら私も危うい立場だけどね」
「セイレムさんのアレは職務上必要という事で認められているじゃないか」
「"認められている"と"受け入れられている"の間には深い溝があるの」
「まあ目立つだろうね。あの恰好は」

今の・・私は学園指定の制服をキチンと着こなしているが、任務の時はちょっと変わった仕事服を着る。より上位の規則を守る為に下位の規則が無視されることは往々にしてあるものだ。

「呼び出した理由を聞けてなかったわ。軽めの注意とか指導なら他に幾らでも適任がいるでしょう」
「それがねぇ……」

名城は左右を見回してから手招きした。広まると困る類の話なのだろうか。小声でも聞こえるように近付いて身をかがめる。

「先方が君を寄こしてほしいと言ってるんだよ」
「龍涎図書委員長が?」

図書館の管理運営を一手に担う図書委員会の長こと龍涎 香りゅうぜん かおる、彼女について覚えているのは新入生向けの図書館ガイダンスで最後に軽いスピーチをしていたことくらいだ。

「その通り、話が早くて助かるね。使い魔を介した会話で詳細は聞けなかったけど、彼女が言うにはセイレムさんがどうしても必要なんだとか。やること自体は単なる力仕事らしいよ。行ってもらえる?」
「私は別に構わないけど、本当にそれだけで良いのかしら」

名城は笑顔のまま立ち上がり両腕を後ろ手に組んだ。頭の中で声が響く。花籠学園には特異な才能を持った生徒が多く、彼もその1人である。

『件の違反生徒について、その実在の有無を含めた調査を行うこと。また、可能な範囲で龍涎委員長の動向を監視し、不審な点があれば報告するように。以上だ』
「最初からそう言いなさいな」

ごく普通に口を開けて言葉を返した。メッセージを思い浮かべるだけでも読み取れるらしいが、慣れてしまうと後から困りそうなので遠慮している。

『誰が聞いていても不思議ではない。それに何事も無ければそれで良いんだ』
「そういうものなのね」


森の中で幼い少女は熊と出会った。

「……」

口を真一文字に結んだ彼女は身動き一つしない。動けないのか、あるいは意図して動かないのか。大柄な獣は四つ足を地につけ、目の前の小さな異物を値踏みするように見つめている。暫くの間、風にそよぎ擦れ合う葉の音だけが鼓膜を震わせていた。

先に動いたのは熊の方だ。黒茶色の野獣はのっそりと立ち上がり、少女の胴体ほどもある両前足を左右に構える。先端に備わる無骨な爪が野山を駆け回る野生動物の脚力をもってして振るわれた時、どのような光景が生まれるのか想像に難くない。相変わらず身じろぎもしない少女にしびれを切らした熊の動きに合わせ、自然の生み出した凶器は耳を塞ぎたくなるような風切り音を立てて獲物に迫った。

派手な金属音が静かな森に鳴り響き、鳥の群れが一斉に羽ばたく。肉を削ぎ骨を砕くはずの鉤爪は完全に振るわれることなく動きを止めていた。否、より正確に言うならば止められていた。熊の前に少女の姿は既に無く、いつの間に現れた白銀の騎士が両腕をクロスさせて前足を受け止めている。騎士は両腕を徐々に広げて熊を押し返し、最後には押しのけてしまった。数mほど後退して地面に足を下ろした獣は吠え声を上げると、犇めく木々の中へ駆けていった。

辺りに葉の擦れ合う音が響く森の小道。鎧兜は大気の中へ溶けるように消え去り、驚いたような顔で呆けている少女だけがその場に残されていた。


見知らぬ部屋で目を覚ますと両腕を縄のようなもので縛られていた。周囲の状況を確認する。窓は無く、入り口はドア1つのみ、家具の類は大量の本が敷き詰められた大きめの本棚くらいで他には何もない。棚に収められている本のうちで見覚えのある物は小説や漫画ばかりだ。どれもファンタジー要素を含んでいること以外に共通点は無く、脱出の糸口にはなりそうもない。ドアを開けられないか試すと案の定カギが掛けられていた。

どうやって脱出するか考え始めようとした時、突然ドアが開いたかと思うと制服を着た女が部屋に入って来た。両腕は私と同じように縛られている。後ろに制服を着た誰かが見えたものの、即座にドアが閉じたため顔は確認できなかった。

数十秒が経ち無言空間に耐えきれなくなったところで女が話しかけてきた。

「あなたがフィオナさんね。来てくれてありがとう」

彼女の顔はよく覚えていなかったが、私の名前を知っていてそんなことを言えるのは1人しか思い浮かばない。

「龍涎さん、なにが起きているのか教えてください。今すぐ」

「私のとも、知り合いを助けて」
「いや、だからその前に何が起きているのかを教えて欲しいと言ってるんですが」
「かなり長くなる上に、知らない方が幸せに過ごせる学園の情報が数十はあると言っても?」
「遠慮するわ」

そういう裏の事情は名城委員長とか副委員長へ投げておくに限る。

「あなたのお友達を助けるために私は何をすればいいのかしら」
「知人の事を分かりやすくするために『クロ』と呼ぶわ。クロは通路を挟んで向かい側の部屋で拘束されている。あなたには警備の人員を排除して欲しいの」

要するに敵陣へ突っ込む切り込み役をやれということか。

「なるほど。それで、あなたはどうするつもり?」

人質を助けて自分たちだけで逃げるかもしれないので一応聞いておく、流石にそんなことはしないと思うが。

「クロを助けて脱出するわ」

聞いておいて良かった。当たり前のように捨て置くと言い切らないで欲しい。

「それはつまり私を見捨てるってことよね?」
「そこに何の問題が?」

質問しているのはこっちだというのに、涼しい顔で聞き返されて困惑してしまった。

「そんな作戦には乗れません」
「あなたの戦闘力であれば問題ないわ」

先程から全く狼狽の色を見せない辺り只者では無さそうな感じがしたけど、そういうことか。

「……どうして知っているの?」
「委員長の間じゃ殆ど常識レベルよ。今年の風紀委員会は良い札を引いたって専らの評判だもの」

思ったより広く知られているようだ。まあ怪物や強情な不良生徒たちを相手する時は大体使っていたのでそれほど不思議でもない。

「でも私は気絶させられてここに連れてこられたのよ」
「能力がどれだけ優秀でも、使い手が人間なら対処のしようはあるわ。まあ、あいつらに出来るのは発動前の不意を衝くくらいね。つまり発動してしまえばどうしようもないのよ」

なるほど、それなら話は早い。

「敵をぶっ倒せばいいわけね。分かりやすくてありがたいわ」
「そういうこと」

一息ついて意識を集中させた。まるで最初からそこにあったかのように、白色の肌と金色の髪、青い瞳を覆い隠して青と金の装飾が施された白銀の鎧兜が現れる。両腕を縛っていた縄は腕部装甲を纏う際にいつの間にか千切れてた。

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