アラクネ

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2009年7月10日 サイト-8181作戦会議室

清潔感溢れる白で統一された部屋には複数のベテランエージェントと1人のSCL14職員が集まっていた。

「今回あなた方が招集された理由を説明します」

部屋の奥に下げられたスライド横の椅子から立ち上がった女性が語り始めると、虹色の瞳が光を反射した。彼女の瞳は見る者に非人間的な印象を与える。

「先日、ある要注意領域の管理者と取引が行われました。内容については省略します。結果として、財団は領域内のヒューマノイドアノマリー1体を引き取り保護下に置く、管理者は財団からの内部調査を受け入れるという内容で合意しました。保護対象は──」

冷房が効いているためか、7月だというのに部屋は涼しい空気に満たされている。しかし、女性の語った話から推測できる背景はエージェントたちの気分を悪くするのに十分だった。

「なお、本作戦は管理者によって依頼されたものであり、対象は潜在的な犯罪的性質を抱えています。そのためハドソン川協定への違反には当たりません。以上で説明は終了となります。質問のある方はいらっしゃいますか?」

幾つかの質問がなされるが、作戦の背景を詮索しようとする者はいなかった。財団で過ごすうちに、知ったとしても意味の無い情報があることを理解してしまっていたのだ。知らされないことに慣れてしまえば、裏にどのような事情があろうと関係なく任務をこなせるようになる。必要な情報が与えられるということは、裏を返せば与えられなかった情報は不必要ということだ。


2009年 7月10日 神奈川県土隠町白屋敷 大村 佐紀

専属メイドの朝は早い。主よりも早い時間に起床し身支度を整え、定められた時刻には主の部屋で起床を待ち、起きそうになければ自らの手で起床を手助けする必要があるからだ。私の主は定められた時間に起きることが殆どなく、起床を手助けするのが常になっている。

「茜様、お時間です。お目覚め下さい」

私の主は陶磁人形のように白い肌と絹のような手触りの黒髪を備え、寝姿でさえ絵画かと錯覚するような気品を醸し出している……わけではない。寝相の悪さのせいで髪もシーツも滅茶苦茶で、折角の美しい容姿が宝の持ち腐れになってしまっている。

「ううん……あと少しだけ……10分くらい……」

「なりません。そういって1週間前に1時間まで延長してご遅刻成されたのをお忘れですか?」

「いいじゃん……学校とか行かなくても……」

「……承知いたしました。引き続きご就寝下さい」

「やった……」

「ただし、本件は京格様に報告させていただきます」

京格様──この屋敷の主にしてお嬢様の御父上でもある──の名前を出した途端に、お嬢様は被っていた毛布を跳ねのけ、黒髪を振り乱し、真っ赤な瞳を大きく開けて私を見つめる──心なしか瞳が潤んでいるように見えた、気のせいだろう。幼少期からお嬢様の下で仕えるために教育されてきた私は、彼女が唯一恐れる存在を把握していた。最も、屋敷の人間なら全員が把握していると言っても良い程周知の情報ではあるが。

「解った。じゃあ服着せてよ、佐紀」

「承知いたしました」

手触りの良い黒のベビードールを脱がせ、黒のランジェリーとブレザーを着せる。自分でも着替えられるというのに、彼女は機嫌が悪い時に着替えを私に任せる。他のメイドに聞いてもそのようなことをさせられた者はいなかったので、ある程度は信頼されているのかもしれない。単なる戯れか嫌がらせという可能性も無いわけではないが。

「ありがと。それにしても、この服ってのは面倒よね。人間の体毛がちゃんと機能していればこんなものなくても体温を保てるのに」

「ただでさえお体が丈夫ではいらっしゃらないのですから、どうかご自愛くださいませ。食前のお薬でございます。どうぞ」

お嬢様は産まれながらにして体が弱く、初めて会った時もベッドに身を横たえて本を読んでいた。学校に通えるまでに体が強くなったことは喜ばしいが、それでも運動系の科目は原則として見学である。薬を飲みそこねた時の発作は目を背けたくなるようなものだった。赤黒く染まる純白はもう2度と見たくない。


階下に降りて食卓に就いたお嬢様を給仕担当に任せ、2つの弁当箱を厨房のシェフから回収し、与えられている自室でブレザーに着替えてから鞄を2つ準備する。昨日の夜の時点で弁当箱以外の中身は入れておいたので、朝は中身に過不足が無いかのチェックに時間を割く。問題ないことを確認し終え、玄関に鞄を持って行き、そこでお嬢様を待つ。

「なんかいつもよりデカい鞄ね。何かあったかしら」

「本日は町外での学習が行われます」

「そういえばそうだったわね。どこ行くんだっけ」

「横浜に御座います」

「ああ……まあいつも通りやっといて。肉袋どもに手を出さない様に気を付けるから」

「承知いたしました」

私はお嬢様と同じ学校に通い、学校や学友に興味を持たない彼女を補佐するという役目も与えられている。

「再三申し上げますが、屋敷外でそのような言葉を用いて他人を表現することはお控えください」

「解ってるわよ。まったく……"マトモ"に振る舞えばいいんでしょ?」

「仰る通りでございます」

お嬢様は京格様以外の人間を「肉袋」「肉袋ども」とお呼びになることがある。ただし、屋敷の中で何らかの要求を行いたい場合や、普段から側にいる人物──主として私──は利便性の面から名前で呼ばれる。当主である京格様直々の教育の結果、外部でその呼称を使わないように一応気をお使いになられているが、感情が高ぶったりするとすぐに口にしてしまうようだ。

「茜、もう行くのか?気を付けて行くんだぞ」

玄関ホールの階段の最上部から現れた人物にその場にいた全ての使用人が頭を垂れた。白屋敷の主であり、土隠町の管理者でもある土隠 京格様だ。

床を見つめていると、肩に重さが加わる。手を置かれているようだ。

「佐紀よ、茜のことを頼むぞ」

「お嬢様へ危険が及ばぬよう務めさせていただきます」

「うむ、しっかりやってくれ。さて……そろそろ茜がうんざりしてしまっているようだから、行きなさい」

肩から重さが離れ、階段を上がる音が消えた後で顔を上げると、お嬢様がしかめ面で私を見つめていた。

「行きましょう」


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