Tale「描かれない舞台裏」

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「ふーん、Dクラスが珍しく大活躍したらしいな」
椅子に腰掛けて新聞を見つめる男が喋る。同室の女が訪ねる。
「何したんです?」
「どっかのサイトが崩壊するところを、一人残って救助に当たったらしい。これで20人くらいのDクラスが助かったそうだ」
「へえ、立派じゃないですか。私にはそんな勇気ないからなあ」
「私としても、君にそんなことはしてほしくないね。やってもらうことがいくらでもあるから。」
「でも、こんな立派ならなんでDクラスになんかなってしまったんでしょうか。研究員として雇用してもいいくらいなのに」
「犯罪を犯して、かつ能力が足りなかったんだろ。それだけだ」
「これなら、よく見てみれば掘り出し物とか結構見つかりそうじゃありません?いつか人事に聞いてみます」
「そうか、今ちょうど暇だ。いつかと言わず、今行こう」
男は女の腕を掴み、部屋から連れ出す。

「なんですかこの資料は」
「Dクラス名簿だ」
一冊の本を開きながら二人は話す。
「まずここの欄を見るんだ。これは知能テストの結果だな。一般平均は100になる」
「…70から80が非常に多いですね。」
「で、財団職員の平均は120だな。言っておくが、これは事務とか清掃員とかを含めた数字で、本職は更に高い。君がテストしたときは134とかだったはずだ」
「なんで知ってるんです。そして覚えてるんです。私が初めて知ったのに」
「印象的だったからな。で、表に良さげなやつはいるか?」
「110あたりが最高ですね」
「嘘言うな、そのページの最高は100ぴったりのはずだ、これがまず一つの現実だ」
「じゃあ、警備員とか体を張る仕事はだめなんですか?」
「よし次はこっちを見よう」
男はもう一冊本を棚から引き出す。
「このサイトのここ20年分の事案ログだ。やつらのトラブルも実績もかたっぱしから乗っている。これがないと倫理委員会がうるさいんでね」
女は座り、しばらく黙って目を通していたがやがて我慢の限界を迎えた。
「素行不良が多いのはまだ分かりますけど、緊急時の実績載ってないのおかしくないですか?」
「そんなことないぞ、金の付箋がそれだ」
「5枚しかありませんけど。」
本は開かれる度に机に衝撃を与え、分厚さを示していた。
「ほらこれ、まず4年前の収容違反のとき。次は10年前の。あとの3つは全部15年前だな。結構収容違反してるな。」
「ほんとにこれで全部なんです?」
「全部だ。ちなみに銀のは職員のだ。もちろん発見とかじゃなくトラブル対処だ」
銀の付箋は5枚の金を取り囲んでいた。
「…でも、財団月報とかだと結構Dクラスの活躍報じられてますよね」
「サイトはたくさんあるんだからそりゃ期待以上に役に立ったDクラスはこれよりは多い。でもな、書かれないだけで、関係ないところでも命を張る財団職員はそれよりずっと多いんだよ」
「でも、でも私は…」
「もう一つ教えてやる。今朝の記事には書いていなかったが、あそこにはあるサンプルが置かれていた。そのサンプルを取るのに軽く50人は死人が出たと聞いている」
「…そのサンプルはどうなったんですか?」
「…記事の様子を見る限り使えなくなってそうだな。まああそこにいたやつに罪はねえよ」
数秒の沈黙。
「私顔洗ってきます」
「おう」

女がいなくなり、男は呟いた。
「君にはちゃんと勇気があるよ。忘れてるだろうけど、こっちもテストされてるからな。ま、そっちの方が新聞に載るようなことが無いよう祈るぜ」


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  1. portal:5608384 (19 Oct 2019 02:22)
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