スピリットの継承者

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ロジャー・ディクソンがいつこのシカゴに住み着いたのか、レイク・ショア一帯の誰も知らなかった。

もちろん21世紀に入ってからこのかた、もっと正確に言えばマンハッタンでの大騒ぎから、魔法使いだの半人半馬だのといった冒涜的な異形で陽気な化け物たちが、"市民の良き隣人"として、大手を振って日銭稼ぎに街へ移住してきていたことは確かだ。だから素性不明の11歳の少年でも、外見がまともな人間だったなら気にも留められなかったのかもしれない。

だが結局のところ、ロジャーはまったくもって正常まともでは無かった。


そのころの彼についてこんな話がある。シカゴで身寄りの無かったロジャーは、観光客相手に土産物を売ったり、大道芸を見せることによって生計を立てていた。……本当にそれだけで食い扶持を稼げていたのかはわからない。ただロジャーの手先は非常に器用で、下手な魔法などよりはよほど見ごたえがあるショーだったという。一番人気は空中に放り投げたリンゴを素早いナイフ捌きで8つ切りや飾り切りに加工する芸で、彼が最も得意とするパフォーマンスだった。

当然、ロジャーの隆盛を良く思わない者たちもいた。地元の不良少年グループだ。彼らは自分たちより一回りも背が小さい少年(彼らに言わせれば"ガキ")が、いっぱしの街の顔として活躍しているのが非常に気に食わなかったようで、ある日頭数を揃えてロジャーを取り囲んだ。

ロジャーは落ち着き払って彼らの顔を見渡し、グループで最も偉そうにしていた少年にこう喋りかけた……「ビジネスをしよう」と。自分に危害を加えない限りは売り上げのいくらかをグループへ流すことを約束した上で、ロジャーは少年と一対一で詳しい取り分を決めるために、路地裏へと連れ立って消えていった。それから10分ほど経った後のことである。ロジャーは再び物陰から姿を現した。

その時の彼はなぜか気味が悪いほど上機嫌で、「話が済んだ」ことの証明として少年たちに何かを投げた。キャッチボールでもするかのように投げ渡されたそれを反射的に掴んだ少年は、生暖かく、そしてぬるりとした感触を手のひらいっぱいに味わうことになった。それは先ほど話し合いに向かったリーダー格の少年と同じ瞳の色の、眼球一揃いだった。

その時点で腰を抜かしてしまったこの少年はまだ幸運だったかもしれない。ほんの少しでも勇気が残っていて、自分たちのリーダーがどうなったかを確認しにいったほかのメンバーは、より凄惨な光景を目の当たりにすることになったからだ。路地裏には首を横一文字に切り裂かれた上、ぽっかりと空いた血塗れの眼窩を晒している少年の死体がだらしなく転がっていた。

そして壁には血文字でこう書かれていた、「ビジネスで最も大切なのは、正しいタイミングを見極めることだEYEdentify the right timing

しばらくして少年たちが恐慌状態から回復したとき、ロジャーはすでにその姿を消していた。しかし"ロジャー・ディクソン"の名は恐怖の対象として、彼らの心に長く留まることとなる。……わずかの間で被害者のかすかな呻き声も漏らさせない手際と、これだけの行為を躊躇なく行える残虐性を併せ持つ相手を、どうして恐れずにいられるだろうか?

やがて、不良少年たちのリーダーが失踪したことが話題の片隅に上がり、大きな波紋を呼ぶことなく無関心に沈んでいった。連日のような大規模超常事件の発生は、その鮮烈さゆえに足元の小さな翳りを見落とさせ、ヴェール崩壊による新常識の嵐と社会変容の渦の中では、「不良少年の前触れない家出」などはあまりにもありふれ過ぎていた。


この事件から数年たっても、変わらず"ロジャー・ディクソン"の名は恐れられた。とはいえ変わったものもある。一つはもはやロジャーが大道芸をする必要がないこと。彼を恐れる者は、何も言わずとも彼に金や物を差し出すようになった。……ちょうどロジャー自身があのリーダー格の少年にそう持ち掛けたように。ロジャーはすでに地元ストリートギャングの取りまとめ役として強権を振るっていた。もう誰も彼に楯突く者はいない。

もう一つはロジャー自身に関する変化だった。裏社会での年月が目つきを鋭く顔に険を宿し、相対する者を畏怖させる凄みを帯びさせていた。もはやその体格は少年とは呼べないほどに成長している。そして何より一番の変化は歩幅だ。同年代より小柄だった子供時代と比べ、ロジャーは歩幅をより大きく取るようになっていた。素早くせかせかと歩くのは余裕のない小物の歩き方である、とロジャーが考えたかどうかは分からないが、彼は常に、まるで哲学者が思索するかのようにゆったりと歩く。しかし、依然としてナイフを持つ腕については素早く、なめらかに動くのだった。


ある日。ロジャーが取り巻きを連れいつものようにゆったりと歩いていると、浮浪者が目に留まった。

緩急が大事

目が良い

レジナルド・ジェンコ

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