Tale 退廃した安寧なんてクソ喰らえ

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「もう……もうやめとくれよ繰號……」

「何、何へこたれてんだチトセ! 必ず俺がこいつを、この絡繰を完成させりャお前だッて助かるんだ!」

「やめとくれよ……あんたここのところ、ずっとそうやって寝ずに」

「俺が諦めてたまるかッてんだ! 人間、向上心失ッて停滞しちャあ終いなんだよ! 東弊組の奴らは何も手伝ッちャくれねェが、親父から代々続いてる開発を俺ッちで途切れさせるわけにはいかねェし!」

「違う……もう……もう……」

「絶対に完成させるんだ! 諦めんな! お前が諦めんな!」

「私は……私は……」

そこで、俺ッちは漸く後ろを見た。その目に映ったのは、瞼を閉じ、寝たきりの千才の頬を濡らす一筋の涙だった。

「最期まで貴方と居れて、幸せにございました……」

千才は死んだ。生まれつきの心臓の弱さが祟ッて、弱冠22歳で息を引き取ッた。




随分と懐かしい夢を、見たものだ。何で今更こんな夢をとか、夢にしてはヤケに生々しかったとか思わんでも無いが……まァ、夢だ。気にするほどのことでも無いだろゥ。

ふと絡繰時計を見てみれば、たッた数分でよくもまァあんなに内容の濃い夢を見れたものだと苦笑いする。

千才が逝ってからも、私は絡繰を捨てられず、変わらず東弊組に所属しながら、もう動かない体の代わりに動いてくれる絡繰、義躯を作り続けている。

ふと、頬杖をしていた手を見下ろす。夢の中のような手の張りは無く、皺が目立ち始めた、老人の手を。その手を髪に持っていく。ありがたい事に、まだ私の髪は健在だが、その髪の色は色という色が抜け落ちており、また、無理矢理引ッ張ッて、耐えられるほどの根性も持ち合わせていない。

「髪が伸びたか……」

まだ頭が寝ぼけているし、明日にしよう、と思いながら改めて机に向き直る。その後も、私の脳裏には、先程までの夢がチラついていた。




「やぁ、ゴウさん。ご無沙汰だね。どうしましょうか?」

「あァ、適当で頼まァ」

「あい、承ったよ」

そのままサクサクと髪が切られていく。無気力に、白髪が地に落ちていく。

「はい、こんなもんでどうかね?」

「ああ、随分と視界が開けた。ありがとうなァ」

「あい、お代は……」

勘定を済ませ、そのまま下駄を脱いで部屋の奥で寛ぐ。どうやら先客がいたようで、煙草をふかしながら、1人、武士道を説いた本を眺めている男がいた。その男はこっちを見るなり、眉と片手を挙げ、こちらに向き直った。

「やぁ、ゴウさん。久方ぶりじゃないか」

「やァ、董斎サン。こんな時代にまだそんなもん読んでるたァ、見上げた魂だ」

私と応答するこの董斎と言う男は、還暦も間近と言うのに体は引き締まり、髪を結ッている。誰もが、彼を見れば口を揃えて侍と言うだろう。彼とはこの床屋で、互いに沈んでいるところを、傷の舐め合ッた仲だ。

「聞いたか、ゴウさん。昨日、大正天皇が虎ノ門の前で撃たれたって話じゃないか」

「なんだッて、一大事じャあ無いか!」

「おいおい、知らないってのかい?」

「街がもうちョい騒いでりャあ、気にもなるが何も変わりねェんじャ興味ねェや」

「ゴウさん、あんたはちったぁ新聞に目を通した方がいい、研究一筋も疲れるだろ?」

「……疲れやしねェよ。所詮惰性だ」

「……わりぃ、やな思いさせちまったな」

「親子代々、人の役に立てる絡繰を作ってきたが……俺で終いだァ。人間、向上心を失ッて停滞しちャあ終ェだ……か。親父ィ、悪りィなァ……俺にはもう……」

「何、まだ諦めるには早いだろう?」

「もう、無理さ。千才が逝ってから数十年、碌に向上心も持たずに停滞して俺が言うんだ、違げェねェ」

「ふ、ふふ。ああ、その言葉、俺にも刺さったぞ」

と、ここまで話していてようやく気付く。どうにも、董斎の機嫌が良さそうだ。前まで言ッちャあ悪いが、死んだ魚の様な目をしていたと言うのに……。

「ン? 董斎サン、なんか変わッたかい?」

「ん? ……まぁ、変わったといえば変わったな」

「なんだ、水臭いじャねェか。勿体つけずに話せよ」

私がそう言うと、董斎は口元に笑みを浮かべながら話し始めた。

「……夏鳥思想連盟を知ってるか」

「あんだッて? 夏鳥思想連盟ィ? あんだ、どこぞの文字書き共の集まりか?」

「いいや違う。俺たちのような、過去を尊び、過去を取り戻さんとする奴等の集まりさ……」

それを聞いて、私はため息をつく。この男、董斎にはどうも過去に執着しすぎている節がある。董斎は元服してすぐに西南戦争が勃発し、その時に旧幕府軍として、侍として戦わなかッたことを会うたびに逐一こうして後悔と愚痴を溢している。とうとう耐えられなくなッて怪しい団体に属したか……。

「何度も言ってる通り、俺は戦わなかった……いつまでも、変わらない世の中が続くと思ってたんだ……だがそれは間違いだ、俺が何をしようがどうしようが、時代は進む、時は戻らない」

「待て、そいつは妙な話だ。その団体は過去を懐かしむんだろ?」

「まぁそうなんだが……あんだ、説明するのは嫌いでなぁ……」

むず痒そうに胸を掻く董斎。

「俺は、動くには遅すぎた。だが、今の世の中じゃあダメなんだ。だから今俺は戦うんだ。昔、うん十年前の俺の分まで」

言ッてることは荒唐無稽だ。他のやつが聞けば飯を吹くか、穢多非人を見るかのような目で見るだろう。だが、私にはどうしても、董斎のその目が透き通ッてるように見えた。

「……はん、そうかィ、見上げた魂だ」

「ゴウさん、話だけでもいい、夏鳥思想連盟に来てみないか? あんたも言ってたじゃないか。いまだに過去に引きずられて、絡繰を弄っていると」

「私に過去を懐かしむ権利なんぞありャあしねェよ」

そう言ッて、私は再び下駄に足を通して、帰路についた。




あの男の透き通ッた目を否定しきれないのも、いまだに捨てきれないこの義躯にあるんだろう。家に帰ッた私は、畳を持ち上げ、その下の箱の中から、絡繰じかけの心臓を手に取る。本来、これはもう千才の体の一部として動いていたはずのもの。

心臓だけじゃない。その他の内臓から、手、足、顔まで作った。だが、脳味噌だけは、一介の人間にはどうしようもなかった。

それでも、今日もまたこうして机に向かって図面を引いている。あの夏鳥とか言う団体に、一度でも行けば何かが変わるのだろうか……?

そう思い、下駄に足を通して、再び床屋に向かおうとしたその時、玄関の扉が叩かれた。

誰だ? 董斎がどうしても私を夏鳥に連れて行きたくて後を追ってきたのか? それなら都合がいい。出向く手間が省けたと言うものだ。

そう思いながら玄関の扉を開くと、そこにはびっしりと洋服を着こなした、小綺麗な政府の役人と、頭を隠し、何処か不気味な雰囲気の男が2人が立っていた。

「絡繰技師の繰號とは貴方か?」

「あ? あァ、私で間違いな……ありませんが」

「申し遅れました、私は宮内省に勤めている瀬野内と申します。こちらは御形」

ペコリと、不気味な雰囲気の男が頭を下げる。

「宮内省……そんなお役人さんが何たッてここに?」

宮内省といえば、天皇陛下に関するいろいろな事を取り仕切る部署じャなかッたか。

「東弊組から貴方の話は聞いている。これからの依頼を、極秘にできると、約束できるか」

何が……起こッてんだこりャあ……?

軽い非常事態に目眩を覚える。が、どうにも目の前の2人は私を逃す気がないようだ。"極秘にして欲しい話がある"と言う"極秘"を話したんだから手伝えと言わんばかりの。まァ、どうせやる事も無かったから丁度良い。

「はい、約束しましョう」

「ご協力、感謝します」

「立ち話も何ですから、どうぞ中へ」

「これはこれは、ありがとうございます」

思えば、私の家に誰かを招き入れるなど、何十年振りだろうか? 汚すぎてお役人さんに不快な思いをさせてないだろうか……そもそも、もてなせるだけの用意はあッたか……?

「ああ、要件のみを話に来たので、茶などは結構ですよ」

そこまで思ッていたところ、お役人さんに釘を刺される。こりャあ参った。

「何分、絡繰しか弄ッてこなかったもので……平に、ご容赦を……」

「大丈夫ですよ。さて、本題なのですが……」

やけに溜めた後、お役人さんが続ける。


「東弊組よりお聞きいたしました絡繰……確か、義躯でしたか。あれを、天皇陛下の為に作っていただきたい」


「……………………………………は、はいィ?」


そのお役人さんの言葉を理解するのに、数秒かかッた挙句、何とも失礼な聞き返しをしてしまった。

「な、ど、どゥ、えェ? 私が? そりャまた、なんで?」

「先日発生した、天皇陛下暗殺未遂事件をご存知ですか」

「え、えェ、はい」

「もうお分かりかと思いますが、陛下は先日の狙撃事件によってお体を病んでおられるのです。解決方法を探っているうち、東弊組から貴方の義躯の事を聞き及びまして、こうして参上した次第であります」

「つまり、天皇陛下の肉体の代わりとなる義躯を作る、と……?」

「東弊組の頭とも既に話はついています。貴方が引き受けてくれると言うなら、東弊組はもちろん、我々政府も援助は惜しまない、と。ああ、今ここで決断しろとは言いません。じっくり考えていただけたらと思います」

そう、お役人さんは言ッたが、私の心はもう決まっていた。千才の無念を、ここで晒すべきと、私の脳が囃し立てる。

「いえ、この場で返事させていただきます。どうか私に、天皇陛下の義躯を、作らせてください!」

「色良い返事を聞けて何よりです。期待しております」

「はい、精進いたします」

「では」

そう言って、お役人さん2人は家から出て行った。


それからは、私の目の回るような日が続いた。天皇陛下の肉体を作るべく、机と図面との睨めッこが続く日々。草案を提出しては、あれやこれやと東弊組から派遣された若いモンに注文をつけ、また政府から注文をつけられ、また机と図面との睨めッこ。

だが、そんな日々の方が私には合ッていた。あれやこれやと頭を抱えながら、試行錯誤を繰り返して、至高へと近づいていく、そんな感じが。

また、役人……いや、政府とは凄いもんだとも舌を巻いた。無尽蔵に湧いて出てくるのかと思うほどの金。調達は無理だと思われる素材を、どこからともなく調達してくる。

天皇陛下の義躯作りが1番、絡繰技師人生で快適であり、また職人としての矜持をくすぐられた仕事だと、胸を張って言える。

たった、一点を除いて。

「……なァ、ちゃんとこの義躯は天皇陛下の元へ届いているのかい?」

「と言うと?」

「疑ッてるわけじャねェんだ。何せ、部品を作ッては送ッて、作ッては送ッてだ。何かしらの不具合が起こッてやしないかと、気が気じャねェ」

「それならば、ご安心を。こちらの方で、送られたパーツは全て組み立てられ、完成一歩手前まで来ています」

「そうは言うがよ……やッぱこの目で見ねェと信用できねェんだ。致命的な何かが起こッてやしないか、それだけが心配で心配で……」

「……」

「一度でいいから、組み立てる様子を見ちャあダメか?」

「……不義理とは理解していますが、どうかこれだけは」

「……」

そう、何かと天皇陛下のこととなると、途端に隠したがる傾向にあるのだ。

病の為、貴方の為と言われては私も引き下がらずにはいられないが、逆に好奇心が湧いてしまっているのも事実。また、天皇陛下にお顔を覚えていただけたらどれだけの光栄か、という下賤な欲が無いとも言い切れない。

とうとう耐えきれなくなった私は、嘘をつくことにした。

「この義躯だけは私達にやらせてくれ。これを他の人に任せるとなッちャあ、今までの全部がパァになってもおかしかねェ!」

我ながら下手くそな嘘だと思う。だが、他にいいものが思い浮かばなかッたのだから仕方ない。

数日後、沙汰が下された。

「分かりました、繰號さんにこれ以上隠し立てするのも申し訳が立たない。貴方には、天皇陛下に合っていただきます」

来た。そう思ッた。が、次の役人さんの言葉に少しばかり首を傾ける。

「ただし、この計画の責任者である貴方だけです。明日、皇居へといらしてください。門衛の方には話を通しておきます」

少し引ッかッたが、皇居に大人数招き入れるわけにもいかんのだろうと己を納得させ、柄にもなくウキウキしながら床に着き、いつもより半刻早く目を覚ました。

丁寧に義躯を風呂敷に包み、皇居の扉を叩く。門番に事情を説明し、しばらくそこで待つと、別の方向からお役人さんが飛んできて、別の入り口から中へと入れられた。

長い廊下を左に右に、数える事を放棄した辺りで、一層豪華な扉の前にたどり着いた。

「この先に、天皇陛下がおられます。……決して、騒がぬように」

重厚そうな扉が、ゆッくり、ゆッくりと開いていき……そして、その豪華絢爛な部屋が目に入った。

あの正面のものは何だ? 玉座? その後ろのものは……絡繰か!? あんなに大きい!? それに何だ、後ろのカラクリから何が伸びているんだ? 玉座に座っているのは天皇だとして……。

そこまで思い至ッて、違和感に気づいた。

……天皇陛下がピクリとも動かない。いや、動いてないわけでは無い。緩やかに動くそれは……寝ている?

「こ、こりャあ一体……? 天皇陛下のお昼寝の最中に私ァ来てしまッたのかい……!?」

「いいえ、繰號さん。あちらにいらっしゃるのが、天皇陛下御本人です」

「…………………………」

「我々の計画……それは、天皇陛下を不老不死にする事」

「不老、不死?」

「ええ、今、天皇陛下を失ってしまえば、我が国は……」

「な、なんだッて?」

「……いや、いい。今のは忘れてください。さぁ、最後の作業をお願いします。繰號さん」

長らく、その場を動けなかったと思う。よく目を凝らせば、天皇陛下の呼ばれるその体には、確かに私が作った義躯が、肉体に変わって動いているように見える。

そんな天皇陛下を見て、私の頭の片隅で、何かが喧しく声を上げている。私は、私は何かとんでもない間違いを犯しているのでは無いかと思ッてしまッた。何か、何だ、この、感覚は……?

その後のことは、いまいち覚えていない。ただ、その日が、天皇陛下の義躯が完成した日だと言うことはくッきり覚えている。




ここ数年で、世の中は、変わッちまッた。

「あら奥さん、その足、義躯にいたしたんですの?」

「えぇ! ようやく義躯にいたしましたの。八脚ですわ。多少、スカァトが捲れてしまうのが玉に瑕ですが……」

「素晴らしいですわ……羨ましいです」

義躯は、天皇陛下が受け入れたと言うことで富裕層にとってありふれたものとなり、東弊組は義躯の大手製造元として注目を浴び、東弊舎と名前を改めて、今のままでが嘘だったかの様に、世間から脚光を浴びた。そして私はその義躯開発の第一人者として、一躍有名人となッた。

だが、あの天皇陛下を見て以来、ずッと心に引っかかっているものがある。この義躯に溢れた世の中を見て、疑問に思っていることがある。

西洋の哲学で……テセウスの船と言ッたか。ある船を、修理に修理を繰り返して、とうとう元の船を構成していた要素も新しいものへと取り替えたとき、その船は全くの別物か、否かと言う話だ。

私は、その答えを未だに出せていない。しかし、喉に小骨が引っ掛かるような、言い知れない違和感に襲われている中、ある会話が聞こえてきた。


「おぉ、その腕! 義躯ですか! 素晴らしいなぁ、しかも、見た所、一点物じゃあないですか!」

「凄いだろう? ……あまり大きな声では言えないのですが…………………………」

「何と! 義躯の出力を!」

「しーっ! 声が高い! ……ふふ、しかし、こうしてわかりやすく力が手に入るとは、いいものですな……不老不死も最早我々の手中です」



不老不死……? わかりやすく力が手に入る……?

違う、違う違う違う、私は、俺ッちはそんなつまらない事のために義躯を作ッたんじャあない。


(最期まで貴方と居れて……幸せにございました……)


義躯は、力じャあ無い! 不老不死の為でもない! 弱いものに寄り添い、弱いものを援ける為のモンだ! そんな、人の努力を否定するような……


(人間、向上心失って停滞しちゃあ終いだ)


過去に、親父が俺ッちに言ッた言葉が、脳裏に強烈にぶり返す。

「あ、あァ……ああァァァァァ……!」

あの義躯は何を招く? 容易に力を手に入れ、あまつさえ不老不死まで手にした人はどうなる? 自明の理だ! 自分で努力するという事を忘れ、向上心を失い、停滞する!

そうか、そうだ、俺ッちは間違えてたんだ。俺ッちは、俺ッちは人の堕落と停滞を招く道具を作ッていたのだ! そして、本当はそのことに気づいていたのだ! 義躯などと言うものに明け暮れて、千才の本当の最期を看取ってやれなかった時から! ずッと! そのことに気づいていてなお、俺ッちは千才の所為にして、その事実から目を背けて、ただ堕落して、停滞していただけなのだ!

天皇陛下の義躯作りが自分に合ッてた? 義躯職人としての最高の仕事? 違う! ただ、事実に目を背けて、助かッた気になッていただけの現実逃避だ!

「う、うわァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」

奇怪な物を見る様な衆目を浴びても、俺ッちの喉は慟哭を止めない。憲兵に連れて行かれるまで、俺ッちは、子供の様に泣き喚いた。




玄関の扉が鳴らされる。

「入るぜ……なんて酷い面ぁしてやがる。髪も伸びっぱなし、髭も放置しっぱなしじゃないか」

「董斎……」

「いきなり有名人になったかと思えば、一躍奇人扱いか。世間も冷たいもんだ」

董斎が勝手に家に上がり込み、私の真正面に座り、その透き通った目で私を見る。

「私は……私は間違えていた……義躯は最早、人に堕落と停滞を招く物ながら、この世に定着してしまッた……そして天皇陛下ももう……! 私は、私は恐ろしい物の片棒を担いでいたのだ……!」

「……何が合ったかは詳しくは聞かねぇ」

「手遅れだ、気づいた時にはもう遅いと言うが、全くもッてその通りだ。人は同じ過ちを繰り返すと言う言葉もそうだ。私は……」

「ゴウさん……いや、繰號さんよ、今から手間も遅くないぜ」

「何が……何が遅くないと言うのだ……? 外を見ろ! 街ゆく人がまるでファッションの様に義躯をつけている! 堕落の証だ! 義躯は、義躯は人の飾りでは、装飾品ではないのだ!」

「いつだったかの日のことを覚えているか、繰號さん」

「……何だ?」

「私が……元服したと言うのに、侍として戦わず、ただ時代の変遷を眺めるだけだったと話しただろう。俺も、その時繰號さんの様な心境だった。遅かった、何もできなかったと、気づけば後の祭り……その後も、ろくに何もせず数十年間放蕩……いや、向上心を失い、停滞していた。情けない限りだ」

「ァ……」

そうだ思い出した、思い出したぞ。あの、澄んだ目を見た時の日を。一笑に伏せたあの日を。

「だが、私には同志が居る。この間違った世の中を正さんとする同志が」

「あ、あァ……私は……俺ッちはまだ、間に合うのかい……?」

「間に合うさ、変えるんだよ、取り戻すんだ繰號さん! あんたの手で! 過去の過ちを取り返すんだ!」

「う、うゥ……!」

また、目の前の男の視線も気にせず、俺ッちは情けなく泣き喚く。そんな俺ッちを奇怪な物を見る様なことはせず、董斎はただ、俺を見つめていた。しばらくして、私は今までの負の感情を全て吐き出した様に、やけにスッキリとした気分だった。

「大丈夫かい?」

「ああ、もう大丈夫だ。董斎さん、私を、いや、俺ッちに夏鳥を紹介してくれ」

「夏鳥に入るのはわかった、だが東弊舎は? まず間違いなく邪魔になるだろう?」

「あんな金に群がる亡者などいつでも見限ッてやる」

「……ふふ、そうか。そうだな……おっと、そういえば挨拶がまだだったかな」



「ようこそ、夏鳥思想連盟へ。私達のあの日を取り戻そうじゃないか」


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