朝目覚める時、南京錠を思い浮かべるのがここ最近の日課だった。礎ほどたくさんを支えることはできない、ただ今にも壊れそうな門を繋ぎ止める南京錠を。
ただ繋ぎ止める道具であれば、門の内側がとっくに廃墟になっていても気づかなくて済む。最低限の機能しかない錠であれば、門が鳴らすガチャガチャとした音で、自分の軋みを聞かずに済む。安物の小さな錠前なら、役目を果たせなくても仕方ない。
だから今日も、ぐちゃぐちゃになった心に錆び付いた鍵を突き刺して、形を留める。
カチリ、と。
先月、大多数の人類は幸せを受け取った。世界中が幸せを、幸せだけを感じる世界に変わった。全員がそんな夢に浸るだけならよかったのに、そのしわ寄せは幸せを与えられなかった残る少数に押しつけられた。
そうして、狂った世界で狂えなかった私たちにとっての地獄は始まった。たかだか1万人にできることなどたかが知れている、天下の財団様も"しあわせもの"たちの不快な温さを持つ空気にどっぷりと浸かった。
思案に耽っていて忘れていたが、今、私はカウンセリングを受けている。机を挟んで対面に座る男が、「大丈夫かい?」なんてこちらに問う。もちろんですよと返すと彼は笑った。私の返答に安心して? いいや、彼はなんて返しても、首を締めても笑う。まだ試してはいないが、きっと死んでも笑うのだろう。
この1ヶ月、私はただこいつと一つも益を生まない時間を過ごしている。それだけの時間で学んだことは、返答を考えるなんてばかばかしいことはしなくていいことと、停滞を崩すのは非常に難しいということ、そのくらいだ。
ああ、それにしても……その慈悲だけがこもったやわらかな声色と目だけはやめてくれないものか。自分を担当するカウンセラーを見る。いや、カウンセラーだったと言うべきだろう。今行われているものをカウンセリングなどと称するのは、かつての尊敬すべきカウンセラーたちに申しわけがない。
自分の胸元、首から下がるネームホルダーを見る。本名と、クリアランスの下に、"所属 対話部門"の文字とロゴマーク。続いて、対面の彼のネームホルダーにも、同じ部門名とロゴ。思わず笑ってしまう。"対話"なんて、もうここにはない。会話による理解なんて夢物語となってしまった。
返答するのも面倒になってきて、最近はカウンセリングが終わる時間まで本を読んでいる。目を挙げれば、そろそろ時間だった。単調で凡庸な雑誌を閉じて、席を立ち、ありがとうございましたと言う。それだけで目の前の人形はこちらへの興味を無くしてくれる。
欠伸ひとつ。
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任意A任意B任意C- portal:5526847 (09 Aug 2019 13:25)
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