Tale下書き 未定なう

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<█ 19██/██/██ ???自宅>

——薄暗い、冷たい場所に居る。

夢だ。これは夢だ。その夢の傍観者は即座に悟る。

幾度と夢に見た景色。光もなく、暖も取れない部屋の隅で、所々肌の青い小さな夢の住人が固く目を閉し、丸まって震えている。絶望が霜のように幼なかった夢の世界の住人の心を蝕む。

人はそれを悪夢というかもしれない。過去の痛苦のフラッシュバックであると。

だが、夢の世界の傍観者からすれば笑止千万である。悪夢などではない、それは強い憧憬

夢の世界の住人が、動き出す。まるで彼をずっと縛り付けていた鎖が引きちぎられたかのように、手足を動かす。夢の住人を動かす衝動の名前も知らずに。

あと少し。口を開けて、一口それを味わって……。


傍観者が目を開けると、それは彼にとって見慣れた天井である。

「……」

彼は体を起こし、口元を襟袖で拭ってから洗面台に向かう。鏡を見れば、野暮ったい目をして髪の毛を酷く逆立たせ、口の端からだらしなく涎を垂らしていたであろう跡が確認できる。手に水を溜めて顔を洗い、手にワックスを馴染ませて髪をオールバックに整える。
そこで彼は手に違和感を覚える。昨日の記憶を参照するとなんともないが、数年前との記憶と照合すると、頭のボリュームが減少しているように感じる。
そう思い至ると同時に彼はその原因を思い出したのか、せっかく整えた髪を掻きむしり始める。

「チッ……」

嫌なことを思い出したと舌打ちし、頭を掻き毟る手を止め、改めて髪を整える。
洗面台から離れて着替えていく。白衣に着替え終わった彼は扉を開け、己の研究室に向かう。


<19██/██/██ サマー・スプリングス>

アメリカ合衆国コロラド州サマー・スプリングスから北に75kmの場所に位置するこの場所には、Dクラス職員の成れの果てが集まっており、日夜研究が行われている。
彼の研究所も同じ敷地内ではあるが、その敷地が広大であるが故に自家用車で移動していた彼は、途中に顔見知りを見つけ、行き先を変える。

「やぁ、マイク君。任務お疲れ様」

マイクと呼ばれた男は、肩越しに振り返って、呼び声の主を認識してから改めて体を振り向かせる。

「ああ、ファーティア博士。ご苦労様さん」

ファーティアと呼ばれた彼は、マイクの言葉に苦笑しながら戯けてみせる。

「おいおい、冗談はよしてくれ。我々が何か苦労するようなことをするのかい?」

「……はっ、確かにそうだな」

そう、ファーティアの研究は現在、倫理委員会からの申し出により停止中である。
SCP-2419では記憶処理材が精製されているが、もう1つ生産されているものがある。それは記憶処理材の副産物として発生するSCP-2419-Aから採取される肉を加工したジャーキーである。食用化に成功したこのジャーキーだが、いくら異常性を持つ存在とは言え元人間の、さらには死者の肉を喰らうのかと言う倫理的な問題。

だがファーティアにとっては、全てが些事だった。ジャーキーの開発も、倫理的な問題も。

彼がジャーキーの開発、ひいてはSCP-2419で研究をしているのは、SCP-2419を私有化するため。いや、そのことすらも彼の真の研究からすれば単なる道筋の1つである。
だがその研究がいよいよ佳境に差し掛かったと言うときに、本部から邪魔が入ったのである。表向きには、彼のジャーキーに関する研究に倫理的に問題があるとして。間違いなく本部はファーティアの研究に感づいたと推測するべきだろう。
後もう少しで研究は終わる。だが下手をすれば2度と研究はできない。そうして頭を抱えていたところに現れたのが、このマイクと言う男である。
いかに人生が研究一辺倒だったファーティアとは言え、マイクが本部からの回し者であることは容易に予測できた。だが、その男の本心を見抜くことは、ついぞ叶わなかった。
だからマイク、いやマイク達の正体を告げられたとき、ファーティアは心の底から仰天し、それこそ本部の人間を疑ったほどだ。

「ファーティア博士?」

「ん、ああ、すまない、少し考え事をね」

ボーッとしていたファーティアにマイクが怪訝そうに呼びかける。そんな目線から逃れるようにファーティアは話題を変える。

「ああそういえばマイク君、任務に戻らなくても良いのかい?」

「任務はまだ決まっていませんね。まぁその時になれば頑張りますよっと」

「適当だなぁ、君は。私が不安になる」

「ま、博士こそドジらない事ですね。この前も結構危なかったでしょう」

「ふん。ま、上手くやってやるさ。君もせいぜいしくじるなよ」

「はいはい、分かったよ」

そして2人は別々の方向に歩いていく……。


<19██/██/██ 国道█号線>

「なーんて、ファーティアは言ってたよ」

ファーティアと別れた後、ある男はある場所に向かう最中、そんなことを溢す。

「意地でも研究だなんて……ファーティアらしいじゃないか、ええ?」

その言葉を返すのは同じ機動部隊員のメンバーだ。

「良いのかよ、ニック?そんな奴を放っておいて?」

そう言った瞬間、男から殺意が迸る。

「ニック?そんな奴が部隊にいたかな?」

「悪い悪い、悪かった」

両手をあげて降参を示すメンバー。その様子を見て数人の他のメンバーから笑いが溢れる。

「お前がファーティアと仲良く話してたもんだから嫉妬しちまったよ」

「やめろ気色悪い」

「今夜どうだ?」

「おい、誰か袋持ってこい」

「車酔いか?」

「こいつを詰めてボコボコにしてやるんだよ」

この剣呑な空気を前にしても他のメンバーは依然としてニヤニヤとした笑みを絶やさない。それがいつもの事なのを知っているからである。そんな中、怒号ののち、唐突に車内が激しい慣性に見舞われる。車内で頭をぶつけたメンバーから苦情が溢れる。

「おいクソ運転手!急ブレーキ掛けんなって言ってんだろ!」

「言ったじゃねぇか!急ブレーキするってよ!」

「なんで急ブレーキするような運転するんだって言ってんだよ!」

「だったらお前が運転しやがれってんだこの野郎!?」

にわかに騒がしくなった車内に溜息をつきながら、男は一言。

「黙れ」

それで水を打ったように静かになる車内。彼らの顔に、さっきまでのようなそれは既に無かった。

「お前ら、もう既に始まっていると思え。しくじるんじゃないぞ」

そう言って車から降りる部隊長の男。無言で車内待機するメンバー。部隊長の男は眩しい太陽に目を細め、サイト-01を睥睨する。

「散れ」

その一言で、部隊が動き出す。


<19██/██/██ サイト██>

ファーティアが食を追い求めて財団に入ったのは、彼が24歳の時だった。子供の頃に食べたあの夢のパンの味。それが忘れられなくて。
だが再現は困難を極めた。そしてファーティアが再現のために至った結論は、当時の再現。すなわち、記憶の捕食である。

記憶を食べる。これだけを聞くと、とても荒唐無稽であると思うかもしれないが、記憶処理材の本質は記憶の上塗り。だから記憶を食しているものなのだが、問題として味わう前に忘れてしまう。ならばどうするか?
考えに考えたファーティアが出した結論が、記憶の細分化。つまり、感情の捕食である。

一概に記憶といっても、記憶には様々な記憶がある。5感の感覚はもちろん、感情も例に漏れないだろう。だから、Dクラス職員の蒸留した記憶を、さらに蒸留させる。
そうして完成した物が、今、ファーティアの目の前にある。カリカリに焼かれた食パンが、一切れ。一見何も無いように見えるが、その実そのパンの表面を触ってみるとベタッとした粘液がまとわりついてくるだろう。そしてこの透明な粘液こそが、ファーティアの研究成果だ。
期待に高鳴る胸を押さえつけ、パンを持ち、慎重に運び、厚切りの食パンが口の中に入り……口を閉じる。噛み切られた食パンが口の中に転がり……。

親に怒られ、親戚に拒まれ、恩師に見放され、親友に失望され、同僚に無視され、部下に軽蔑され、上司に嗤われ、どこまでも堕ちて、どこまでも堕ちて、何も無くなって、ただ、絶望と失意の中で、死んだ。気が狂って、自分が自分じゃなくなって、ただ、道具のように利用されて……。

それは自分の物ではない、この粘液の素材の名も知らぬDクラス職員の過去の記憶。暴力的なまでの彼の不幸が私の頭を殴りつける。ああ、だめだ、これを味わえば、私はもう戻れなくなる、まだ間に合う、まだ間に合う、吐き出せ、吐き出すんだ。口を開けて。込み上がる胃酸ごと流し出して……食べろ。味わって、飲み込め。

結局、ファーティアの本能が下した命令はそれだった。

咀嚼を一回。

瞬間、ファーティアの目が見開かれる。手が震え、過呼吸気味になり、目からは涙が溢れてくる。

甘く、甘く、どこまでも甘く、舌が、脳が蕩けそうなほどに、甘い。そして美味い。それは、それこそは、彼が数十年と追い求めてきた味。
ファーティアを虐待していた親が、彼の目の前で無惨にも強盗によって惨殺されその惨状を見ながら食べた、あの安っぽい白パンの味。
美味かった。甘かった。頬は上気し、興奮した。あの時の感情が、今。あの時の味に巡り会え、ファーティアは打ち震える。嗚呼、強いてこの味に感想をつけるなら、陳腐な言葉で飾り付けるのならば……その言葉はどこの国の言葉だったろうか……まさしく、"人の不幸は蜜の味"だ。

ファーティアはその感動のままに一言。

「実験は成功だ」

その時、研究所が震えた。


「気分はどうだい、ファーティアさんよ?」

「最高さ」

起動部隊長の男にそうに聞かれたファーティアはそう答える。摂食実験が終わったてひと段落した後、研究所はとある機動部隊による襲撃が行われた。研究所には今頃何も残って無いだろう。全て機動部隊もしくは研究員の手によって運び出されたはずだ。

「多少、不機嫌だと思ってたんだがな?」

「長年の研究が身を結んだのだ。嬉しく無いはずがない」

「ま、そんなもんかね」

2人の間に沈黙が降りる。部隊長の男は窓の外を見ながら、あの日のことを思い出す……。


サイト-01に到着した部隊長の男は、O5評議会が開かれている部屋へと歩き出す。今日見て、聞いたことを話し、彼らの沙汰を聞き届けるために。

「緊張するな」

そう零した彼の言葉や態度からは一切の緊張が感じ取れない。軽々しく扉をノックし、入室する。

「ダニエル、入ります」

部屋に入ると、その部屋にいた全員の視線が部隊長の男に突き刺さる。もし仮に部隊長の男がこの部屋で暴れたとしたら、彼らはなす術もなく殺されるだろうが、そんなことが考えられなくなるほどの重圧がその視線に込められていた。

「で、どうだった」

端的に彼らから問われる。

「……奴らは間違いなく離反します」

その答えに対する答えは単純。

「指令だ、ファーティアの研究室を襲撃し、その全てを奪取せよ」

「了解しました」

部隊長の男は部屋から退出し、車の元まで戻る。途中、トイレに行っていたと言うメンバーと合流し、軽く話しながら。

「それで?沙汰は?」

「襲撃だ」

「O5軽いな。お前が信用されてるのかは知らんが……はっは、そうかいそうかい……」

メンバーは楽しくて仕方がないと言わんばかりに体を折り曲げながら歩く。

「それで?ニッ……あー、そう、日程は?」

危うく名前を言いかけたメンバーは、誤魔化しながらそう問う。少し不機嫌になりながら、部隊長の男は返す。

「奴らの研究が終わってからだ。それと……」

隣を歩くメンバーに不敵な笑みを浮かべ、言う。

「いい加減本名で呼んでくれよ、俺の名前はニックだ」

その言葉の真意を正しく理解したメンバーは、さらに体を折り曲げながら歩く。


「……1つ、聞いていいか?」

「なんだ?」

回想に浸っていたニックはファーティアの言葉で意識を現実への引きずり戻される。

「なぜ、君たちカオスインサージェンシーは本当にO5評議会から離反したんだ?君から話を聞いた時はにわかには信じがたかったが……」

O5評議会によって隠匿されていた超機密事項を、彼の口から聞いた時、ファーティアは天地がひっくり返ったものだ。なにせ、今まで目の敵にしていた者たちがその実、まだ財団下にあり、しかも本当の離反を企てているとは。

「そこまで待遇が良くなかったのか?」

全くの見当違いなことを言うファーティアに笑いが溢れる。

「いいや、あそこでの待遇は……ま、多少キツかったとはいえ破格だったな」

「だったら、余計に……」

そこまで言ったファーティアは、その顔を見た。
何者よりも、貪欲に飢えているその顔を。それを感じ取ったファーティアは苦笑を浮かべ、もう問いただそうとはしなかった。代わりに、今思い出したかのように目の前の男に尋ねる。

「そう言えば、君の本当の名前はなんていうんだ?」

その男は、少し考えたあとに飢えた笑みを更に深めて。

「俺の名前は……マイケルさ。覚えておきな」

直後、猛烈な慣性が車内で猛威を振るう。

「……ははは、ははははははは!」

その笑い声は、暗く、高い空に響き渡った。ニックの口の中には、何物にも代え難い甘味が広がっていた。

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