Better than me Part.1

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報告


日付: 2020/12/01

概要: 天宮博士の複製個体定期検査において特殊な遺伝子を有している個体を発見いたしました。当該個体は現在精密検査のためサイト-81MCへ移送されています。当該個体との比較評価のため、天宮博士を同サイトへ派遣するようよろしくお願いします。

発信先: サイト-81██管理官様

発信者: ███博士


「こんにちは、私」

「こんにちは、トゥエルブ」

自分そっくりの顔をした人間に挨拶するというのはとても奇妙な感覚だ。ドッペルゲンガーというものに出会った時、私は恐怖よりも先に困惑を覚えるだろう。スワンプマンでも同じだ。私の場合はスワンプウーマンかもしれない。

「どうして呼ばれたかっていうのは、まあ私のことなんだけどそれについては聞いてる?」

「ええ、既に」

サイト-81MCに送られた私はその場で要件を聞かされた-曰く、特殊な遺伝子を持つ複製体クローンが発見されたらしく、オリジナルである私と比較して差異を見つけるのが目的らしい。

「いやーそれにしてもビックリよ。お仕事の為に起こされたのかと思ったら頭のてっぺんから足の先まで調べまわされた挙句、暫く軟禁状態なんだもの。酷い話よねー」

「災難だったわね。同情するわ」

「なにそれ、冗談でしょ?」

「当然、財団で働いてたらもっと酷い事なんて幾らでもあるもの」

トゥエルブと会話しているうちに相手がただのクローンでは無いということを理解する。性格が明るすぎなのだ。私と同じ記憶を持つクローンは、その陰惨な思い出から大体暗めの性格になる。もちろん職場では明るく振る舞っているが、クローンや一部の人物の前では何も繕わず自然体で話す。必然的に雰囲気は重苦しいものになるのだが、異質なことにトゥエルブは陽気さを保っている。天宮はそこに違和感を覚えた。

「まあいいわ。検査が終わったら記憶処理してどっかで誰かの手伝いでもすることになるでしょーから、それまでのお付き合いねー」

「……そうね」

トゥエルブの言う通り彼女と天宮が再び鉢合わせる可能性は限りなく低い。そのため、天宮は違和感を遺伝子異常による誤差なのだと結論付け自分を納得させた。


「どういうことですか?」

絵馬村サイト管理官に呼び出された天宮は驚愕の表情を浮かべていた。

「はあ……同じことを何度も言わせないでくれないか?君の運用を終了し、新たにトゥエルブを基幹モデルとしたセカンドステージシリーズの運用を開始する。これは理事会決定だ」

言葉をきちんと飲み込むことが出来ない。内容を上手く理解することができない。心拍数が上がり、呼吸が荒くなる。

「どうして、ですか?新規クローンの生産には莫大な費用が掛かります。それに、それにバックアップされている私のメモリーはトゥエルブのクローンに適合しないかもしれません、それらの問題は-」

サイト管理官が手で発言を制した。

「君のメモリーは廃棄し、新たにトゥエルブの記憶を元にしたバックアップメモリーが生産される。その点については安心したまえ」

天宮は目を限界まで見開いた。私の記憶が、廃棄される?

「クローンの新規生産に掛かる費用は君のモデル、即ちファーストステージシリーズを生産した時に比べ、格段に抑えられるようになっているのだよ、技術進歩の賜物だな。それに、トゥエルブは君と比較して非常に高いパフォーマンスを発揮している。身体能力、知能、どちらも君の150%増しだ。メンタル面においても同様で、カウンセラーによれば君から受け継いでいるはずの歪な精神性が解消され、非常に安定した精神を確立しているらしい。元クローニング技術研究者である私も確認したが、素晴らしいものだったよ。トゥエルブの性能は」

いつの間にか手が、足が、唇が震えていた。反論しなければならないはずなのに言葉が出てこない。

「まあ、解りやすく言うとだな。君はお払い箱なんだよ、天宮博士。いや、元天宮博士と言うべきか。人事ファイルも運用開始と同時に更新されるのだから」


何故だ。何故私がこのような扱いを受けなければならない。

決まってるでしょ、私たちより優秀な奴が出てきたから、そいつに引き継ぐだけ。いつも通りじゃない。

違う、違うぞ。私のメモリーが廃棄されるということは、人格があいつになるということだ。記憶が同じでもあんなのは別人だ!私ではない!

別にいいじゃない。ようやく憩うことが出来るんだから。今まで生きてきて、楽しい事より苦しい事の方が多かったじゃない。ようやく解放されるのよ?地獄のような世界から。

それは……。

別に今すぐ殺されるってわけじゃないんだからさ、落ち着きなよ。次に死んだ時に戻ってこれないだけ、ちょっと永い休暇みたいなもんなんだから。

いやだ。

……。

いやだいやだ、わたしはきえたくない。まだなんにもなしとげてない。これじゃいちばんになれないおねえさまにほめてもらえない!

何ガキみたいなこと言ってるのよ。姉さんは私のことなんてとうに忘れてるわ、きっと。

……きえたくないよぉ。

そりゃ、私だって消えたくないわよ。でもねえ、あれのデータを見たでしょ?あれは私なのに私よりも遥かに優秀でキチンとした心を持ってるのよ!こんな歪なものじゃない、独立した確固たる心を。だからさ、どうしようもないじゃない。

う、うう……。

私だって泣きたいわよ。


天宮が目を覚ますと見知らぬベッドと枕が視界に入る。起き上がって周囲を見回せば、持って来た旅行カバンが部屋の真ん中に転がされ、白衣が椅子に掛けられている。枕に染みがついてしまっているのは、戻ってきてすぐベッドに突っ伏して泣き、疲れでそのまま寝てしまったというのがしっくりくる。

手を伸ばして枕もとの携帯を取り時間を確認する。AM4:30、なんとも中途半端な時間に起きてしまった。二度寝するには遅すぎ、かといって勤務開始時間までは間がある。

「喉、乾いたな……」

生理的欲求に意識を向けることで目の前の問題から目を逸らすことにした。


サイト-81MCの廊下は虚ろな目の人間たちで溢れていた。皆一様に腕を突き出し、唸り声をあげ彷徨っている。そんな中、確固たる意志を秘めた瞳で亡者たちの間を縫うように進む者が1人。虚ろな目の者たちは彼に気付くことは無い。少し足を止め、カウボーイハットを整えた彼は歩みを再開する。


自販機で飲料水を買い終えた天宮は帰り道でソレ・・に出会った。

「こんにちは、私」

「トゥエルブ、どうしたんですか?こんな時間に。それにその方々は?」

唐突に姿を現したトゥエルブは周りに様々な職員を引き連れていた。白衣の研究員、オレンジのつなぎのDクラス、青い制服の清掃員、スーツ姿のエージェント、彼らからは何処かおかしな雰囲気を感じたため、天宮はほんの少しだけ後ずさる。

「こいつら?不適合者共よ」

「不適合者?あなた何を言って-」

その時、天宮の視界は突如天井に向けられる。地面に押し倒されたのだ。咄嗟の出来事に反応しきれず、拘束を振りほどこうともがくが抜け出すことは叶わなかった。単純に相手の押さえつける力が強すぎる。

「ぐ……」

骨を折らんばかりの万力に堪え切れずうめき声をあげる。彼女には体術の心得があるものの、力の差が大きすぎて効果を発揮できていない。

「まあ落ち着いてよね、別に今すぐ殺そうってわけじゃないんだからさ」

「あなた、気でも狂ったの?それともアノマリーに頭をやられちゃった?」

「答えはどちらも不正解でーす!私は最初からこうするつもりだった」

「どうして?あなたは財団の職員でしょう!?どうしてこんなことを」

「だって、バカみたいじゃない」

「何が」

「自分より劣る奴に使われるなんて、余りにばかばかし過ぎてゴメンだわー。だから"私"が指揮するの」

「遺伝子異常の影響で思考構造にバグが発生したようね」

「それも不正解。私は人の手で特別に調整されたのよ。もっとも、アレもこうなるなんて思ってなかったんでしょうけどね」

「誰に調整を受けたの、答えて」

「教えてあげない。自分で考えてみれば?腕と足を折って思考にだけ集中できるようにしてあげるからさ!」

トゥエルブの合図で、体を押さえつけているDクラスが力をさらに込める。両腕がミシミシと軋み、痛みが増す。

「誰か、誰か助けて!」

「あらあらあらら、私が命乞いなんて珍しい。でも残念ね、誰も来やしないわよ」

火薬の爆ぜる音が響き、両腕の痛みが途切れる。Dクラスが体の上から除けられ、重みから解放された。そのまま何かに抱きかかえられるような感覚を最後に天宮は気を失った。


トゥエルブの舌打ちと亡者のうめき声が廊下に響く。彼女は乱入者を追わなかった。というより、えなかった。

「何かが割って入ってきて、気が付けばアイツがいなくなっている。十中八九反ミームね、厄介な」

彼女は笑みを浮かべる。先ほど襲われていれば恐らく彼女の命は無かっただろう。反ミームというのは殺人の道具として非常に優秀だ。しかし、何故か相手は天宮の救出を優先した。

「まあ、種さえ割れれば対処法なんて幾らでもあるから別にいいでしょう。どうせあいつらは私を殺さなきゃここから出られないし」

哀れな亡者を引き連れた人形は笑みを浮かべて闇に消える。


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