ピアノに舞う蝶

「ピアノ、十数年は触ってねぇな」

ポロッと口をついて出た言葉。雑談の中の小さな一言。目の前でウクレレの調弦をしてる野郎は  ニヤついたままだが  ちょっと驚いたような顔をして、へぇ、意外だな。と呟く。

「コニー、ピアノ弾けたのか?」

……よりによってコイツに言ってしまったことに後悔する。

「……ああ、もうずっと前の話だけどな。今はもう弾く気もねぇよ」
「そりゃ残念。私のウクレレとセッションできると思ったんだがなぁ」

なんでお前のウクレレと俺のピアノでセッションしなきゃなんねぇんだよ、お断りだ。
言外にそんなことを仄めかす視線を送る。奴は気付かず再びウクレレに視線を落とす。ペグ1を細かく動かしては弦を弾き、なーんかズレてるなぁとかぶつぶつ言いながらまたペグを弄る。チューナー2も使ってないのによくやるもんだ。

「……クレフ、お前絶対音感とか持ってねぇよな」
「うーん。持ってないけど、わざわざチューナー買うのも面倒くさくてなぁ。勘と経験で音を揃えてんだ」

大体揃ってきたな。なんて言って、奴はウクレレをじゃーん、とかき鳴らす。少しズレた音が耳に残る。

「3弦、もうちょい緩めろ。微妙に高くなってる」
「おぉ、よくわかるな……コニーは音感持ちなのか?」
「いや、そんなことないが。耳に残ってんだよ」

ずっと前に辞めたはずのピアノ。その音が頭の隅にこびりついて、離れることを拒否していた。


「やぁコニー! 久しぶりだね」
「ん……? ああなんだ、ブライトか」

大きなルビーが特徴的な首飾りを揺らして男がこちらに歩いてくる。前会ったときは別の男だったのに、また身体が変わったらしい。

「クレフから聞いたけど、コニーはピアノが弾けるんだってね?」
「……あの野郎……誰彼構わず喋りやがって……」

やっぱりアイツに言ったのが間違いだった。クソ、過去の俺め。なんてことをしてくれたんだ。

「ってことはほんとに弾けるんだ?私はてっきり、 クレフがまた嘘ついてるのかと思ってたよ」
「あーそうそう! 嘘だよ嘘! 俺にピアノなんか弾けねぇよ!」
「コニー、娯楽室のピアノを弾いてみる気はない?」
「話聞けよ……ってか、あそこにピアノなんてあったか?」

娯楽室だとか休憩室だとか呼ばれている場所。そこにあるのはゆったりとしたソファ  俺はそこで寝るのが好きだ  や、雑誌や、小説。あとコーヒーメーカーなんかだ。ピアノなんて置いてないはず。

「どういう訳か娯楽室の方に予算が回ったらしくてね。職員全体のストレスレベルが云々」
「それでピアノが?」
「そう。少し前から要望はあったみたいだよ? 触る人なんてかなり限られてるだろうけどねぇ」

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