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純白の内装に映える高級感と機能性を両立した黒檀のように上品な色合いの椅子に腰掛ける1人の女性がいた。机には数枚の書類が重ねて置かれている。女性は霞む目を擦り、気持ち温くなってしまったコーヒーを啜った。口に広がる苦みが心地よい。少しだけ目の覚めた彼女は一番上の書類に視線を移す。そこには月末の殉職者一覧が記されていた。
部屋の主──天宮麗花は思考する。ここに今から1名加えたところで、大した支障は生まれないのでは?と。その考えはすぐ一笑に付された。余りにくだらない思考に頬を赤らめつつ、記された名前の持ち主たちに思いを馳せる。しかしながら、紙面に書かれているのは個性が極限までそぎ落とされた情報であり、その人物が過ごしてきた時間、出会ってきた人々、最期に抱いていた想い、全て知ること叶わない。それに気付いた彼女は再び思考を転換することにした。
真っ当な人の生には少々長すぎ、化け物と呼ばれるにはあまりに短い生の中で出会ってきた人々について。
「よろしくお願いします!」
私に報告書を提出した新人エージェントは若々しかった。表情こそ強張っていたが、瞳からは炎のように熱い意志が感じられた。あまりにも強い意志が感じ取れたことが気になって尋ねたところ、妹の命を奪ったアノマリーを捕らえ、同じような被害にあう者を少しでも減らしたいのだと話してくれた。
1年も経たず彼は殺されることとなった、因縁の相手とは何の関係もないアノマリーによって。彼の犠牲によって救われた民間人は写真で見た彼の妹に似ていた。
「いやあ、まさかこんな陰謀論みたいな組織が本当にあるとはなあ……そんでもって、俺がそこに参加することになるなんてねえ」
実験後のインタビューを終えた後に、オレンジのつなぎを着た男は私にぼやいた。男は悪運が強かったのか、その後も度々インタビューなんかで顔を合わせることになった。当然のことながら相手は私を覚えていない。何回も初対面の対応をされるのは新鮮で、悪い気はしなかった。
2年後に異常空間への調査に志願した男は最終的にMIAと判定された。
「……立てる?」
瓦礫散らばる部屋で手を差し伸べてくれたフルフェイスヘルメットの彼女は、常に感情を抑えた振る舞いを見せていた。機動部隊のメンバーというのは非常に優秀な職員によって構成されているが、派遣される状況も過酷である。当然、隊員の何名かが未帰還になることもあった。それでも彼女が毅然とした表情を崩したことは1度足りとて無かった。
8年後に彼女は財団を退職した。目の周りについていた真っ赤な跡は、彼女の心が耐えきれなくなったことを黙して語っていた。「何があったんですか?」吐きかけた言葉を飲み込んで、小綺麗な挨拶で別れを告げた。
「失礼します!」
扉をノックする音で現実に引き戻された天宮は、部屋に入ってきた見おぼえの無い人物を値踏みするように眺めていたが、何かを思い出したような顔をすると紙をめくりあげ2枚目の書類に目を通した。そこに貼り付けられていた写真は眼の前の人物と同じ顔をしている。
「本日より配属されました彼岸です!よろしくお願いします!」
凛々しい表情にハキハキとした口調、書類に記されていた通りのとても真面目そうな女性を前にした天宮は笑みを浮かべ、内心をおくびにも出さず返答した。
「ええ、よろしくお願いしますね。彼岸 蓮華さん」
彼女はどれ程もつだろうか。
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ジャンル
アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:5875210 (22 Nov 2019 06:43)
財団にもいろんな人間がいるんだなと思ったので投稿されたらUVすると思います。「彼は昇進した。」のところはWikidotだからこそできる表現方法で、これも面白いと思いました。
しかし、これ天宮麗花じゃなくても良くないか?と思いました。
参考程度にお願いします。
了解しました。御批評くださりありがとうございます。