だるまさんはころばない

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皆様は「だるまさんが転んだ」という単語を耳にしたことはございますか。
子どもの時にやった遊び、或いは読者の皆様ならば怪奇を呼び出す呪文といった方が聞き馴染みがあるかもしれません。

ご存知ない方に説明いたしますと、髪を洗う動作、或いはシャワーで泡を流す動作が「だるまさんが転んだ」の鬼が行う姿に似ていることから、この状態でその言葉を唱えるか頭に思い浮かべると、この世のものではない存在が集まってきてしまうといった都市伝説です。


私は中学生2年生の6月にこの話を知りました。あのときはザ・スポ根というような部活動に所属しており、終わるのは日もだいぶ落ちてから。帰り道は集団で帰ることとなっていました。
ある日、一緒に帰っていた友人が「ねぇこんな話って知ってる?」と切り出し、例の都市伝説を語り始めました。
今にも何かが出て来そうな薄暗い状況も作用してか、「だるまさんが転んだ」は私の心にこびりつき、その晩の入浴をとても恐ろしいものに変えてしまったことを覚えています。

いえ、その晩の、だけではありません。この話は、1ヶ月もの間私につきまとっていたのです。
普段はあまり怖い話などは信じなかったので、なぜこれに限って頭にこびりついてしまうのかはわかりませんが、毎日しなければならない習慣に恐ろしい存在が隠れている、というところに恐怖を感じていたのだと思います。

あの話を聞いてから1ヶ月経ったある晩の、シャワーを浴びる直前のことです。私は、ずっと続くこの恐怖から逃れたい逃れたいとずっと対策を考えており、その晩にようやく対策に辿り着いたのです。それは全く「逆の意味」の呪文を唱えれば良い、というものでした。
シャワーを浴びるときに「だるまさんが……」と頭に浮かび始めた瞬間に「転ばない」と言葉を上書きするのです。その時一緒にだるまの映像も思い浮かべながら。
今では安易な考えだとは思いますが、その時の私は「なんでこれをやらなかったんだろう」とまるで正規の大発明をしたかのような気持ちになりました。だって元々だるまさんは転ばないのですから、転ばないとちゃんと念じれば、しかも転ばないだるまの映像もつければさらに良いじゃないか。
と、まぁそのようなことをその日の晩から実行し続け、なんとかシャワーの時間の恐怖を克服することができたのです。


さて、その日は8月の初め、私の所属していた部活動は大会に向けて合宿を行っていました。
合宿といっても、1日中学校で練習して、学校に泊まる、学校でご飯を食べて、また練習をするといった、小規模なものでしたが。
練習が終われば後はただの学生の集まり。女が三人寄れば〜とも言いますが、それは賑やかな夜でした。特に思い出に残っているのは、就寝前に仲がいい子と集まり、寝てしまうまでお話をしたことでしょう。あの話を広めた友人もその集まりにいましたから、その子の主導で怖い話大会などをやった記憶があります。話の中には例の「だるまさんが転んだ」も含まれていました。

慣れない教室での就寝ということもあってか、日本の夏らしくじめっとした熱気が我慢できず、早朝の4時に、目が覚めました。寝苦しさで悪夢でも見ていたのか、汗で敷布団がぐっしょり、息ははぁふぅと必死に酸素を取り入れ、脚全体をがくがくと動かすことを止めることが出来ません。

幸い、この時間には顧問の先生方も準備を始めており、シャワー室の鍵を借りることができました。
最初は冷水で汗を流し、だんだんと温まっていく水の温度に悪夢で震えていた体も暖まり、最後にシャンプーを手に取りました。

「だるまさんが転ばない」
この時にはこの呪文を唱えることもだんだんと習慣付いてきて、逆に言えばあまり念を込めることはありませんでした。

「だるまさんが転ばない」
だるまは依然として意識の中に居続けています。

「だるまさんが転ばない」
だるまは赤く塗られた一般的なタイプで、金の模様が入っためでたいデザイン。片目には少し形の崩れた墨が入れられています。

「だるまさんが転ばない」
すぅっと遠くから伸ばされた手が、だるまの頭を撫でました。

「だるまさんが転ばない!だるまさんが転ばない!」
ここで初めて手の存在に気づいたのです。手は蛇口を捻るような力加減でだるまを倒し始めます。

「だるまさんが転ばない!だるまさんが転ばない!」
少し遅れて私が念じると少しずつ元に戻っていきます。

しかし、手の力は緩むどころか少しずつ強まります。少しずつ倒されていきます。

「だるまさんが転ばない!だるまさんが転ばない!だるまは転ばない!」
私は必死に念じました。どうしてシャワーなんかに来てしまったのだろう。せめてシャンプーだけでも我慢すれば……。

「だるまさんは転ばない!だるまさんは転ばない!」


読者の皆様には申し訳ないのですが、これより先は語れません。なぜなら、保健室で目を覚ましたのが記憶の続きだからです。なかなか出てこない私を怪しく思い、シャワー室に駆けつけた先生たちに介抱されたらしく、きっと貧血かなにかで失神したのだろうと言われました。
さすがその時代というべきか、その後は軽く水分補給と残った朝食を食べたら、すぐに練習に出されました。私としても、あの出来事を思い出すよりかは練習に没頭した方がよかったと言うのもありますが。

ただ一つ言えるのは、あの夏以来、だるまが私の意識に現れることはありません。それだけです。


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