なんか戦車戦っぽいのを書いてみる

"ブレードエレメントリーダー、ブレード1-1。降車班から発見の報あり。戦車14両、PC8両。"病気"の兆候あり。指示を乞う。"

「ブレード1-1、ブレード1-6、AFVと交戦後、後退せよ」

2個の降車班がジャベリンを、俺たちの1000mほど先に居る2両のM1192A1騎兵戦闘車がTOWを発射し、計4発のミサイルが不揃いな横隊に迫る。車長用ディスプレイには砲塔後部から火花を散らし、次いで車体の後部全体を派手に燃え上がらせながら擱座するT-80が映る。CFVはブッシュマスター機関砲を発射し、更に1両のBMPが爆発する。

「装填手、AP!砲手、1時方向の戦車!2000!」
"Up!"
"ID"
「撃て!」
"on the way!"

APFSDSが轟音と共に音速の5倍近い速度で撃ち出され、65tの巨体が身を震わせる。T-80の砲塔が派手な火花を散らしながら宙に舞い上がる。それが重力に引かれて落下に転じるのを見届ける余裕はない。同じ指示を出し、再び衝撃、轟音、火花。後退に成功したIFVも2発目のTOWを発射し、更なる殺戮に加わる。


"病気"に掛かったAFVの識別は難しくない。第一に、乗員は人の形をしていない。赤い毛糸がこんがらがった塊にしか見えないそれは肉眼でもFLIRでも見間違いようがない。次に、奴らは車体から一部を必ず露出させている。それが何かしらのコミュニケーションの為なのか、別の意図があるのかは分からないが、肉腫をはみ出させた車両を見間違える筈は無いし、熱分布も通常の乗員のそれとは明らかに異なる。そして何より、"病気"の奴らはロシア軍戦車部隊の教義に沿った動きをしない。発射速度も射撃精度も機動も何もかもがでたらめだ。

"感染者"に関してもそれは同じだった。初期症状は赤い苔のような何かが顔面を始めとする皮膚に生じ、それは巨大な肉腫へと変形していく。最終的には人とは似ても似つかない形に変わる。故にそれらの兆候が見える者は民間人であっても直ちに射殺する。そういう命令だった。部下たちはそれを聞いて動揺を滲ませた。当然だった。俺たちは戦争に勝つ為にエイブラムスでの戦い方を学んだのであって、奇病から逃れようとする誰かに手を下す為じゃない。だが、それが俺たちの世界を守るという事なのだ、と言われればそれを飲み込むしかない。

M1A2戦車4両から成る俺たちの小隊は第815重戦車大隊から切り離され、旅団戦闘団の指揮下で2両の騎兵戦闘車と共にトリビシの北東に進出しており、他に同じ編成の2個小隊が同じ戦域に展開していた。そして俺たちの所属する第53機甲旅団戦闘団は1個師団規模のNATO戦闘群"アレクサンダー"の一端を担っていた。”アレクサンダー”の任務は国境を越えてアゼルバイジャン側に撤退するロシア軍の残存戦力を支援し、また奴らが"病気"ではないかを監視する事。作戦前のブリーフィングで俺たちは初めて、自分たちが何を相手にすることになるのかを教えられた。尤も、それよりずっと前にCNNではここで何が起きているのかを流していたから、特段驚きは無かった。メディアは奴らの事を”怪物”、”異星人”。

過去にああいう未知の存在を指して使われてきた様々な名で呼ぶが、俺たち前線に居る連中は別の言い方を使う。”Reds”と。

トビリシの師団司令部からロシア軍の機甲部隊が接近中の一報を聞いた時、俺たちの間に最初の緊張が走った。俺は装填手にHEAT装填を、砲手には先頭のBMPに照準を合わせるよう指示し、自分は車長用CITVでそれらの車列を観察した。そいつらが"正常"である事が分かると、俺はキューボラから頭を出し、昔ながらのフレアで彼らの居場所を教えてやった。

BMPから顔を出したロシア人はまだ若い少佐だった。彼は疲れと怒りが混在した表情を浮かべながらも、流暢な英語で感謝の言葉を述べた。俺は彼に労いの言葉と共にこのまま西へ進むよう伝えた。彼は去り際に、殿の小隊が逸れてしまった事、そして彼らに出会ったら”慈悲をくれてやってくれ”と言ってきた。


「目標、射撃停止。ブレード1-6、ブレードエレメント全車はキルボックス・アルファヴィルまで後退して横隊を形成する。運転手、移動」

陣地転換後もやることは同じ。俺の号令に呼応してだいたい10秒に1回のペースで120㎜が吠え、その間を埋めるように30㎜の短い連射が未だに動く車両を狙う。不揃いに撃ち返してくる敵の砲弾はこちらを捉えられてはいない。当然だ。T-80を操っているのはかつて俺たちが訓練を受けた時に想定されていたような精強なロシア兵ではない。

あの若いロシア陸軍の大隊長代理が気に掛けていた中隊の成れの果てを殲滅した後、俺は一番見たくなかった物を見て、一番聞きたくなかった言葉を聴いた。それは助けではなく、慈悲を乞うものだった。俺たちが殲滅した車列は、恐らく民間人を連れて撤退する間に奴らに襲われたのだろう。炎上するBMPから這い出てきた彼は、確かにブリーフィングで見せられた写真と同じ兆候を示していた。血とは明らかに異なる赤色で染められた顔。彼に痛みを感じる機能が残っているかは定かではなかったが、もしそうならばせめて最後は安らかであるべきだと思った。そして、俺が任された以上、俺は事を為さねばならない。車長用の50口径で哀れな男の顔面を狙い、彼の体が崩壊するまで連射した。これは慈悲だと自分に言い聞かせ、俺は辛うじて心が挫けるのを防いだ。願わくは彼と彼の仲間が神の元に召されん事を。

"ブレード1-6、こちらブレード1-4、北からソフトスキン1両、兆候は不明。交戦するか?"
「ブレードエレメント全車は待機、交戦に備えろ。ブレード1-6は接近して確認。運転手、前進だ」

"ブレードエレメント・リード、こちらセイバー6。北東にRedsの集団が接近中、警戒せよ。砲兵は陣地転換中。A-FACが待機中。Fastmoverは5分後に到着する。"
後方の司令部が告げる。10マイル後方の砲列が陣地転換を迫られているという事は、即ち敵がそれだけ迫っているという事だった。CASはその穴を埋めるために飛んでくる。そしてCITVには北東から迫る群れの先鋒がちらほらと見えている。俺は砲手にトラック以外の全ての敵、即ち全てのRedsと自由交戦を命じ、砲手は装填手にHEATの装填を指示した。

俺はCITVの視野をトラックに戻す。その荷台には負傷したロシア兵の他に民間人が大勢乗せられていた。若しかして今しがた俺たちが殲滅した哀れな1個中隊は、彼らを救出しようとしたのではないか。そんな考えが頭をよぎる。Reds共に飲み込まれるのが先か、CASに巻き込まれるのが先か、いずれにせよあのトラックが生き残る為に残された時間はあまりに少ない。俺たちには120㎜と12,7㎜、そして7.62㎜が2丁あるが、彼らにはそれがない。CITVで見る限り、"病気"の兆候は見えなかった。しかし、全員がそうとは限らない。

俺は第三世代型FLIRの解像度の高さをこれほど恨んだことはない。荷台に乗る少女の恐怖に泣き叫ぶ顔がはっきりと映っている。

上空を不細工なプロペラ機が通過し、俺たちから前方3000mほどの地点にRP弾頭を撃ちこむと、白い煙霧がそこから立ち上った。不意に別の方向から姿を現した4機のF-16が緩やかに降下し、一斉にMk82を切り離すのが見えた。48発の500ポンド爆弾が地面の数m上で爆発し、致命的な破片で辺りを埋め尽くしたが、それによって生じた穴はすぐに埋められてしまう。続いてヴァイパーは編隊を維持したまま機銃掃射を数度行い、その度に爆弾ほどではないが赤い津波に切れ目を作った。

俺は反射的にドライバーに再度前進を命じ、トラックの背後に横付けするよう命じた。そしてM4を手に取り、俺はトラックの元に走った。ほんの2~30mほど。しかし俺が手を振ってトラックに合図すると同時に、俺は今日で一番嫌なものを見た。

唐突に樹皮めいたささくれに覆われた巨大な掌のようなものが地面から現れ、それがトラックの荷台を掴んだ。指の一本一本から骨で出来た枝のような物が、荷台の全員を突き刺すと一瞬だけ無数の悲鳴が上がり、次いで静かになった。俺は慌てて伏せながらM4を構えたが、撃つ前にそれは木っ端微塵になった。何かが弾けるような音が連続して響き、稜線の先から2機のナイトアダーが飛び去るのを見て、俺は何が起きたのかを悟った。奴を撃ったガナーは、その直前に俺が見ていたものと同じ光景を見たのだろうか。それでも、数百m離れた所からFLIR越しに見るのとは全く違うだろう。ドライバーがハッチから顔を出し、さっさと戻って来いと俺に叫んでいる。

俺たちがその後交戦した相手は、肉腫に穢された機械化歩兵部隊じゃない。雑に描いた人型のシルエットをそのまま立体化したような何か、巨大化した腕でナックルウォークをする筋肉質な巨人、歪なケンタウロスの群れだった。司令部はHEATとキャニスターの配分を増やしておくべきだったと思う。先鋒との距離が2,000mを切った時点で俺は配下の全車に交戦を命じた。

「装填手、キャニスター!砲手、Reds!1200!」
"Up!"
"identified"
「撃て!」
"on the way!"

醜いクソ野郎が肉片を飛び散らせながら爆散するのを見たが、それでどうにかなるようには思えなかった。俺たちのいた高台から見渡す限り、敵の姿が地平線の先まで途切れる事は無かったからだ。分断される訳にはいかない。

その時だった。

低いうなり声のような音が辺りに轟き、それは銃砲声が鳴り響く中でも明確に聞こえた。そして俺は稜線越しに何か巨大な物がゆっくりと体を揺らしているのを見た。爆炎によってそのシルエットを浮かび上がらせながら悠然と歩む姿と、途方もない質量が地面を移動する事によって生じる爆発的な衝撃音が断続的に響き続けている。奴が身を揺るがせる度に有象無象の”Reds”共が体から剥がれ落ちる。上半身は明らかに人を模した形状をしていたが、両肩から巨大な爪を持つ第二の腕が生えており、有翼の悪魔を連想させるシルエットの様だった。

2両のエイブラムスがそれに向かって砲撃しているのが、そしてそれが丸ごと爪で薙ぎ払われ、投げ出された乗員ごと宙を舞うのを見て、俺は悲鳴を上げそうになるのを必死で堪えた。司令部は中隊全車にキルボックスの放棄と全力後退を命じ、今や全火力が俺たちの目の前に注がれている。これは奴らと俺たち、どちらが致命的な破壊を齎す事が出来るかの競争の様に思えた。


俺たちはB-52の絶え間ない絨毯爆撃で生じた余地を使って何とかトリビシまで辿り着く事が出来た。この日何度ファックと言ったか覚えていない。救出できた民間人は1,000人にも満たず、俺たちは半数を失った。他のエレメントは俺たちほど幸運ではなかったらしい。あの体高200mはあろうかという悪魔が全てをひっくり返したのだ。だがそれももう終わり、奴はバンカーバスターを集中的に撃ち込まれて引き裂かれた。問題は、奴らは大勢いて、今もあの醜いクソ野郎共を生み出し続けているという事だった。

上層部は何の捻りもなく奴らをジェネレーターと呼ぶことにしたらしい。呼び名などどうでもいい。奴を殺せる手段がある限り、俺たちは戦い続けられるだろう。少なくとも俺たちはその時まではそう思っていた。

俺たちは翌日第815重戦車大隊の指揮下に戻り、アサシン中隊の一員としてトビリシの北側に配置された。Redsの群れが南西に侵攻の向きを変え始めたのを受けて撤退するNATO軍部隊の後衛、その一翼を担うためだった。俺東側はブリザード中隊、西側にはエコー中隊が配置され、それぞれの中隊本部には1個偵察装甲小隊と目標捕捉小隊の分遣隊が編入されている。砲兵は市街地に新しい陣地を築き、合計18門の155㎜砲が俺たちを支援しているし、1個中隊16機のナイトアダー攻撃ヘリコプターに加えてA-10、F-16、更には空軍のB-52も上空に居る。昨日までの俺たちにとってそれは勝利を確信させるに相応しい絵面だったが、今となっては崩壊を少しでも遅らせようとする儚い抵抗にしか思えなかった。それでも俺たちは全く以て度し難い事に、俺たち以外に殿を務められる奴らが居ない事を心の底から理解していたし、それを受け入れていた。病魔に侵された丸々1個連隊規模のロシア軍機甲部隊が3,500m先に現れてもそれは変わらなかった。

中隊指揮官は敵の先鋒を発見すると傘型陣形のまま交戦を指示し、動く車両が居なくなった所で横隊に移行、そのまま砲撃の支援を受けながら前進を開始した。降り注ぐDPICMが装甲板をも貫く無数の弾片でミニチュアサイズの地獄を作り出すのを眺めながら、俺たちはそこから抜け出してきた奴らをAPFSDSで狙い撃ちにしていった。敵の応射は散発的で精度が低いのは相変わらずだったが、昨日よりもずっと数が多い。その中にRedsが混じっているのも気づいていたが、兎も角こちらに向かって撃ってくる奴を仕留めるので精いっぱいだった。そのうち司令部の無線は市街地にReds共がが侵入した事を告げ、航空支援は全てそちらに行ってしまった。砲撃も止み、俺たちは孤立無援になった。UAVからの情報も途絶え、俺たちは側面からばらばらに近づく敵を見逃しつつあった。

不意に森の中から現れた1両のT-80にHEATを撃ちこんだが、爆発反応装甲は期待通りの効果を発揮し、奴はまだ動いていた。たった400mだった。次弾を放つ前にそいつは文字通り俺たちのエイブに突っ込んできた。凄まじい衝撃音が聞こえ、全てのディスプレイと照明が真っ暗になったのを感じながら、俺は気を失った。



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