Tale 傷なき珠

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「号外! 号外だよォ!」

とある広場にて、少年が紙束を脇に抱えながら、半ばばら撒くように、周りに集う人々に渡している。

「昨夜、世田谷大通りのど真ん中で人殺しだァ! 憲兵巡長の真田氏と応援に駆けつけた憲兵2名を殺害の後、異常な脚力で数10メートル飛び上がり、そのまま闇世に紛れて逃亡!」

人々が空を舞う新聞に飛びつく中、1人の人影が、地面に落ち、人々の足でもみくちゃにされた新聞を手に取る。

「衆目の中での殺害で目撃者は多数! 顔も割れてるのに一晩経っても足取りすら掴めない犯人の正体は!?」

一通り新聞に目を通したその人影は、再びその新聞を手から零すように捨てた。

「その顔を見た人は口を揃えてこう言う! それ即ち……」

その新聞は風に巻き上げられ、その大きな見出しを堂々と晒しながら、帝都のどこかへと消えていく。

【紅の月下美人、帝都の闇を舞う】




「はぁ〜、嫁が欲しいなァ〜……」

「ちょっと三岳さん、真面目に働いてくださいよ。そんな姿見られたら藤木大尉になんと言われるか……」

「い〜んだよ伊染。あの人はどうせ昨日亡くなった真田さんのアレコレでここにゃ来れないんだから」

そのセリフを聞いて、やるせないようにため息を吐く伊染と呼ばれた男と、そのため息を見てケタケタと笑う、三岳と呼ばれたもう1人の男が、机を挟んで座りながら、伊染は忙しなく卓上の書類を整理し、三岳は方肘をつきながら、自動人形販売雑誌を眺めていた。

「せめて手伝ってください……あっちこっちで昨日の事件の目撃談が上がってるんですよ! リストアップ手伝ってください!」

悲鳴をあげるようにそう言う男に、三岳は呆れたような視線を投げかける。

「なこと言ったってよ、その目撃談とやらも事件後1時間までじゃないか。それ以降の目撃は無し、ただ顔は割れてんだから、どうせ今にでも見回りの憲兵が見つけるさ」

「顔が割れてるってたって、見てくださいよこれ!」

そう言って、側に置いていた新聞を手に取り、三岳の眼前に広げる。

「憲兵巡長と憲兵2人を殴殺してのけるほどの異常な膂力に戦闘力、そしてこの異常な脚力!」

その新聞の写真には、冗談ではないかと思うほどに陥没した地面にめり込む1人の憲兵の装いをした男と、地面から跳び、ちょうど満月と重なった瞬間にシャッターの切られた、目の覚めるような美人が映っている写真があった。

「間違いなく違法改造された自動人形です! こんなものを放っておくわけにはいかないでしょう!」

「あ、俺だって犯人のことはよ〜く知ってるぜ? 知らないってことをさ」

「西洋の哲学じゃないんですから……!」

伊染の言葉も虚しく、三岳は再び伊染から目を逸らし、机に置いた自動人形販売雑誌を持ち上げ、片肘を机に置きながら、再び嫁が欲しいなどとボヤきながらページを捲り始める。そんな三岳の肩には、菊をあてらったような紋章がキラリと力なく輝いていた。その紋章こそまさに、国民の平和を守り、陰から光の舞台を守らんとする、天皇陛下直属の異常物品収集部隊である、天道総帥直属秘匿機関帝国異常蒐集総院、通称蒐集総院の紋章だ。

その紋章は、伊染の肩にもある。伊染がこの紋章を拝するようになったのは、つい先週のことだった。数ある部隊の中から、実地機動部隊寅-伍"築地の御門前"と言う、異常物品と対峙し、蒐集する部隊に配属されたのである。

伊染が配属されたときには既に三岳はこの部隊に所属しており、蒐集総院の事情にやけに精通してることから、おそらくベテランであるとは思うのだが、いかんせん勤務態度が悪い。

「ほら、有力情報だけならいくらでもあります。昨日、文京区の号外に集まる人混みから離れるように歩いていく顔を隠した人物を見たとか……」

「その証言が一週間前も一ヶ月前も一年前にも無けりゃ受け付けるんだがな」

一貫して変えない態度に、伊染が溜息をつく。そんな伊染を尻目に、三岳はおっと声を上げると、伊染にも見えるように雑誌を机に広げた。

「見ろよこの型。割とよくねぇか。ある程度顔と体の注文もつけれて性格も5種の中から選べてサポートも手厚い……あぁダメだ、無駄に出産機能なんぞついてるから馬鹿みたいに高ぇ。あー、ガキなんていらねぇから嫁だけ欲しいなァ……」

「三岳さん、割と亭主関白っぽそうですよね」

「まぁ、家事全般やってくれりゃそれでいいよ」

おそらく三岳が欲しいのは嫁ではなく都合のいい小間使いだろうと、伊染は内心で三岳を白い目で知る。

(自分も、この肩に付いている誇りが薄れれば、この人のようになるのだろうか)

いいやそうはなるまい、いやなってたまるかと1人心を引き締め、ふと三岳の方を見ると、その背後に思わぬ人影が立っていた。

思わず伊染が硬直し、その様子を不審に思った三岳が己の背後を振り返ると、そこには。

「げぇ、藤木大尉!?」

「上官に向かってげ、とはなんだ」

三岳が思わず口元を隠すが、後の祭りである。

「……大尉、真田氏の方は?」

「私と真田氏なんてせいぜい一、二回顔を合わせた程度だ、そんな長く呼ばれるはずがないだろう」

ジロリと三岳を一瞥する藤木。三岳は蛇に睨まれた蛙のように直立不動である。やがて、根負けしたように深いため息を吐きながら藤木が目線を逸らしたことで、三岳はわずかに体の弛緩を解くのだった。

「まぁ、新人はこの部署から始まるのが通例だ。こいつのようにはなるなよ」

「……はい」

居た堪れないようにそう返事をする伊染。

「それで……藤木大尉はどうしてここに?」

三岳がそう問うと、藤木はそうだったと言わんばかりに手に持っていた書類を机の上に置いた。

「新しい情報だ。居所ではないが、例の自動人形の出自が割れたぞ」




世田谷殺人事件捜査本部という看板が出入り口に掲げられている大広間にて、警察隊と蒐集総院の合同捜査による情報の共有が行われていた。

「犯人と見られるのは自動人形、製造仮称"白椿"。製作者は磯部追蘇いそべついそ。過去に自動人形こそ人にとって変わるべきという旨の論文を複数の新聞社に一斉に送りつけたことがあったそうです、その時は警察隊による厳重注意が言い渡されただけです。また磯部氏は数年前から企画会の中でも連絡が取れず、つい先日、世田谷区で殺人事件の前に発生した、これまた犯人は白椿と考えられている、家屋倒壊事件の瓦礫下から遺体が発見されています。研究施設と見られる設備も違法増築されたと考えられている地下から発見されています」

「その中の異常物品にまつわる物は?」

壇上に立って報告をしていた警察官が一息を入れたタイミングで、藤木が質問を投げかける。

「大半が破壊されていました。それも、家屋倒壊によって壊れた物ではなく、人為的に破壊された物であると予想されています」

「人為的か……」

「これに関してはまだ捜査の途中です、まだ本人が破壊したのか、白椿が破壊したのか、はたまた第三者が居たのか断定できる状況ではありません」

「回答、ありがとうございます」

「いえ、お構いなく。そして……」


情報共有が終わり、帰路につく三岳と伊染。しかし、三岳は不満そうな顔を隠そうともしなかった。

「結局なんの情報も増えてねぇな」

「三岳さん」

伊染が三岳の発言を咎めるように名前を呼ぶが、三岳は不服そうな表情を変えない。

「実際増えてねぇ。出自が割れたところで生産者は死んでやがるし何か要注意組織の繋がりもまだわからないと来た。こりゃ白椿とか言うやつはもう別府で温泉でも浸かってるな」

あんまりにもな言い草ではあるが、伊染も、不満がないわけではなかった。三岳の言う通り、生産元が分かったところでなんだという話である。

「解せないな……」

しかし、そんな2人の鎮痛を破ったのは、いつのまにか2人の後ろにいた藤木であった。2人が軽い敬礼と挨拶を済ませた後、伊染が口を開く。

「解せない……とは?」

そう、伊染が発言の真意を問うと、当の本人も整理がついていないようで、歯切れ悪く答える。

「研究施設が破壊させれたって言ってたが……まぁ多分破壊したのは十中八九白椿だろうな。となると何故そうしたかになってくるんだが……」

「なまじ未成熟な知能ゆえに自分の存在意義に疑問を持ってとかそんなところでしょう、よくある話しです」

三岳が堂々と煙草を取り出して

「だったらなんでそいつは死なない。人工知能がエラーを吐いたら普通止まるだろう」


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