小さな一歩だが

古来より空は知的生命体の憧れだった。さらに高く、さらに高く。地を這う他に生きる術を持たない知的生命体の宿命といっても良い。そして、かのライト兄弟による友人飛行実験の成功。しかし、ロマンは尽きない。願望を叶えた人類は次に空のまたおおぞらに憧れを抱くようになった。

「3」

「2」

「1」

最適解を形にしたような美しいフォルムから炎が放たれた。空気を裂いて宙へ舞う。失敗地点を超えて大空へ。

まさにこの日、彼らの宇宙飛行が初めて成功した瞬間だった。


SCP財団、月面サイト建設計画を公表


SCP財団は今日5時の会見で、NASAと共同で月面上に研究施設を建設する計画を発表した。同計画は地球外に存在する超常を収容することを主な目的としているが、同時にそれらの研究、地球外を起源とした超常のメカニズム解明にも力を入れる。

SCP財団は1998年以前から月面に収容施設を保有していたが、地球外における超常現象や超常物品の研究はあまり進んでいるとは言えない状況であり [ … ]

「それってこのサイトが発表された時のニュースですか」
「おはようございます、[後で記入]さん。なんとなく思い出深くて……定期的に読み返してるんです」
SCP財団外宇宙支部、新月面サイトが運用を開始してから、早[後で記入]年。


突然の出来事だった。爆発のごとき轟音がサイト中に響き渡る。逃げ場のない宇宙空間、

それは人類の空への渇望、予期しないロケットの来訪だった。

「緊急事態発生!機動部隊は飛来したロケットの調査を開始しろ!」
こういった面倒ごとは財団の仕事だ。機動部隊のメンバーが宇宙服のロックをかける。通信装備の調子を確認してから、彼らは二重密閉扉から月面へ飛び出していった。

宇宙空間において聞こえるのは神経が発する高音と、血流が発する低音のみだ。空は真夜中のそれよりも闇に沈み、地表は反対に照るような明るさで不自然な光景が続いている。ここにいつもならば灰色の色彩が加わるのだが、今回は遠くに薄桃色の人工物が見えてくる。
 
そして、調査へ向かった人間はロケットから何かが出てくるのを見た。

「なぜ、うさぎがロケットから?」
隣の隊員に通信をすると、彼は怪訝そうな声でこういった。
「あれがうさぎに見えるのか?あれはどう見てもワニだろう」
彼の目の前でうさぎは臼と杵を持ち、もちをつき始めた。まるで昔話のような光景は実際に目の当たりにしても現実味がないように思える。

SCP-977-JP。月の模様の伝承から生まれた動物の概念、Imaginanimalのオブジェクトだ。彼らは形而上の存在であり、接触することは不可能らしい。

「一度撤退するぞ。」
他の隊員に呼び掛けられて初めて命令が出ていたことに気づいた。通常より早い撤退だが、隊長が本部から手の出しようがないことを伝えられでもしたのだろう。どのみち専用の装置とやらも必要になってくる。力の抜けた足で戻ろうとすると、奴らの一匹がこちらに向かってきた。

「こんにちは!本当に申し訳ないのですが、旗を立てるのに良さそうな場所ってありますかね?」
報告書が間違っているのか。何故あいつはこっちに話しかけてくるんだろう。何故声が聞こえるのだろう。何故彼らは旗を立てるのだろう。そもそもの話、あの爆発音はなぜ聞こえたのだろうか。大気圏より外の空間には大気というものが存在しないというのに。

何も言えずにただ見ていると、あいつは不思議そうな顔で踵を返し、適当な目立つ場所に旗を立てた。自然と乾いた笑い声が漏れてしまう。無意識に聞こえないふりをしていたのかもしれない。仲間が砂を踏みしめる音、サイトが発する機械音、一変した状況にいち早く気づいた鼓動の音。

そしてロックを外し、重い外装を脱ぎ捨てる。彼にはまるで月を我が物としたかのようになびく旗を呆然として見ていることしかできなかった。


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月の概念化、既知の超常関与か 救助の目処立たず
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撮影: 恋昏崎新聞社

月面施設救助計画打ち切りへ 恋昏崎新聞社

 今日X日、SCP財団とNASAの共同で開かれた記者会見で月面サイト-XXXX職員の救助を中止することを発表した。理由として、外部から概念空間へ突入することのリスクや計画に不可欠な機器が技術的に生産できないことが挙げられ、サイトへの支援自体は継続して行うとのこと。また、質疑応答の場面では、「該当の超常現象は全く安全であるとみなされていた」という匿名での内部告発について遠回しながらも事実を認める発言がされた。

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