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物語の要約
起
(幽谷視点)
幽谷の見ている悪夢(反ミームの怪物に襲われて半身を食い散らかされている様子・サイトに帰還するも、誰にも気付かれない様子・Dクラスに記憶補強薬を投与しての認識回復を図るも、全てが失敗して絶望する様子)
幽谷を呼ぶ声(……ちゃん……ナちゃん……ヒナちゃん!)
承
(幽谷視点)
目を覚ますとそこはベッドの上で、心配そうに私を覗き込んできる女性──エージェント時代の後輩である「彼岸 蓮華」今は私の保護者でもある──の顔が視界に入った。彼女を安心させるために笑顔を取り繕う。「大丈夫、ちょっと夢見が悪かっただけだから。それと……起きたいからちょっと離れて欲しいな」
心配そうな顔を今度は疑わし気に歪めた彼女だが、それでも私から少し離れてくれた「前もそんなこと言ってたじゃないですかぁ、ホントに大丈夫ですかぁ~?」本心で私を心配してくれていると語気から伝わってくる。記憶に残る口調とは明らかに異なる彼女の独特な喋り方に最初は戸惑いこそしたものの、優しく思いやりのある心根が変わっていなかったことを嬉しく思う。
「ごめん。でも、本当に大丈夫だから」
「むぅ……解りましたぁ。それじゃあ資料と本を置いておいたのでぇ。一階の資料庫を後で確認してください~」彼女が肩を捻ればコキコキと子気味良い音が鳴った。
「いつもありがとうね、蓮華ちゃん」彼岸は私の身に現在進行形で起きている異常事態を究明・解決するために、財団から反ミームと霊的実体に関する資料のコピーを持ち出してくれている。流石に最新の研究成果となると監視の目が厳しくなってしまうらしく、数世代前の研究資料になるのだが、それでも全くの打つ手なし状態よりは遥かにマシだった。
彼岸が届けてくれるのは資料だけではない。研究が詰まってしまった時の息抜きの為と言って、大量の古本を持ってきてくれる。彼女の趣味なのかちょっと内容が子供向けなところがあるけれど、今の私にとって救いのある御伽噺は慰めになった。
「……あんまり根を詰めすぎないでくださいねぇ?時間は幾らでもあるのですからぁ、ゆっくり研究を続けてください。私も出来る限りお手伝いしますから~」青白く半透明な私の手に、彼女の手が重ねられる。霊体になってしまった私には体温こそ感じられないものの、きっと重ねられた手は暖かいのだろう。孔雀石のはめられた指輪は彼女に良く似合っている。
「うん。それじゃあ今日もお願いしちゃうね。来てくれてすぐで悪いけど、資料を整理しようと思うの」
「了解ですぅ~」にこやかに微笑んだ彼岸の顔が、とても明るく輝いて見えた。私にとって唯一の光。私を唯一見てくれる存在。自分で思っているよりも、彼女と言う存在は私にとって大きなものとなっているのかもしれない。いや、確実にそうなのだ。ただ、ほんの少し残っている先輩としてのプライドと、1本の柱に全てを委ねる事を危険に思う心の冷静な部分が認めていないだけで。
彼岸が届けてくれた資料を分類して資料庫に加えた後、軽い休憩を挟んで私たちは反ミームと霊体に関して意見を交換した。資料としては持ち出せずとも、彼女が見聞きした最新の研究成果と私が届けられた資料から組み上げた仮説を比較すれば、少なくとも完全に間違ったものは切り捨てることが出来る。そうこうしているうちに、その時刻はやってきた。
「あぁ……すいません。そろそろ戻らないと~」腕時計を一瞥して残念そうに声を上げる彼岸を見ると、明日までの孤独な時間を考えて胸が苦しくなる。
「う、うん……そうだね。そうだよね!今日もありがとう!また明日お願いね!」無理矢理にでも笑顔を作り、彼女を見送るために席を立つ。こうでもしなければ、私は幼子のように泣きじゃくって彼女を引き留めようとしてしまうだろうから。
玄関までやって来たところで、私は以前から彼女に提案しようと思っていた事を伝える。以前にも伝えて却下された案なのだが、孤独への恐怖が合理的な判断を上回った。
「ね、ねえ。私さ、外に出ちゃダメなのかな。どうせ誰にも見えないんだし、ほんの少しくらい……」外出して街に出れば、少なくとも完全な孤独にはならない。例え自らの存在が誰にも気付かれないとしても。
「先輩、前もお話ししましたよね。どうして外に出ちゃダメか」静かに語気を強める彼女の様子を見て、私は自らが失敗したという事実を悟る。深い後悔が胸に去来するものの、既に取り返しがつく状態では無かった。
「ねえ!どうしてそんなこと言うんですか!?私は先輩のことが心配で心配で言ってるのに!連合の連中に見つかったらどうするんですか?あいつらが財団の技術を超えた探知装備を持ってたら先輩殺されちゃうんですよ!解ってますか!?それに、もしまた反ミームの怪物におそわれたらどうするんですか!?そんなことになったら、先輩今度こそ完全に消えちゃうんですよ?そうなったら、私は、私は……」顔を真っ赤にして私の胸倉を掴み、何度も揺さぶる彼女を見るうちに私の心は後悔と自己嫌悪で満たされていく。また、やってしまった。
胸元に顔をうずめ泣きじゃくる彼女の頭を撫でているうちに、外に出るよりもよっぽど良い孤独から逃れる術を思いついた。「ねえ、今日だけ。今日だけで良いからさ、一緒に寝てほしいの。そうすれば外なんて行かないから」顔を上げた彼岸は私に告げる。「その前に、謝ってください。そうしたら考えてあげます」
「ごめんね。もう二度と外に出たいなんて言わないから。一緒に夜を明かしてほしいの」
「……解りました。だけど、寂しくなったら隠さず教えてください。毎日は無理ですけど、出来る限り一緒に居てあげますから」
「ありがとう!」二人で使うには狭すぎるベッドで一夜を明かした後、彼女はサイトに帰っていった。
転
サイト-8199の廊下をふよふよと漂う
結
彼岸 蓮華がサイト管理官に報告書を提出している。
「こちらが以前ご報告したSCP-██-JPの報告書です。詳細を記せぬことをお許しください」
「問題ない、私自身こういったアノマリーを取り扱ったこともあるからな。報告書の内容についての質問で困ることがあれば私の名前を出してくれて構わん。それで相手も察してくれるだろう」
「ありがとうございます。それでは失礼します」彼岸は一礼して管理官に背を向け、扉に歩を進める。
「それにしても、情報認識がトリガーの異常性というものは本当に厄介だな」管理官の放った言葉は彼岸への問いかけというよりは、独り言に近いものだった。
「私もそう思います」自らに背を向けたまま返答した彼岸の口許が緩んでいることに、管理官は気付かなかった。
彼岸 蓮華が提出した偽の報告書(敵対的な霊的実体が存在する廃墟、反ミーム性(本当)と情報の認識をトリガーとする異常性質(虚偽)を有している。その性質からオブジェクトの情報は彼岸のみが記憶している。フロント企業を通じて土地を買収し、周辺を封鎖した上でカバーストーリー「取り壊し予定地」を流布)
昔のように同僚達と過ごしたいというささやかな願いは、暴力的な独占欲に踏みにじられ決して叶うことは無い。
囚われのヒナは救済を信じ、答えの無い問いに挑み続ける。己を閉じ込める鳥籠と、その主にも気付かぬまま。
(本文ここまで)
見どころ
登場キャラクターの簡単紹介
彼岸 蓮華: おっとりした性格の幽霊職員。気の抜けるような話し方が特徴で、甘味が大好物。
幽谷 陽菜: お人好しな性格の幽霊職員。ただし、とある出来事のせいで殆どの人物から認識されなくなっている。また、その影響で若干投げやりな言動を取ることもある。
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絶望
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アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:5875210 (22 Nov 2019 06:43)
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