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(今週はいつ眠れるのでしょう)
処置室前の廊下で女は気怠そうに息を吐く。パンツスーツに白衣の仕事着は、多忙な彼女にとって普段着と大差ない。天宮麗花は深夜に発生した監視システムのトラブル対応を終えて間もなく、今度は医療部門の剖検センターに呼び出されていた。
(これが例の肉塊ですか)
玉虫色の双眼は解剖台に鎮座する赤い楕円形の物体へ向けられる。近頃、このようなものが各地のサイト周辺で発見されていた。目立った異常性は無いが、詳細な検査前に何処かへ移送されるため職員たちに不思議がられている。
(ただでさえ日本支部は人手が足りないと言うのに)
財団の規模と技術から考えれば人集めはそれほど難しくない。問題は、発見されるアノマリーの数に雇用が追い付いていないことだ。天宮の知り得る範囲で実施されている幾つかのプロジェクトは、問題の根本的解決に繋がるタイプではない。そんな状況に対し、天宮は解決策と野心の両方を備えていた。
(彼らが文句を付けさえしなければ、クローニングは採用されるはずだった)
優秀な職員を複製すれば新規雇用が少なくとも問題にならず、記憶関連技術は財団の得意分野だ。天宮が立ち上げた研究チームは優れた実績を示した。しかし、クローニングにはエラーという課題があった。エラーの発生確率は稀であっても、異形の姿と驚異的な身体能力を持ち、施設に多大な被害をもたらすエラー個体の性質が採用の壁となった。
培養初期にエラー個体を判別・処分する方法が判明したことで日本支部理事会は採用を決定したものの、そこに倫理委員会が待ったをかける。彼らは、天宮がクローン技術に関わることを快く思っていないようだった。
(倫理委員会への秘匿を理事会に要請し、複製の量産を始めることも視野に入れるべきか)
物思いに耽っていた天宮は、青い手術衣の男に気付き声を掛ける。
「アレの回収地点はどこでしょうか」
「処置室です」
「……詳しい説明をお願いします」
証言によれば、肉塊は彼が出勤した時すでに解剖台へ置かれており、職場の誰もそれに見覚えはなかったという。
(見た目や大きさは各地で発見されているモノと一致。ですが、サイト内部に出現したなんて話は記憶にありません)
情報をまとめていた時、白衣のポケットが震える。取り出した端末には資料付きのメールが届いていた──発信元のアドレスに見覚えはない。端末のフィルターは危険要素を検出していないものの、中身を見るべきでは無いと本能が警鐘を鳴らしている。だが、天宮は本能を理性で抑え込める人間だった。
手順ラザルス-03に基づく調査報告書/81管区版
取得物ナンバー: LAZ-2000-03-401
ステータス: 捜索中(一部)
クリアランスレベル: 4/2000
発見地点: 徳島県神山町高根山 地下空洞
説明: LAZ-2000-03-401は、財団のレベル4職員 天宮博士と遺伝的に同一の実体です。取得物の総数は、本稿執筆時点で計数が完了しておらず不明です。外観は直径約70 cmの楕円形、表面は生肉のような質感をしています。取得物は接触している電子機器を操作可能です。どのような機序によって操作が行われているのかは明らかになっていません。
LAZ-2000-03-401は、過去100年以内のいずれかの時点で放棄された財団の地下施設で発見されました。内部記録によれば、施設は財団職員の不足を解消する目的で稼働していました。施設内には、ブライト/ザーション式と設計思想の異なるヒト科複製機、記憶埋め込み機能を有する設備が存在します。
施設の大部分が取得物と同様の実体で埋め尽くされていた点については、複製機の破損に起因する説が有力視されています。根拠として、施設内に残されていた銃撃戦の痕跡と内部記録が挙げられます。分析の結果、交戦者は双方ともに財団の機動部隊であると結論付けられました。
事案LAZ-2000-03-401: 取得物を秘匿サイト-08へ輸送中、コンテナ-02を運搬していた無人輸送機のコントロールが奪取され消息不明となりました。取得物による干渉が疑われるものの、コンテナの概念障壁が突破された形跡はありません。ログの調査では、正規の上位権限による管制システムへのオーバーライドを実行した痕跡が確認されました。
衝撃的な情報を叩きこまれ、早鐘を打つ心臓と阿鼻叫喚の心から思考を分離した。心配そうに声を掛けてくる男を意識の隅に追いやり、飛び込んできた事実を冷淡に分析する。
(各地で見つかる肉塊は逃げ出した取得物なのでしょう。検査前に移送されているのは情報規制ですね。しかも、どうやら一部の集団か個体は財団の上位アクセス権限を持っていると。まさか監視システムのトラブルも……そうなると、私の前にいる肉塊が資料を送ってきた可能性が高い。では、いったい何の目的で?)
思考のさなか、天宮は視界の端に光を捉える。顔を上げた彼女の視線の先で、肉塊は煙をあげて全体の半ばまで溶け出していた。その表面には突き出た板のような物が見える。目を凝らせば、それは薄ピンク色の粘液で覆われた端末だった。
「そういうことでしたか」
画面を見た天宮はポツリと呟く。端末は取り出す間もなく肉塊と共に溶けてしまった。
天宮が何を見て理解したのか、それは本人にしか分からない。確かなのは、彼女が指揮を執るクローニング研究チームにおいて、エラー個体の性質を抑制する人道的手法の開発が大きな進展を見せたということだ。
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- portal:5875210 (22 Nov 2019 06:43)