感傷

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MULB-036505270、ニケと呼称されるアンドロイドは"Archival Strage(古文書倉庫)"のプレートが掲げられた主を無くして久しい部屋への扉を開けた。最もこの部屋の住人達もまた主を亡くした物達なのだが、0と1で形作られた感情の模造品しか持たないニケの目には旧いアナログな資料としか映らなかった。
"SCP"。もはや使われる事も、使う者もいない単語。ニケが担当するアノマリーもかつてはそう呼ばれていた。
陶器を思わせる質感の滑らかな手が、何らかの液体が染みた跡のあるひび割れたタブレットを取る。静謐な空間に電源を押す乾いた音が数度響く。けれど、その画面に再び光が灯ることはなかった。ニケは落胆するでもなく、几帳面に整頓されたけれど薄らと埃が舞う部屋を後にした。

「過去の、財団に人がいた頃の映像または音声情報の閲覧は可能でしょうか」
ニケがやって来たのは正規の資料保管庫だった。アンドロイドと言えども電子化された情報に直接アクセスする事は制限されている。その上、旧い情報には機密となる物も多い。声を掛けられた保管庫の管理人は端的に目的を問う。
「あなたの精神鑑定という業務に必要な物なのですか?」
ニケは先日の面会を思い返しながら答えた。
── 君は決してなることのできないものになろうとしている。
── 君は人間の中で何が起こっているかを決して理解できないし、君はただ…
「ええ。私が担当するアノマリーの心理が現在理解不能な状態にあります。ですから、彼が何を見て誰と過ごし何をしていたのかを見たいのです。そこに彼が私に、私たちにはないと言った何かがあるはずです。出来れば私が担当するアノマリーが映っていそうなメインホールと食堂の防犯カメラ記録を頂きたい」
管理人を勤めるアンドロイドは暫しの間を置いた後、モニターへと向き直った。幾つかの作業を終え、拾いきれた映像だけですがとUSBを差し出した。小さなそれを受け取り、ニケはありがとう、と僅かに口角を上げる仕草を真似て自室へと向かった。

── 私は彼らに戻ってきてほしい…
彼の指す彼らとは誰なのか。喪失によって彼を友好的な人格から非友好的人格へと変えた何かがそこにはあったのか。ニケの疑問には自身の職務とは別の、人間への好奇心が多分に含まれていた。
自室へと戻ったニケは、ポートへとメモリを差し込み、自身に流れ込む情報を読み込み始めた。

最初の数十年分は酷く粗い物だった。
データでしか存在を知らないVHSと呼ばれる媒体から移されたのだろう。目的のアノマリーは現在の姿より僅かに肉付きも血色も良く見える。しかし、その行動はアンドロイドであるニケから見ても酷く機械的だった。行動を統計処理をしながら、ニケは観測し続ける。
しかし、年代が現代に近づくに連れ彼の行動や交友に変化が現れた。それは財団から、世界から、人が消えるほんの少し前からより顕著となっていた。ニケは人間で言うならば疲労に近い何かを感じ瞼を下ろし、目頭を揉む仕草を真似てみた。勿論、鉄の身体と電脳の精神を持つアンドロイドにはなんの意味もない。


映像を見終えたニケはポートからUSBを抜き取りデスクに置いた。
約30年分の情報を処理するのはニケの電算処理能力を持ってすれば造作もない事だったが、そこにある何かを導き出す為のアルゴリズムは酷く難解だった。男性型アノマリーにとって女性型アノマリーとは何だったのか。彼は財団に属する者の覚悟を語りつつ、神という抽象的な存在へ救いを請うていた。ニケはその矛盾を処理し切れなかった。
しかし、答えを導かなくてはならない。ニケは今しがた読み込んだ情報の解析と構築に全ての機能を向ける為、視覚情報を遮断した。

前回のインタビューから二週間、映像の閲覧から一週間を開け、ニケは担当するアノマリーの、ASP-073の収容セルに向かった。
その手には、ガラス製の造花があった。

あぁ、

君は何も分かっていない。

どうか、私を忘れて。
何かを忘れたくないと願ったのは、いつぶりだろうか。


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  1. portal:5575729 (02 Nov 2019 12:24)
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