記憶の書き起こし

12時過ぎ、高校三年生は午後の授業がないからこの時間に下校する。私はプラットフォームで電車を待っていた。ただそれだけ。特別なことは何もなかった。電車待ちの間、左手に持ったスマホに視線を落とし、イヤホンから流れる音楽を聞きながらTwitterを眺めていた。充電そろそろ切れそうだし、さっさと帰りたいな。そんな、普段と何ら変わらない日常風景。

「3番線、特急列車が通過します。安全の為、黄色い線の内側までお下がりください」

機械的な男性の声がアナウンスをする。私はもちろん黄色い線の内側に居た。そもそも向かい側のホームだから私には関係の無い事だった。遠くから特急列車の走ってくる音が迫る。その間も私はスマホに視線を落としていた。これが私の幸運だったのかもしれない。

突如として、イヤホン越しに耳を劈くような警笛が鳴り響いた。ままあることだ。黄色い線の外側に人が居たり、危ない時に警笛は鳴る。ここはホームドアがあるような駅ではないから、そんなものにはすっかり慣れている。警笛が鳴ったからといって、わざわざ視線を上げたりはしないのだ。これもまた、幸運だったのだろうか。

特急列車が向かい側のホームを通過する。左から右へ、時速何kmかは知らないが、とにかく速い列車が走り抜けた。ここで私は、ふっと視線を上げた。向かい側のホームに、ガラスのようなものが散らばっていた。
ああ、何かが特急列車にぶつかったのかな? これはしばらく運転見合わせで帰れないかもなぁ。そう思った矢先、視界の端にいた同じ高校の男子生徒が、明らかに動揺して後ずさりした。隣で同じく電車待ちをしていた女性がパッと口元を抑えた。何かがおかしい。そして私も気づいたのだ、その異変に。

ガラスが散らばるその数メートル右に、人が倒れている。その下、線路に、それは落ちていた。片脚が、太腿から下が、落ちていた。

……ああ、人身事故が起きたんだ。

一瞬の間を置いて、私の頭はそれを静かに理解していた。あまりにも冷静に、状況を受け入れていた。とは言っても人身事故の現場に居合わせるのはこれが初めてだ。冷静ながら、やはり私の脳内はパニックだった。やがて駅内に人身事故による運転見合わせの放送が流れる。私はゆっくりとホームから立ち去り、急にできた数時間の暇をどこで潰すかを考えていた。
駅前にはマックがある。ちょうど祖父からお小遣いをもらったばかりでお金に余裕のあった私はマックへと向かった。食欲が失せたりはしていなかった。

600円と少し払って、てりやきマックバーガーのセットを頼む。昼ごはんはまだだったし、丁度いい。コカ・コーラゼロと、バーベキューソースのナゲットと、てりやきマックバーガー。私のいつものセット。
バーガーの包み紙をくしゃくしゃと開いて、ひとくち、ふたくちと食べ進めていく。時々ナゲットをバーベキューソースにつけてつまみ、コーラで胃に流し込む。
そうしているうちに、店内には同じ高校の生徒が次々と現れた。皆人身事故による足止めを食らっているのだ。

「人身事故、見た? やばくね?」
「見た見た、線路に脚が落ちててさ」

そんな会話が聞こえる。ああクソ、スマホの充電ちゃんとしてればよかった。充電は少し前に切れたばかり。イヤホンしてればこんなの聞こえてこなかったのに。
私は黙々とバーガーを食べ進める。そう。うっすら気づいている方もいるだろうが、私には一緒に帰るような友人が居ないのだ。こうして1人でマックへ来るのなんてとっくに慣れている。学校で昼食をとるときも食堂でいつもひとり、片手でスマホをいじりながら食事をしている。決して友人が居ない訳では無い。クラスも文理選択も違うから、あまり予定が合わないのだ。

さすがにマックでご飯食べてるだけじゃあ数時間は経たない。しかしこの短時間で電車が運行再開するとも思えない。お店には申し訳ないが私はしばらく店内に居座ることにした。リュックサックから100枚入りのルーズリーフと筆箱を取り出して、ルーズリーフを1枚ひらりと目の前に置く。

さて、なにを描こう。

注意して欲しい。これは決して「書こう」ではなく「描こう」である。
私の趣味は絵を描くことで、ルーズリーフは専ら勉強用ではなくお絵描き用に消費されていた。受験生なのに全く気楽なもので、その消費されたルーズリーフは私の"お絵描きファイル"へと綴じられていく。


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