集村:20 - 雑記"充分な希望"

 国境の長い洞窟を抜けると、そこは銀世界であった。

 いや、正確には洞窟に入った時から銀世界だったし、なんなら国なんて滅びているので、これは何も正しくない表現だな。昔クレイに聴かせてもらった物語の冒頭を思い返し、そしてそれをすぐに忘れる。一歩、まだ雪が残る地に足を踏み入れた。すぐ、鈍く冷たい風が首筋を通り過ぎ、寒さに身を震わせる。大袈裟な動作で、青年はフードの付いたローブを着た。

「……やっぱ、この辺はクソほど寒いな!」

「でも雪が降るということは、ここは少なくとも正常だということ」

 青年のぼやきに、首元に巻き付けられた機器  正確にはその機器に搭載された人工知能クレイが答える。

「あー、それは確かにそうだな。けど、春先でこの寒さの場所に人が生きてるってのは妙な話だ。見渡す限り畑もねえし、雪に埋まってるわけでもねえ」

「……つまり、異物の力ってこと?イスト」

「たぶんな、いや、異物でなくても地下に篭ったり獣を狩ったりいくらでもやりようはあるわ。全然そんなことなかった。恥ずかしいから今の推理忘れて。」

 そんな適当をほざきながら、あたりを見渡す。連なる山々には不自然なほどに破壊痕がなく、そこには大自然の偉大さを感じる、多分。だというのに、なぜだろう……イストと呼ばれた青年の感覚は、そこに何処か人の手が入れられた痕跡を感じていた。その違和感の状態は、少し歩けばすぐにわかった。

  完全な状態で存在する、四角く高い建物群、明らかな巨大人工物。それが、遠くに見えていた。

「うん。あれを見る限りは、普通に地上に生きてそうだ」

「だね。とにかく、行ってみて確かめよう」

「ああ、いつも通り、調査は手早く終わらせてサボり倒す。翻訳と資料の確認頼むぞ」

「……任せといて」

 静かだか親指を立てるのが見えてきそうな頼もしさがある、相棒の明瞭な電子音にイストは笑う。遠くからでもよく見える四角い村へ、ザクザクと雪原を踏み荒らし進み始めた。

◇◇◇



 建物近くまで来て、まず初めに気がついたことは、外に人が出ていないことだった。

「畑とかも見えないな。これはでも異物の力ってよりは、普通に寒さのせいか」

「うん、それにこの道を通る時に獣の足跡もあった。狩猟で生きてるのかも」

「あー、なるほど……ってなんで見えてんの?もしかして」

「今日の朝、遠見のために使った感覚共有切り忘れてたよ」

「早く言ってくれよ!?」

 クレイの端末にはイストの脳を読み取る機能がある。それによりクレイはイストと五感を共有できる(もっともクレイの端末に集音機能があるので聴覚は共有したことがないが)。しかしこの機能を使うと脳で処理することが増え、イストの脳に負担がかかる。よって使うのは短時間のみなのだが……イストのドジでたまにこういうミスをやらかす。クレイもこのままでいいのかな?と思ってこれを指摘しない。とはいえ、半日程度ならそこまで脳に影響はないが。

「……一応脳のチェックもしたけど、大丈夫そう」

「はぁ……それならよかった。で。なんの話だったか  おっと」

 イストが口をつぐむ。四角い建物から人が出てくるのが見えたからだ。クレイに翻訳させる前に、少し遠い彼を大声で呼ぶ。

「おーい!」

 呼ばれた彼はこちらに気がついたようだ。頷くと手を振って何かを返してきた。イストは小声で呟く。

「言語、特定できたか?」

「一語だけだからどのくらい変化してるかはわからないけど、うん。大元はわかったよ。イストの言語と大体一緒だから翻訳いらないと思う」

「お、ラッキー。じゃあこのまま行こう」

 住民の元に

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