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名前: 天宮 帝華
タイトル: 信仰は何の為に
必要素材:
要旨: 12個の台座を円形に配置し、金属球はそれらの上に設置される。看板には作品のタイトルと以下のような文が記述されている。
Q.神はどこにいるか?
A.ファン・デル・ローエ【細部】
ニーチェ【虚構】
スピノザ【遍在する】
あなた【 】
観客が金属球を手に取ると、質量の大部分を占めるマーカス鋼が観客のアキヴァ放射を読み取り、彼らの信教において「祈り」と深く関連する物品のレプリカに変形する。同時に、別の構成要素である『「海星と酒の残り香」を元に作られた石』が、「今の自分を形作る上で最も重要なモノの記憶と、それに対して抱いていた想い」を観客から失わせる。大切なモノの記憶と想いを失い、自らの手に握られた宗教的な物品(のレプリカ)を見て、観客は自発的に祈り始めるだろう。失われたモノを取り戻す唯一の方法は「自らの内に宿る神との対話により失ったモノを思い出す」ことだ。金属球を構成する残りの要素はテレキル合金で、これは観客の中にテレパス能力者がいた場合に安全装置の役割を果たす──試作過程でテレパス持ちの友人にチェックして貰った時、かなり面倒なことになってしまった。
並べられた台座には1台につき5個の電球を埋め込む。埋め込まれた電球は祈りによって放出されたアキヴァの量に応じて発光する仕組みだ。
意図: 信仰が単なるエネルギーの一種に成り下がった時代に人はなぜ祈るのか?私の答えは「内的対話により何かを得るため」という結論に落ち着いた。今回は私なりに導きだした問いの答え合わせをしたいと思う。
円形に並べられた台座の中心に何もないのは作品の思想を端的に表すものとなっている。教会で祈祷をする時は祈り手の前に信仰の象徴が厳かに鎮座しているものだが、この作品では神の居るべき場所を空白が占領している。手元を見ても、祈り手が持つ祭具は金属球の変形した紛い物だ。これは「自らの外に祈るべき神は居ない」という私の答えを反映したもので、作品の構造を理解する一助になるはずだ。
電球についてだが、博覧会に来る客層を考えれば1人に付き精々2,3個も光れば上出来だろうと考えている。これは単純に見ると「自分の祈りには20W程の価値しかない」ことを表しているようにも見える。ただし、僅かでも賢明な観客であれば「数字には表れない価値」というものを感じ取れるかもしれない。祈りの価値というものは単に放出されるアキヴァの量だけで計れるものではない。例え信仰に篤く電球を全て灯せる者がいたとしても、そのような人々ですら内的対話によって自らを省みなければ大切なモノを取り戻すことは出来ないのだ。
実を言うとこの作品は以前ボツとなった企画案「神の家」のオマージュを多大に含んでいる。「神の家」も今回と同じく「祈りの意味」を問う作品になる予定だったのだが、私自身がその問いに答えを出せず、完成には至らなかった。博覧会の盛況を陰から見届けた後で自分なりに考えを巡らせた結果、取り敢えず祈ってみる事が答えを見つける一番の近道なんじゃないかと思い立ち実行してみた。
結論から言えば何の役にも立たなかった。そもそも私は無神論者であり、祈りの対象が存在しないのだからどうしようもなかったのだ。仕方なく次の博覧会のための作品構想を練りながら「海星と酒の残り香」を材料に何か出来ないかと試していた──こういう作業の中で思いがけないインスピレーションを得られる場合がある。次の朝、目を覚ました私は桃色と緑色と雪のような白色の混ざった石を握っていた。どうやら寝惚けているうちに「海星と酒の残り香」を作り変えてしまったらしい。その石を見た瞬間に体中を電流が駆け巡った。
作品のスタート地点で何かを奪い、ゴールでそれを返すとともに新たな「視野」を観客に与えるというのは私が初めて試みるアイデアのはずだが、どこか模倣めいた雰囲気を拭うことが出来ない。もしかすると別の世界では私以外の誰かが同じコンセプトで作品を作っているのかもしれないな。「祈りの役割の1つである内的対話によって失われたモノを取り戻し、祈りの価値は単なる数字で全て表せるわけではないと観客に気付いて貰う」コンセプトを出来る限り崩さず仕上げるのは苦難の道であったが、掛けた労力に見合うだけの完成度はあると自負している。
友人には少々迷惑を掛けてしまったが、彼女もこのような素晴らしい作品に貢献できたことを嬉しく思ってくれるに違いない。機会があればテレパス能力を回復できるような芸術体験をさせてあげるのも一考の余地がある。
宛先: A.R.T
差出人: 後援者パトロン
件名: "信仰は何の為に"について
企画案を読んだよ。確かに以前見せて貰った「神の家」より数段良くなってるというのが正直な感想だ。この手のテーマで神的エネルギー交換炉みたいなアキヴァ源を用いないのは珍しいし、有難いね──流石の僕も聖遺物を用意するのは骨が折れるよ。資金援助や材料の調達についても請け負って良いと思う。それにしても君は随分と芸術家らしい感性を身に着けたんだね。
1つ質問があるんだが、君は「海星と酒の残り香」の石に直接触れていたんだろう。影響を受けなかったのかい?
宛先: 後援者
差出人: A.R.T
件名: Re:"信仰は何の為に"について
メールを見て初めて気付いた。何か、何か大切なモノが失われている。私は芸術の為とはいえ友人を入院させて平然としているような人間では無かったはずだ。何を奪われてこうなった?
宛先: A.R.T
差出人: 後援者
件名: Re:Re:"信仰は何の為に"について
「神の家」の企画案に何かヒントがあるかもしれない。前回送ってもらったものはまだ手元にあるよ。
どうやら君は妹さんから受けた「人は何のために祈るの?」という問い掛けへの答えをずっと出せていなかったらしい。それを知りたくて「神の家」を考案したと書いてあるね。身に覚えはないかい?
宛先: 後援者
差出人: A.R.T
件名: Re:Re:Re:"信仰は何の為に"について
思い出せない……待ってくれ、そもそも私は一人っ子のはずだ。兄弟も姉妹も居た記憶はない。どういうことだ?
家の中で見覚えのないロザリオを見つけた。もしかして、これも問い掛けに何か関係があるのか?
宛先: A.R.T
差出人: 後援者
件名: Re:Re:Re:Re:"信仰は何の為に"について
妹がいるはずだ。君とよく似た顔立ちで、虹色の瞳を持っている。企画案と一緒に写真も送ってくれていたから、それを添付しておくよ。
ロザリオは君たち姉妹が教会で施しを受けた時に貰った物のようだね。「神の家」にはとても大切なものだと書いてあるんだが、覚えていないかい?博覧会や出資についてのミーティングでいつも首に掛けていたじゃないか。無神論者の君がいつも身に付けていたから気になっていたんだよ。
宛先: 後援者
差出人: A.R.T
件名: Re:Re:Re:Re:Re:"信仰は何の為に"について
思い出せない。
寝室のベッドチェアに見覚えの無い写真が置かれていた。両親と私、私とよく似た顔立ちの見知らぬ子どもが写っている。裏側に名前が書いてあった。両親と私の名前、そして「天宮麗花あまみやれいか」。私の知らない名前を持った少女が同じ写真に写っている。
もしかして彼女がそうなのか?
宛先: A.R.T
差出人: 後援者
件名: Re:Re:Re:Re:Re:Re:"信仰は何の為に"について
それが妹さんだよ。君が今までずっと抱え続けていた問い掛けを投げたのは彼女だ。なあ、本当に覚えていないのかい?
宛先: 後援者
差出人: A.R.T
件名: Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:"信仰は何の為に"について
何も思い出せないんだ。私は、彼女の姉なのか?分からない。どうしても他人としか思えないんだ。
宛先: A.R.T
差出人: 後援者
件名: Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:"信仰は何の為に"について
天宮麗花については幾つか情報があるんだ。君が彼女からの問いに答えを出せたなら招くつもりだったからね。分かったのは彼女が財団の職員であり、しかもかなりの高位役職に就いていること。僕が調べられる範囲の情報であったことからして最上格という訳ではないんだろうけど、コンタクトを取るのは困難なんて言葉を幾ら積んでも足りないだろうね。
宛先: 後援者
差出人: A.R.T
件名: Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:"信仰は何の為に"について
病院に行って謝罪してきた。アリシア、彼女はまだ私の事を友人と言ってくれたんだ。なんてことだろう。彼女は姉である(らしい)私よりも天宮麗花についてよく知っていた。曰く、かつての私たちは両親を失いたった2人で生きていたこと(両親が逝ってしまってから孤独に生きてきた記憶はまやかしだった!)。曰く、妹に厳しくしていたがいつも気に掛けていたこと。曰く、塞ぎ込んでしまった妹とどう接すれば良いのか悩んでいたこと。曰く、消えた妹を何日も、何か月も、何年も探し続けていたこと。
背筋が凍るほどに聞き覚えの無い話だった。
宛先: A.R.T
差出人: 後援者
件名: Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:"信仰は何の為に"について
1つ思いついたのだが、作品のコンセプトがきちんと守られているならば「自らの内に宿る神との内的対話」によって「失われたモノを思い出す」ことが出来れば記憶と想いは戻るんだろう。ならそれを実行してみればいいんじゃないか?いや、君にはこの方法は取れないね。
観客が無神論者の場合はどうするつもりだったんだ?
宛先: 後援者
差出人: A.R.T
件名: Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:"信仰は何の為に"について
観客が無神論者の時の為にフェイルセーフを用意してある。
失われたモノが「過去の経験」に基づいているなら、それを記録した媒体を視聴するか、誰か覚えてる者に教えてもらえば思い出せる。
失われたモノが「物品」に基づいているなら、実物を見るか触れるかすれば思い出せる。
失われたモノが「人物」に基づいているなら、直接会うことが出来れば、思い出せる。
私はまだ、何も思い出せていない。
記事構成協力: yzkrt氏、
H0H0氏、notyetdr does not match any existing user name氏、
kskhorn氏、本村 智裕氏
ご協力いただいた方々にこの場を借りて感謝申し上げます。
Voila氏の主催するTouhou Challengeに参加します。使用楽曲は「信仰は儚き人間の為に」です。
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- portal:5875210 (22 Nov 2019 06:43)
98にはあまり詳しくないのですが、コメントさせていただきます(致命的な間違いなどあったら無視してください)。
AWCYフォーマット自体に言えることですが、企画案が『投げかけ』に、それに対するパトロンなどの返答が『答え』になるような構成で作られています。企画案の中だけで投げかけと回答までやる記事もありますが、他のAWCYフォーマットを見ると(特にJPのもの)企画案の後にパトロンとの会話を通じて答えの要素を回収していることがほとんどです。この下書きでは投げかけに対する回答が提示されないため面白くなる構成から外れているものだととらえることができます。この構成自体が失敗というわけではありませんが、一般的な構成から外れているということはしっかりと認識しておかなければならないと思います。
そのうえでこの構成で下書きを面白くする方法を考えると、問いかけをさらに強力にする必要があります。現状の投げかけは「信仰が完全に解明された時代に、なぜ信仰という行為を行うのか?」ということですが、この問いは98カノン特有と言えるものではなく、むしろ科学が発展してきて、宗教の必要性が薄れてきた現実世界でも存在している投げかけのように感じます。現状の投げかけはそれほど意外性のあるものではないので、切り口を工夫したり、投げかけ自体を面白くする努力が必要だと思います。
また、その投げかけの表現方法も直接的であり、意外性が無いように感じます。投げかけの内容が直接的にあらわされているので、芸術集団であるAWCYらしさが薄れているように感じます。芸術面を強調するなら、もっと他の方法で信仰という行為について投げかけを行う作品を作成するのではないかと思います。
御批評下さりありがとうございます。問題点を次のように把握しました。
・フォーマットが一般的ではない
私自身はENとJPのAWCY?フォーマットを読んでから書いているので特に違和感は無かったのですが、意図せずして一般的ではない(フォーマットスクリューやメタタグの付く記事に近い)形になってしまったということですね。
・話がつまらない上に問いかけも陳腐
AWCY?らしさの欠片もない全くCoolさを感じられない方法と、何処かで見たような使い古しのテーマであることを教えていただきありがとうございます。
以上の点から現状のこの下書きが「フォーマットスクリューやメタタグなどの扱いの難しい形式」で「ストーリーも面白くなくテーマも腐るほど見てきたありきたりなもの」な上に「要注意団体の記事であるにも関わらず、その団体に相応しくない描写がメインに据えられている」ことを把握しました。ハッキリ言ってこれはコンセプト段階から作り直す事が推奨されるレベルであり、私の執筆およびアイデア抽出能力を超過しています。
投稿する前に気付かせていただきありがとうございました。
読みました。前より良くなってると思います。メールを見て始めて気づくあたりが割と好みです。ただ、"「神の家」の企画案"を見ていない大半の読者からすると、「なんでも知ってるパトロンが急にやってきて謎の妹を生やした」に見えてしまう気がします。前企画案についてどこかで意図で説明する、あるいは「自分で前企画案を見て思い出す(≒前情報のない読者は、自分と同等に情報を持たない天宮帝華と同じペースで情報を得ることができる)」にしたほうがよさげです。
それと「色のない迷路」のくだりなんですが、「博覧会の作品目録を調べても同じような作品はこれまで無かったのに、まるで過去に聞いた作品のアイデアを使っているような感覚を覚えてしまう」だとおそらく消えた記憶の一件絡みと誤読する人が出そうです。「世界が違うけど似た作品がある」くらいでいいかもです。
・作品案に関しての色々
「私はまだ、何も思い出せていない。」なんですが、「何を忘れたのか把握すること」と「思いだす事」はイコールではないという事でいいんですよね? 「祈り」によって思いだせるのはどのレベルなんでしょうか。そのあたり、明確だといいかもしれません。(個人的には「祈れば即座に全てを思いだせる」というのもそれはそれで別の"自明な機構"に祈りが変化してしまっているのではないか、と思わんでもないですが……)
それとこれは興味なんですが「12個の円形の台座」って何かの意図があったりするんでしょうか? 作品として「どのような意図によってどのようなビジュアルになったか」が明確だとより芸術作品の企画案っぽさが出ていいかなと思ったりしております。
御批評頂きありがとうございます。
「何でも知ってるパトロンが急にやってきて謎の妹を生やした」ように見えると仰られている部分を除いて改稿を行いました。
パトロンの部分については現状のストーリーラインを崩さずにどのような形で改稿を行えば良いのか理解できなかったため保留とさせていただきます。申し訳ございません。