Tale下書き ギル×咬冴(仮題)

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「ギルゥゥゥゥウ!」

「! もう嗅ぎつけたか……」

日も沈み、草木もねむる丑三つ時。咬冴は遂にギルの背中を捉える。

「死、ね……ッ!」

渾身の一撃をかますも、それが本当に背中を捉えることはなかった。グリンと首を左に向けると、そこには攻撃を避けたギルがいた。

「早いな、流石は財団と言ったところか」

「……はん、そういうこっちゃ」

グッと拳を握る咬冴。ギルもまた、硬く拳を握る。

「悪いが、私にはやるべきことがあるのでね」

ウチサメを殴るよりも優先すべきことかァ!?」

「ああ、そうだ。はっきり言って、今の貴様に構っている暇はない」

病室での一幕がフラッシュバックする咬冴。より硬く拳を握りしめ、限界を超えた噛みしめは、とうとう自慢の奥歯を砕いた。

「死ねェェェェェェェェェエ!」

「フンッ!」

激しいラッシュが展開される。殴り、殴られ、避け、避けられ。一見すると、拮抗しているように見えるがしかし、治療も半ばに病院から抜け出したギルが、万全の状態の咬冴とまともに打ち合えているということに、他でもない咬冴が腹を立てる。チラリとギルの顔を見てみると、ギルは咬冴の拳を見ずに捌いて、ただ咬冴の顔を真っ直ぐに見ていた。

「そんな目でウチを……見るなァッ!!!」

絶叫を上げる咬冴。

「……ッ!」

何度目かのボディーブローが炸裂した時、ギルの地図口が開いたのであろう腹部からドロリと血が垂れる。わずかにギルの重心が左に傾く。

崩れた。そう思った咬冴はトドメと言わんばかりに連打を仕掛ける。しかし連打を受けてもなお、ギルはそのまま左に倒れ込むことなく踏ん張り、咬冴の連打を見事に防いで見せた。

千載一遇のチャンスを逃すまいとする咬冴、手数ではもう敵わないと悟り、相手のガードごと撃ち抜く一点突破に切り替える。それはギルも予測できたこと。だが、ギルはあろうことがガードを解き、拳を握りしめた。

「ッ!」

「……ッ!」

激突する拳。その拳の拮抗は長く続かず、咬冴の拳が押され始める。己が劣勢なことに気づいた時にはすでに遅く、咬冴はすれ違った己の拳を相手に届かせぬままに相手の拳を喰らい、背後へと吹っ飛んでいく。
うまく受け身をとった咬冴だが、上手く体に力が入らず、よろよろと立ち上がる。足が笑っている。肘がガクガクする。そして何より……握りしめてる拳が震えている。

「……」

その震えの正体に目を向けないまま、ただ憤懣に塗れた拳を再び相手にぶつけんとする。あいも変わらずこちらを真っ直ぐに見据えるギル。燃え上がる憤怒と、心の奥底から湧き出る何か。その何かを認識しないように、咬冴は行動を開始する。左足を前へ。崩れる。構うか、崩れる前に右足を前へ。やはり崩れる。構うな構うな、無視しろ、無視しろ、無視しろ!

なんとかギルの元まで肉薄した咬冴。こちらへ向けてファイティングポーズを取るだけのギルのガードの間を縫って、ガラ空きの胸元へと叩き込む……筈だった。

果たして崩れたのは咬冴であった。またしても、握りしめられた拳は相手に届くことなく、無様な自分を支えるだけとなった。そんな無様を晒す自分から、声が漏れ出る。

「なんで……なんでそんな目でウチを見るんや……ッ!」

こちらを見据えるギルは、ただ無感情だった。貴様に構ってる暇は無いと言ったギルは文字通り、咬冴に一片の興味も抱かず、咬冴では無い何かを、ずっと見据えていた。

「ウチを見ろ! ウチは財団の指示でここに来たんやない! 1人で、1人でお前を殺すためにここに来たんや!」

地面に拳を叩きつけながら絶叫する咬冴。

「ウチを見ろ! お前に殺意を向けてるのはウチや! お前が……お前が……」

やがて心の底から溢れ出た何かがオーバーフローし、それは咬冴の涙として目から零れ落ちる。

「お前がそんな目ェすんなよォ……!」

ギルのその目を、咬冴は知っていた。夢がある者の目だ、希望を捨ててない者の目だ、諦めていない者の目だ。かつて、いつかの自分が目に宿していた物と同じ物を、ギルはその目に湛えていた。

「お前に……お前に居場所全部奪われて……居場所を……今度は新しく見つけた居場所も取られて……ッ!」

ばね仕掛けのように跳ね起き、ギルの襟を鷲掴む咬冴。

「お前がァ! お前がその目をすんなよ! 全部、全部うちから奪いよって! 全部お前らのせいじゃァ! お前らが、お前らが悪いんじゃ! お前がテロに遭って、全部失いそうっていうんに、そんな目をすんなァ! クソッ、クソ野郎ッ!」

それは咬冴の口から漏れ出る呪詛は、もはや怒りではなかった。醜い嫉妬。自分に無いものをねだり、羨み、ついぞ手に入れられなかった者が負け犬のように喚く。そんな、自分勝手とも言える嫉妬をぶつけられているギルは、それでもなお、咬冴をその目で見据えることを辞めない。いよいよ咬冴が限界を超え、再びギルの顔面に拳を叩きつけんとした、その時だった。

ふっとギルの目がようやく咬冴を離したかと思うと、その直後に、どう、とその巨体を地面に横たえた。咬冴が驚きの声を上げる前に、制するかのようにギルが口を開く。

「一か八かの賭けだった……が、負けたか……」

唐突に口を開いたギルに、咬冴はなにも言えない。ギルの腹部から漏れ出る血が、咬冴の足元まで広がる。そして腹部をグッと、右手で握りしめ、体を起こしながらギルは続ける。

「今日、病院を抜け出すと決めた時点で誰にも気づかれないというのは前提条件だった……仲間との連絡手段がない以上、しばらくは潜伏しなければならない。だから、潜伏するまでに気づかれるわけにはいかなかった……」

しかし立ち上がることは困難だったのか、左手で体を支えながら、その場で座り直るだけにとどまった。

「だが嬢ちゃんに追いつかれた時は、もうダメだと思った。この傷で、何やら悩みがあるとはいえ、SCP財団のエージェント相手に、無傷では勝てないだろうと」

「なんで諦めへんねん、そこで」

思わずと言ったように、咬冴の口からそんな疑問がこぼれ落ちる。

「そんなことは決まっている。それでも、俺の信念を折るには取るに足りんからだ」

「……ッ!」

太陽を直視してしまったのように目を伏せる咬冴。

「サメを殴る、ただそれだけの為に我々は存在する……だが奴らはそんな理念すら忘れ、とうとう暴走を始めた。今回、奴らが俺を狙ったのも、サメの保護活動に参加したからだ……その途中を狙われた。その活動は最悪の結果で終わっただろう……私の部下も大勢死んだだろうし、その責任を負うことになるかもしれない……」


「だが俺は諦めない」


「いや、俺は、というのは違うな。俺の信念が、諦めるな、立ち止まるなと喧しいほどに急かすからだ。周りから反発されようとも、部下に裏切られようとも、情けないほどに体が軋んだとしても、私はこの信念とSPCの理念に生きる。そして死ぬ。とうの昔に、そう決めた」

グッと拳を握りしめるギル。

「今もなお、俺の中で信念が喚いてやがる……だから、このまま俺が大人しくくたばると思うな……!」

交戦的な笑みを浮かべ、誰から見ても限界な体に鞭打ち、立ち上がるギル。そんなギルを見て、咬冴はただ、立ち尽くすだけだった。

「「……」」

2人に沈黙の帷が落ちる。

「……もう、いい……」

その沈黙を破ったのは果たして、咬冴だった。

「何?」

「決着はついたやろ……ウチはもうお前に負けた……」

「……」

ただ、全身を強張らせながら、大粒の涙を流す咬冴。そんな咬冴をギルが見る。しかし、すぐに目を逸らしたかと思えば、その目にはもう咬冴は写っておらず、変わらず何かを見据えていた。

「……私の期待を裏切ってくれるなよ」

そう言い残し、巨漢の男は去っていった。

咬冴はただ1人、その場で泣き崩れた。
























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