シチューに負けた証

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この部屋  未詳資料/目録編纂室常で仕事をしている彼女は、財団ではちょっとした有名人だった。

彼女の名前は転眼 式見。尖った歯とウェーブヘアに続いて、目の下の深い隈がトレードマーク候補に上がるほどには休みを取らず、いつも目録編纂室で一心不乱に書類の山を削っている。しかもそれだけでは飽き足らず、サイト内の他の部門の予算に無駄があれば駆けつけて注意する、ある種偏執的ともいえる「節約家」。彼女の予算指摘を受けたことのない人間などいないと噂されるほどだ。

そんな仕事量と性格のせいか、彼女の交友関係は非常に狭い。そこからふと浮かんだ疑問を、お節介にも口にしてしまう。

「転眼さんって、友人と呼べる人いるんですか?」

「……突然痛いところ突いてきますね、水無川さん。ひょっとして、調和部門としての仕事ですか?」

「まさか。ただ気になっただけですよ」

今まさにここ……深夜0時の未詳資料/目録編纂室で書類整理を行っている彼女は、私の言葉に反応して、来客用の椅子に座るこちらを睨んだ。その視線を、私は彼女に淹れてもらった紅茶を啜りながら受け流す。

「……職業柄、人間関係が気になってしまうことは認めますが」

調和部門。財団内部の部門・支部間に発生するトラブルの解決に動く……と言えば聞こえはいいが、やっていることは緩衝材、或いは内部分裂を割けるためのスケープゴートだ。いつだって調和部門は「めんどくさい」部門として疎まれ続ける。そんな部門の部門長を、今私は勤めている。そのため、交友関係や孤立している人間の有無を見るのは癖になってしまっていることは間違いない。

「で、どうなんですか?」

私の言葉に、彼女は若干答えづらそうにしつつも、業務の手を止め、対面の椅子に座った。

「ええ、そうですね。私に現状友人と呼べる人はほとんどいません……」

懺悔でもするかのように、彼女は俯いて両手を組みながら、その言葉を絞り出した。

「やっぱり、そうですか」

私のその返答に、彼女は分かってるなら聞かなくていいじゃないですか、等の不満を俯いたまま小声でごにょごにょと呟く。

……少し、申し訳ないな。そう感じて、フォローの言葉を続けておく。

「とはいえ、別に転眼さんのコミュニケーション能力に問題があるわけでもないですからねえ。単に仕事を抱えすぎなのと、予算指摘等で"めんどくさい奴"と思われていることが原因だと思いますが」

「性格上どうしても気になってしまうので、ついつい言い過ぎてしまうことはあります……」

私の持ってきたひなあられを齧ってから、彼女はため息を吐いた。やっぱり、直さないといけませんかね、と。そう私に聞いてくる。

「いや、直す必要は無いと思います。友人作りのために性格まで変えるのは厳しいでしょうし。
……実は、こんなものがありまして」

そう言って、私は手元に持っていたチラシをテーブルに置く。

月下氷人委員会より通達

財団職員お見合いパーティ開催のお知らせ


財団日本支部の明るい未来・将来の新入職員のために奮ってご参加ください!

受付期間
2020/02/01(土) 〜 02/██(█)

開催日時
2020/03/01(日) 友引 ██:00 ~ ██:00

開催地
サイト-8181 第一・第二大会議室


日本支部 財団管理部門
人事情報統括局 月下氷人委員会

「お見合い企画、ですか?」

彼女は怪訝そうにそのチラシを手に取った。意図が読めない、そんな目つきでこちらをみる。

「ええ。まだ受付期間ですし、行ってみるのもいいんじゃないかと思います。ああいったら場は恋愛対象だけじゃなく、友人も見つけやすいですしね」

まあ、気が向いたらでいいですよ。そう付け加えると、彼女は曖昧に頷いてチラシをテーブルの下にしまった。

その態度で、ああ、これは行かない気だなと察する。仕事と交友関係で後者をとるような人ではないし、想定していたことではある。しかし、はっきりと断らないのはこちらへの遠慮だろうか。そこは、少し意外でもあった。

「では、私はそろそろこれで。夜も遅いですし、転眼さんも早めに眠ることをお勧めしますよ?」

0時過ぎが当たり前になっている彼女には無駄だと思いつつ、毎回この部屋を出るときには言ってしまう言葉。

「ええ、おやすみなさい」

未詳資料/目録編纂室には窓がないが……私が部屋を出た後も、きっと彼女は仕事を続けるのだろう。

頑張っているのは知っているが、これでは仕事に潰されてしまう、なんて思うのは調和部門という仕事の性だろうか?それとも、ただのお節介だろうか?

どちらにせよ、このままではいけない。私は自室までの通路を歩きながら、電話をかける。

「もしもし、福祉部門さんですか?調和部門の水無川です。はい、1人来月のお見合いに参加させたい人がいまして  


そして、お見合い当日。一般参加者として会場に来た私は、同じく一般参加者として来ていた彼女に声をかける。

「その服、似合ってますよ」

明るい色のスカートを見に纏った彼女は、こちらに振り返る。

「ありがとうございます。福祉部門からの支給品です」

鋭い歯が目立つ笑顔を見せて、彼女はこちらに近づいてくる。

「水無川さんは……服装、普段と変わりませんね。ちょっとずるいです」

「一応、正装ですから」

普段と同じスーツの私に文句を言う彼女の左手には、半透明の容器……タッパーが握られていた。よく見れば彼女の近くにある皿に盛り付けられた食事もそれなりに多い。

だが……この場所でタッパーは、ちょっと、いや、かなり浮いている。私は苦笑いしながら彼女との会話を続ける。

「転眼さんって2013年の忘年会はいなかったんですっけ」

「……?はい。2013年はまだ今の仕事してませんでしたし。……そもそも忘年会には行ったことないですね」

「2013年の忘年会でタッパー10個持ってきて根こそぎ持ち帰った参加者が出てから、こういった場での食べ物持ち帰りは禁止になってるんですよ」

私のその言葉に、彼女は愕然、という表情を浮かべる。その隙に左手のタッパーを奪い取り、近くのテーブルに置いておく。

「そんな……私はなんのためにここに来たというんですか……!」

「お見合いのためですよ?」

やはり無理やり来させても交友関係が広がる、とまでは行かないか。どうするかな、とドリンクを口に含むと、彼女から想定外の一言が飛んできた。

「水無川さんの方こそ、関係狭いじゃないですか」

……。

「痛いところを突きますね。ですがまあ、私は職業上、立場上仕方ないでしょう」

「私と一緒、ってことですよね」

にっこり。上手いこと言ってやったと笑う彼女に、私はすこし、返す言葉を探す。

「そもそも、ですよ。別に私にだって友人はいますよ」

「本当ですか。誰です?」

根底から全てひっくり返す……とまでは言わないが、いるならば私がここまで働いた理由もないだろう。次の言葉に耳を傾ける。

「私、水無川さんは友人だと思ってますけど」

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