最後の一旗

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「紳士淑女、並びに多くの同志諸君。我々の終わりの時がやってきたようだ」

集結した大日本帝国異常事例調査局(IJAMEA)  正確に言えば太平洋戦争終結後に結成されたその残党の組織  の兵士たちの間から大きなざわめきが起こった。聴衆の中には少しばかりこの計画を知っている者も居たが、それはごく少数にすぎず、この発表は大きな衝撃をもたらした。質問と怒号が次々と演壇の上の発言者に投げかけられたが、彼は部屋が静まり返るまでそれらをあえて黙殺した。全てに答える時間もあったが、今はただ落ち着き静まることを待つ必要がある。

数分の混乱と叫びの後、IJAMEA基地の一角に設けられた講堂は少しづつ静まり返っていき、演壇上の発言者……イノウ将軍がこの混乱に対して答えを与えてくれるだろうと、全ての目が彼に向けられた。

「現在、諸君らが自負するように、」老将軍は旭日が描かれた鉢巻を締め直し、切り出した。「我々は皆、英米や災害といった絶えず続く脅威から祖国を守ることを厳かに誓っている。日々、数百の同志が奔走し、この日本が科学的・文化的に先進した一等国となるよう、英米を筆頭としたいかなる国家も玉体を脅かさないよう、危険の前に生命を顧みず挺身することで皇国を陰日向から鎮護し続けている」

「調査局の先祖はよくやってきたし、我々もその道を固守し作戦を着実に遂行してきた。そして我々の子孫も未来永劫に続く皇国の発展に進んで尽力していくだろう」

彼は一拍置いて深く呼吸をし直した。老将軍にとって、息が続かなくなるほど長く弁舌を振るうのは久々のことであった。

「だが、不幸なことに、今やその輝かしい展望には暗雲が立ち込み始めた。我々は今我々の組織の根幹を揺るがす事態に相対している。それは人手不足少子化といった分かりやすい姿をしていない。それは……全ての異常事物の消失である

そこで再度彼は言葉を止め、聴衆の顔を見渡した。奇妙な沈黙が室内を包んでいた。それはその事態についてすでに多くの者が薄々気づいており、彼らがぼんやりと抱えていた不安をこの老将軍が初めて公の場で明言したことによるものだった。

「知っての通り、調査局がこれまで主眼としてきたのは妖怪や神といった、既存科学では計り知れない"異常"を研究分析し、それらを皇国の利益となるよう利用することであった。今まで我々の計画が挙げてきた成果も、我々が発見し集積した異常事物によるところが大きい」

「しかし、いつの日からか魑魅魍魎の類は我々の前に姿を現さなくなり、調査局が長年にわたって紡ぎ続けた数々の呪文も、一切その霊験功徳を示すことが無くなった。当初我々はこの事態をファウンデーションや連合国オカルティスト連合による陰謀と睨んだが、すぐに奴らにも同様の混乱が起こっていることが明らかとなった」

将軍は大きく嘆息した。

「現実問題として、我々は緩やかな、恐ろしい破滅に向かおうとしている。これまで異常事物により作戦を遂行してきた調査局は、その効力を失ったことにより徐々に徐々に、長患いが病人の体力をじわじわと奪っていくかのように、弱体化していくだろう。これは急速なものでは無いが、痛みに満ちた衰退だ。また少し、また少しと、栄光ある誇りも歴史も何も残らなくなるまで、我々の偉大な組織は凋落し続けていく。そのような恥さらしで痛々しい調査局の最後を目の当たりにすることに耐えられる者が、この中に居るだろうか?」

そこで将軍は思わずうつむいた。彼の前に集まった局員たちは一様に陰鬱な表情を浮かべ、中には声を殺しながらすすり泣く者もいた。室内に暗澹とした空気が広がる中、一人の若者が声を上げた。「で、では……我々は自らこの長きにわたる調査局の事業に幕を下ろさなければならないのでしょうか……?我々の計画は、支払った犠牲は……まったく価値の無いものだったのでしょうか?」

「いや、そうではない」

部屋中の耳が反応した。

「我々は胸中に燃える愛国心に導かれるままここに集まった。その魂は異常事物の消滅とともに喪失されてしまっただろうか?答えは否だ。愛国心とは我々の家族を愛し、彼らを取り巻く人々を愛し、その人々が生きる山河を愛すことだ。調査局の真の根幹は異常にあらず!諸君ら一人一人の愛国心にある!」

聴衆は再びざわめきだす。今度は不安ではなく、歓喜と興奮によって。

「もちろん、これまで長く続けていたやり方を根本から変えていかねばなるまい。だがそれがどうした!我々には未だ熱い血潮が流れている!調査局の偉大な先人が残した、伝統と精神を受け継いだ血潮が!異常事物に頼らずとも、それがある限り我々のやることは何も変わらない!諸君らは皇国のために人知れず滅私奉公する影の英雄だ。諸君らの雄姿がこれからの新生調査局の礎となる!」

新生調査局。その言葉を聞いて、兵士たちはおおっと声を上げる。将軍が最初に発した"我々の終わりの時"という言葉の真の意味を彼らは今、心で理解したのだった。

「これは敗北ではなく、時代への挑戦だ!我々も、新たな組織として輝かしい未来へ歩みだそうではないか!」

群衆は一際大きな熱狂に掌握された。将軍が話を終え、演壇から降りると、自然に盛大な拍手と万歳三唱が沸き起こった。ここにIJAMEAは終わりの時を迎え、新たな姿へと生まれ変わったのだ。そしてそれを高らかに宣言するかのように、将軍は筆を執り、彼らのシンボルにある二文字を書き加えた……。


翌朝。IJAMEAの監視任務に当たっていた財団エージェントが、双眼鏡越しにIJAMEA基地を覗くと、そこには以前のものと少し異なる彼らの旗が掲げられていた。エージェントは目をこすってそれが自分の見間違いでないことを確認し、数秒の逡巡の後、緊急報告用の電話回線を繋いだ。

「もしもし、例の旭日旗が——」




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現在の大日本帝国"正常"事例調査局は、こうして生まれたとされている。


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愛のコンテストに参加します。one-last-punch-for-the-roadのパロディ的記事です。

ソース: http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:5644609-30-rc0t
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: seijojamea
著作権者: Dr SoloDr Solo(原案),stengan774stengan774(翻案)
公開年: 2021
補足:
http://scp-jp.wikidot.com/ijamea-hub
上記の作品「ensign.png」からstengan774が翻案し制作しました。



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  1. portal:5644609 ( 21 Sep 2019 10:04 )
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