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並行世界。
無数な数が存在するとされるそれは、膨大なる可能性を秘めている。
非情なる財団がある世界があれば、サメを殴ることを至上とする財団がある世界もある。もしかしたら、財団なんてものがない世界もあるのかもしれない。
これは、そんな不思議な進化を辿った、とある財団の男の話。
(……寒い。いや、寒く無い。なるほどならばこれは夢か)
そう、夢の住人は即座に悟る。
彼が良く周りを見てみると、光もなく、暖も取れない部屋の隅で、所々肌の青い小さな私が固く目を閉し、丸まって震えている。そんな彼が幼少期に見慣れた景色が忠実に再現されている。いや、この景色を見慣れたのは彼が大人になってから堕ろうか。幾度となく夢に見たその景色。彼の幼い心に絶望が蝕んで巣食っていて、何もかもが、彼を見放しているとさえ思っていた。
世間は、それを悪夢というかもしれない。過去の痛苦のフラッシュバックに過ぎないと。
だが笑止。それは彼に言わせれば悪夢などではない。一度記憶に蓋をしてもついぞ捨て去れなかったそれは、憧憬。
あの時の記憶と同じように、夢が動く。まるで私をずっと縛り付けていた鎖が引きちぎられたかのように、むせ返るような臭いの中、手足を動かす。その衝動の名前も知らずに。
もう少し、一歩踏み出して。
もう少し、手を伸ばして。
もう少し、口を開けて……。
気がつくと、彼の視界には見慣れた天井が広がっている。
いつもの流れだ。いつも彼は、最後の最後、それを決して思い出せないまま夢が終わる。
(私は夢に、憧憬に少しでも近づけているのだろうか……)
そんな取り止めのない思考の中、ベッドから降り、洗面所へ向かう。その途中、1階から生活音が響いていることに気づく。
(いや、いや、弱気になってどうするのだ。もう私には守らねばならないものがあるのだ)
決意を新たに部屋から出る彼の背中を、写真立ての中の微笑ましい4人家族の写真が見送った。
アメリカ合衆国コロラド州サマー・スプリングスから北に75kmの場所に位置するこの場所には、Dクラス職員の成れの果てが集まっており、日夜記憶処理剤の生産が行われている。
- portal:5848237 ( 24 Apr 2020 15:03 )

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