とある妄想に打ち勝った、とある青年の話。

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"プロトコル・最後の反復試行"

██████████周目開始。

当周回を以て目標は達成され、当該反復試行は完了となる。





















20██年3月22日


場所: サイト-93



「ヨーコ、また帰ってきたよ。

……ううん、勝てなかった。


……でも大丈夫だ。僕たちは何度でもやり直す。ほら、今回も僕が君を強くしてあげるよ。」


気付くと、僕はヨーコ ──セラピーアニマルの狐だ……── の頭に手をかざしていた。ヨーコが、きょとんと首を傾げる。

あぁ、ダメだダメだ。また妄想に打ち勝つために、別の妄想に頼ろうとしている。


「おはようございます。気分はどうですか?」

低く落ち着いた声がする。

「あぁ、先生……。えぇ、大丈夫です。……ちゃんと自分で自覚できました。」

「それは良かった……。少しずつ、焦らずに治していけば良いんだからね。」


二言三言話して、先生は帰っていった。








……僕は時に、ありもしない事を自分の中で信じ込みかけたり。


……またある時は酷い幻覚を……

……裏庭のただの小鳥が、何メートルもあるドラゴンに見えてしまったり。



……でも。それでも。

……僕はヨーコの助けを借りて、いつか妄想に打ち勝って行くんだ……。







……それが、ぼくの決意だった。

















コツン、コツン、コツン。足音を響かせ収容室からの廊下を1人歩きながら、"先生" は深い溜め息を吐いた。


職務では固い男だが、プライベートは異なるという、私はそういうタイプだったんだ。呑気に、ソシャゲなんかして。

しかし突然、重苦しい絶望が全てになってしまった。あの通達を目にしてから。


「とあるオブジェクトが、間も無く収容違反する」。そう通達が届いたのは今朝だった。既にあらゆる収容維持の試みは悉く失敗し、間も無く世界が終わる事は確定事項なのだという。


何故わざわざそんなことを……

「……何故、この私なんかに通知したんだ?」


ほとんどの職員たちは、終焉のその瞬間が訪れるまで、この事を知らぬまま過ごすのだそうだ。ならば、私にも知らせなくて良かったのでは……?出来ることなら、その最後を迎えるときまで、呑気にスマホでソシャゲの周回プレイをしていたかった。ダントツ最弱と言われてしまっている推しキャラを、育てまくって大ボスを撃破するのが夢だったのに。



……そもそもだ。そもそも私は、そんな最高機密のような事実を伝えられるべき「ほんの一握りの職員」ではない。私は確かに、これまで多くの実績を上げてきた。"病室" で狐と戯れているあの青年は私の1番の実績の証明であり、1度Keter級の危機の芽を未然に摘み取った事があるのは事実だ。だが……、

……今回は話の規模が違う。私以外に、もっと通知すべき職員は他にいた筈だ。




…………。






……終焉、




……敗北、




……周回、




……終わり、敗北……






……纏まらない疑問を巡らせているとふと、「私に通知した理由は、私自身の地位や業績とはまるで関係無い別の何かなのではないか」という考えに至った。例えばクロステストの時などは、その担当職員が突然通達を受け取ったりもするそうだ。

……でも、世界はもう終わるのだから……

「……むしろ狐の方かもな。」

世界の終焉を前に、上層部はセラピーアニマルを欲しているのかも知れない。

「……はは。」

自分のジョークで軽く笑った。乾いた笑いだ。そもそもセラピーアニマルならば、何もあの狐でなくとも他所から調達すれば良いのだ。元々あの狐だって……


……あの狐何処から調達したっけ。











数秒間考える。






……あぁ、そうか、分かった。

……完璧に分かった。所謂天啓ってやつだな。



……暗い廊下に、コツコツと足音が木霊した。





















20██年3月22日


場所: サイト-██

その日、世界の存続は諦められた。



収容維持は、実質的に放棄する。



それが下された結論だった。


対象による終焉は、間も無く開始されるだろう。


全ての努力が塵と消え、何の意味も無かったのだと突きつけられるようだった。

財団上層部、「一握りの職員」の中でも更に一握り。何人分かの低く深い嘆息は、時折思い出したように沈黙を破り、そしてまた消えを繰り返していた。

間も無く、対象は収容下を脱するだろう。勿論我々は、最後のその瞬間まで、世界の終焉を食い止める手段を探すシミュレーションを継続する。だが仮に方法があった所で、我々がそれを探し当てられる事は無いだろう。

……そんな言葉から始まる文面が諦観と共に書き起こされ、そしてそのエンターキーが押下されて配下の職員達へと通達が下ったのが5時間前だ。




「……最後の悪足掻きを、認めてくれて有り難う。」

焦げ茶色の長机に向かいあって座る彼らの中の1人が、そう口を開いた。

「…………あぁ。だが無意味だろう。他に出来ることは何もないからという、ただそれだけの事だ。」


暫くの沈黙の後、そう返した男は更に言葉を続ける。


「何しろ、あれが異常性を発揮する為の条件がまるで満たされない。オブジェクト自身の認識がどうであれ、SC……」


その言葉を遮るように、卓上の専用電話機から緊急の要件を知らせる着信の電子ベル音が鳴った。オレンジ色のランプはクリアランスレベル3職員からだ。


言葉を遮られた男が一瞬の静止を経た後手を伸ばす。何も知らない下位の職員達のため、いつも通りの業務を続けてやるのも残された日々の中での使命の1つだ。









……受けた話は、かなりの長さがあった。だから、「その件は意見書に纏めて再度提出してくれ」と伝えた。










そしてその一幕から、1月が経過した。





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20██年4月30日


場所: S██-██17-H





キョロキョロ、キョロキョロ。冷たく硬い足場の上で、1匹の狐が戸惑うように辺りを見回している。

「本当にいいの?」と言いたげな狐に、ポニーテールの博士が静かに声をかける。

「……今日は特例なの。上層部……偉い人から、大事な事を知らされてね。」

博士の顔をキョトン、と見上げ首を傾げるその狐。

「ほら、あなたも彼も、今まで外に出て冒険なんて出来なかったじゃない?」

……そう、この狐、本来であれば収容されるべきオブジェクトだ。博士はSCP-150-JP報告書の実験記録を思い出す。

人間と500円玉の、「価値」を入れ換えたこの狐。
「直立不動の人間」になった500円玉と、自販機で使用できてしまった、元人間だった500円玉。


(本来だったらあたし自身が、入れ換えられてるところね……)

博士は、SCP-150-JPを抱えて地下から縦穴を登る。



……もうこの期に及んでは、博士が入れ換えられるような心配は起こり得ないのだった。


(さぁ、上に行きましょう……。)












1人と1匹はささやかな、「最期のパーティー」へと向かうのだった。

















20██年4月30日


場所: S██-██17-プライム










僕は……、今もまだ妄想の中に居るのだろうか。


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……僕は先生たちに連れられて、もう十何年ぶりに施設の外に出た。いや、もしかしたら施設の中庭なのかもしれないが。

……でも、目の前に広がっている光景は、余りにも現実離れしていた。遥か地平線まで続く真っ白な大地に、傍らにはストーンヘンジの様な、しかしそれよりも遥かに滑らかで浅く紋様の入った表面の環状列石。

「良いんですよ。折角長年の治療が部分的とはいえ身を結んだんですから、お祝い兼ねてのパーティーです!」

先生はニコニコ顔だ。先生は、僕の妄想や幻覚は少しずつ快方に向かって来ているのだと言う。

「本当に……良くなってるんでしょうか。」

先生は、僕の肩にぐっ、と手を置く。

「大丈夫だよ。何も一気に治す必要はない。無理をせず、少しずつで良いんだ。」


……僕は、再び目の前の空間を見渡す。思い出せないが、幾度と無く似たような幻覚を体験しているような気がする……

……凄く、ボンヤリと。



















僕は一体、いつから妄想の中に居たのだろう……


最初は、スーツ姿の集団からストーキングを受けている、という妄想だった。それは大学での勉強に全くついて行けなくなったのと同じ時期だから、それを切っ掛けに僕は壊れてしまったんだと思う。







ある時などは、自分には物凄い超能力が眠っているのだという妄想があった。……勿論、現実にそんなことはあり得ない。





……そういえばこうなってしまう前、学生時代の僕は科学者になるつもりだった。環境やエネルギーの問題を、変えられると本気で信じていた。でも、その結果挫折してこのザマだ。





……今の僕は、自分自身すら救えずにいる。ヨーコの存在に助けられ、それでようやく自分を保つ努力をしている……。


















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「……あぁ!こら、はしゃぐんじゃないの!」

ふと、そんな声がした。僕たちより先回りしてBBQを用意してくれていた女の先生 ──とても偉い先生らしい── は、抱き抱えたヨーコを笑いながら諌めている。

「あぁ!はいはい、もう我慢しなさいって言ったのに、すぐあたしを困らせるんだから……」

博士に缶詰めを出して貰って、鶏頭水煮をぱくぱく。そうだ、ヨーコだって僕のために、ずっと頑張っててくれたんだ……。






……だからきっと、自分で自分の幻から逃げてしまうのはフェアじゃない。






僕は、意を決して先生たちに、自分に今見えている光景の事を伝える。



「先生……実は今、僕は変な空間に居て、目の前に環状列石があるんです。そう見えてる、って話です。何かの神殿跡地みたいな……」

「……ふむ。神殿跡地かね。」

主治医の男の先生は、少し考えた後で僕に答える。

「……それはきっと、君がずっと自分を守るためにその中に居た妄想の象徴だよ。」

「妄想の象徴……、ですか……?」

「あぁ。今は君自身が、そこから出ようと頑張っている。だから何かを閉じ込めて守る神殿ではなく、柱だけの神殿跡地になっているんだ。」

……そうか……。僕自身も、頑張ってきたんだったな……。






……自分の見ている世界や認識が妄想で、まるで信用できないものだという事を。それを受け入れるのにすらうんと、初めは時間がかかった。

でも今の僕はしっかりと、その事実と向き合えている。治して行こうと思えている。



……それならもう少しだけ、前向きになってみても良いのかもしれない……。


「焦らなくていい。ゆっくりと、君のペースで良いんだよ。」

「……有り難うございます。」

「うふふ。……ほら、お肉冷めちゃいますよ。」



……うん、今は急がなくて良い……。

……このパーティーを楽しむことが、きっと今僕がやるべき事だ。




それがきっと。











……自分の今を乱さない事が、自分の幻と闘うことでもあるんだ。
































パキッ。











……ほら、これは昔と変わらず綺麗だ。









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本当に些細な事だけど、それは遠い昔と同じように綺麗に割れて。


そうしたら、何だか心が楽になった。ずっとのし掛かっていた悪い妄想が、1つ消えて空が晴れたみたいだった。



































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(皆さん……!彼は、打ち勝ちましたよ……!)


博士は、ふっと微笑む。

思えば、縦穴の下に降り立ったときも、狐に触れられ、入れ換えられるその瞬間も、件のデカブツは暴れるどころか身動ぎ一つしなかった。必然的に、恐ろしく運が良かったんだろう。何故なら、彼は打ち勝ったのだから。
























「……あの、使い終わったお箸どうします?」





喉から明るい声が出た。さっきまでよりも明るい声だ。




「うん、こっちで処分するから、このゴミ袋に投げ込んどいて!」












































報告書更新

説明: SCP-2317はかつて太古の実体「████、世界を貪る者」(名前は意図的に削除済)として知られていた1膳の割り箸(使用済)です。現在は防腐処理を施した上でサイト-19にて保管されています。
特筆すべき点として、SCP-2317は極めて正確に二等分されており、またその破断面は極めて理想的な平面に近似しています。


これからも続く世界。そして例の封印の中には代わりに、微動だにしない巨人が永遠に留まり続けるのだろう。













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20██年5月13日


場所: サイト-93

そして、日常が帰ってきた。






後日自室のデスクで1人、PCを叩く作業を終わらせる博士。
……そしてうーん、と伸びをする。


(……いやしかし、本当に不思議な任務だったな……)





無理もない。終わるはずの世界が、本当に突然揃ったピース群が組み合わさって、救われてしまったのだから。

そしてこの任務で彼女は本当にただ、パーティーをしただけなのだから。



(それにしても、あの狐はいつの間に、セラピーアニマルにされていたんだ……?)







あの青年、SCP-2973-JPはかつて自分の異常性を自覚しかけて、それ故に投薬され、今のカバーストーリーを適用されたのだそうだ。しかし、セラピーアニマルにわざわざ別のオブジェクトを選定する必要がある訳がない。




上層部は、それは世界を救った改変事象の一部か、付随する事象なのだろうと言っていた。あの時に元々実施される筈だったプロトコルには、SCP-150-JPは組み込まれてすらいなかったらしいのだから。











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「……うーん。」






やはり狐につままれた感覚。そしてその感覚に煙に巻かれまいとして、博士はあの日の通達の文面をいつまでも読み返し続けるのだった。


















一方……








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……その一方で、同じ件の事を至極納得している男が1人。






定期の"カウンセリング"を済ませた後、私は例の通達の文面を見返していた。

あの通達があった日、天啓のように気付いた私は緊急要件の連絡を入れ、「意見書に纏めて再度提出してくれ」との指示を返された。


そして今やその通達文は、私にとある1つの感想を抱かせていた。

















「ソシャゲ、また周回プレイしよう……。」











挑むのは、現状解放されてる中では唯一、銀のレアアイテムが入手できるボスステージだ。

「……何が "重課金して漸く使えるキャラ" だ!」

推しキャラの汚名を晴らすため、今日も私は周回をする。今はまだ勝てなくたっていい。銀のアイテムで強化する度、彼女は徐々に強くなる。

何たって、時間はたっぷりあるんだ。







そしていずれにせよ2人のPCには、あの時の通達履歴が他とは別のフォルダに分けられ、記念碑の様に保存されているのだった。















ご批評頂きたい点

①上記スポイラーに示したストーリーの内容、筋書きは伝わるか

②UV、NV、DVのいずれか、またその理由。

③改善した方が良い部分は見受けられるか、また、もしあるとしたら具体的にはどのような修正を行うべきと見えるか

宜しくお願い致します。


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  1. portal:5662538 (14 Sep 2019 13:02)
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