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雲一つない晴天の下で一人の男が埋葬された。
「死」の亡くなったこの世界ではあるが肉体の劣化を恥じて事前に「遺書」を残す人も少なくない。
彼もまたそのような内の一人だった。
「まさか幸太郎が埋葬してくれなんていうたあ思わなかったわ」
棺に土がかけられる様子を眺めながら老人が呟く。
「それがあいつの願いなら笑って見送ってやろうや、松さん」
喪服姿の老人が呟いている松を諭す。
「そうじゃな、棺んなかにあいつの好きだったもんも一杯入れてやったし、退屈せんじゃろうしな。ハハハ」
「松さんと陽介さんは何を入れたのかしら?」
老婆が二人の男に尋ねる。
「おお!サチさん!ひさしぶりじゃのう、ワシらか?ワシはあいつの好きだった本を全部入れてやった」
「ワシは幸太郎の好きだった菓子類をたんまりとな」
「ところで、サチさんは何を入れたんじゃ?」
「ワタシですか?それは、秘密です。当ててみてください」
老婆は微笑む。こんな光景が彼-幸太郎-の棺が埋葬されていく傍らでいくつも繰り広げられていた。
彼は人付き合いというものが大好きな男で、都合が悪く来れなかった者も数えると友人は100000人を超える。これは彼がスマートフォンを使いこなし、他人を喜ばせることに長け、性格も良かったゆえである。
「幸太郎、ワシらはおまえんことをずーっと忘れんから安心せえ、息子や孫もおまえんことをちゃんと覚えてるからな。そこでも幸せに過ごすんじゃぞ」
松は完全に見えなくなった幸太郎の棺に向かって別れを告げた。
彼らがその場から立ち去り、そこには棺の中の老人以外だれも居なくなった。
棺の中は電脳のもたらす光に照らされ明るかった。
このような棺には通常自動メンテナンス機能がついており、防腐装置やその他の機器をわざわざ棺を掘り返して点検する必要が無くなっている。
彼はそこで本を読んでいた。
彼は棺に入れられた本を読み尽くすと音楽を聞き始めた。防音、防虫処理の施された棺には蛆虫の入る隙間もなく快適だ。
突然音楽が消え棺は闇に包まれた。どうやら電源が故障したらしい。しかし彼は狼狽えなかった。こういう場合は一度棺が掘り返され損傷が酷いときは取り替えが行われるということを知っていたからだ。
特に気にすることもなく菓子を食べ始めた。
棺の中の菓子を全て食べ終えても棺が掘り返されることは無かった。
彼は無意味だとわかってはいたが呼び掛けずにはいられなかった。
しかし彼の喉は音を発することができなくなっていた。
棺を静寂が包み込む。
彼が発狂するまでそう長くはかからなかった。
人は完全な闇にさらされ続けると容易に正気を手放す。
彼は無限に続く狂気の中であることを思い出した。
友人の一人が教えてくれた。忘却の街の噂を。
そこは忘れ去られた人やものが流れ着く場所だという。
彼はそこに行けるよう祈ろうとして自分の手がもはやその用をなすことができないと気付いた。
彼は腐った肉の檻の中で祈り続ける。
世界の誰もが自分を忘れ去ることを。
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ジャンル
アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:5875210 (22 Nov 2019 06:43)
内容について
ストーリーラインは良いですが、最後の流れが妙にあっさりし過ぎている印象です。三人称視点のため難しいところですが、暗闇の様子、パラグラフを小分けにして徐々に腐敗する描写をもっと濃密にするとより良くなるかと思います。
疑問点
自らの意思で埋葬を望んだとのことですが、死の終焉世界には脳移植という技術が存在するため、そうする理由が乏しいように思います。元の肉体のままでいたかった理由について説明補強すると良いかもしれません。
morelike さん ありがとうございます。
最後の流れが妙にあっさり<棺の中や主人公の肉体が衰えて行く様子についてもっと細かく描写しようと思います。
自らの意思での埋葬、脳移植<おっしゃる通り何らかの理由付けが必要ですね。