Tale案(没)天宮

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今日、人類の守護者が1人膝をついた。

「みなさん、これまでありがとうございました。新人で右も左も分からなかった私を熱心に指導してくれた先輩方のおかげで……」

齢60を超えるであろう男の目には深い傷がついており、相当な修羅場を掻い潜ってきたのだとわかる。そんな彼の先達への感謝と後輩を激励するスピーチを、一人離れた場所から詰まらなそうな顔をして聞く女性がいた。天宮麗花である。彼女がその男のスピーチに抱いた感想はハッキリと言ってしまえば「詰まらない」である。彼女はこれまで何度となく同じようなものを聞いており、最初こそ涙を流したりしていたものの、最近ではもう飽き飽きしていた。同僚や部下たちには「体調が悪く、みなさんの邪魔になってしまうかもしれないので残念ながら目立たない位置で拝見します」と話してある。

男のスピーチが終わり、男の後を継ぐと目されている若いエージェントが花束を手渡す。花の名前や種類はどれも一級品であり、相当手間をかけて作られたのだと解る。これから財団を退職する男はそれだけ皆に好かれていたのだろう。

男を見送るための引退祝いパーティーも終了し、皆がそれぞれの寝床に帰る中、天宮はパーティの主役だった男に声を掛けた。男は意外な相手との遭遇に驚きを隠せない表情である。

「すみません、遅効性記憶処理を受けた後で良いので私の部屋に来ていただけないでしょうか?誰にも知らせず」

「構わない。だが、要件が気になるな」

「他の方がいらっしゃらない場所でお伝えしたいことがあります。どうか、ご内密にお願いします」

暫くの逡巡はあったものの、男は天宮の依頼を承諾した。

「それではお待ちしております。とても驚かれると思いますよ」

「楽しみにしておこう」


深夜2時、いくら多忙な財団のサイトとはいえ、この時間帯には殆どの職員が眠りについている。一部のシフトは夜を明かすことになるが、彼らは昼にタップリと睡眠を取っている。

遅効性記憶処理を受けた男は天宮の自室に辿り着く。ノックと応える声の後扉が開き、天宮が男を迎え入れた。


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