Q.全員に投票しなきゃです?
A.一部だけ埋めてもOKです。
Q.私作品出してないんですけど、投票だけしていいですか?
A.大歓迎です。
Q.複数投稿誰?
A.非公開です。
Q.投票いつまで?
A.5/28の12:00までです。
Q.どこに投票すれば?
A.僕のTwitterもしくはDiscordのDMです。
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またあいつが体調を崩したらしい。
ふと耳に入ってきたその情報は、何故だか無視できなかった。他人の体調なんて自分には関係ない。ずっとそう思っていたが、"あいつ"が体調を崩したとなれば話は別。どうしてそう感じるのか、"あいつ"が自分にとって何なのかも分からなかったが、急いで身支度を整え、いつもの場所へと向かった。
いつもの場所、いつもの病院の一室に着き、静かに扉を開ける。その人物は確かにそこにいた。だが、何か違和感を感じる。近づいていくと、優しく微笑んでくれた。また少し痩せたのか。元々細いその腕は、さらに細く、弱々しくなっていた。大丈夫か、と問いかけても、大丈夫、と返される。まるでオウムみたいだ。
暫く他愛もない会話を続けていると、何か言いたげな表情になった。ふと窓の外を見ると、太陽が沈みかけていた。不気味なくらい赤く、波長の長い光が窓から部屋に差し込んでいる。もう帰るように促されたが、反射的に断っていた。理由は分からない。恋愛感情なんて抱いていないし、特別大切なわけでもない。黙り込んでいると、不思議な顔で覗き込まれ、笑われた。
薄暗い部屋の中、月の光に照らされたその顔はどこか儚げで、美しかった。
「それで君はそいつに何を言ったのか?」
僕は彼にそう言われた。僕自身としては結局のところそんなことに興味はなく、彼が膨れ上がった心配を僕にぶつけているだけだ。彼は僕だった。正確に言えば僕のうちの1人。そうして彼は僕の方を見やる。
「君はそいつのことが好きなのか?」
僕はあまり「そいつ」のことが好きではなかった。僕に対していつも失礼な態度ばかり取る。例えば、ありもしない被害を僕に押し付けたり、僕のやることなすことを失敗させようとする。多分、そんな「そいつ」は僕のことが嫌いなんだろう。でも、やっぱり好きでなくてはいけないんだろう。実際、好きではないと言ってもそれは単にごまかしで、自分会議の最中には意味のあるものではないのだ。ここではちゃんと言うことにした。正直に「そいつのことが好きだ」と。
「ならどうしてそれを口に出さないんだ?」
「そうかもね。でも世間一般で言えばそいつを好きだって言いふらすようなやつは変人なんだ。僕は当然、そんな変人になりたいとは思わないよ。」
「わからないやつだ。君もお前も。」
7/6
今日は加奈子とタピオカ買いに行った!パン屋の角を曲がっていつもの公園で飲むとすごい楽しいのよね!
7/7
ずうっと工事中だった駅の通路がようやく開通したみたい!いっつも何やってるのかわからないのよね〜
7/8
この間行ったタピオカ屋さんが閉店してた。張り紙に破産って書いてあった。繁盛してるように見えた分、ちょっと悲しい
7/11
最近日記を書いてなかった。すっかり忘れてたみたい。でも、7月はずっと家にいたはずなのに、なんでタピオカとか加奈子と遊びに行ったとか、気味が悪い。こんな田舎にタピオカなんて洒落たものがあるはずないじゃないの。
7/15
どうしても気になってもう一回この日記を開いたけど、私の友達に加奈子なんて名前の人はいないし、この町にあるパン屋なんてない。おかしい、私7月の間は学校以外一回も外に出てないはずよね。
7/20
やばい どうして なんか大人の人が来て、お母さんにスプレーかけてお母さんが倒れて、死んじゃってどうしよう
ドア破ろうとしてる、椅子とか本棚とか倒して塞いでるけどやばい、みしみしいってる
いやだお母さんみたいに死にたくない嫌だ
8/1
押入れの奥から日記を見つけた。最近の奴らしいけど、私のお母さんは死んでないし、ドアも壊れてない。筆跡だけは私のものだ。気持ち悪い。
ちょっと気になって駅員さんに聞いてみたら最後の工事は5年前だって。なんなのこの日記。嘘ばっかじゃない。
窓の外に直線が降り注ぎ、表面には丸い玉がついては垂れ、混じって垂れの繰り返し。
パーフェクトな雨の日。
外に行くための予定帳に書いていた理想の今日を消しゴムで乱雑に消す。紙の繊維に逆らったから多少皺が付いてしまった。
さてどうしようと部屋の中をうろうろする。すると、キッチンの隅の方に何かが見えた。コーヒーミルだった。何かの懸賞で当たったやつだ。多少ほこりをまとっているが、ほぼほぼ新品である。そしてコーヒーミルをどかすと、陰から輪ゴムで閉じられたキリマンジャロのコーヒー豆が出てきた。輪ゴムの封を外して中のコーヒー豆をミルへ放り込む。そして取っ手を回した。思いのほか力が必要だった。爪先がわずかに白くなる。がり、がり、と少しずつ下の容器に粉が溜まっていく。
ざあ、ざ、がりがり。がり、ざ、がりがりがり。
次第に雨音が退いていく。そして、全ての豆が無くなる頃には、雨は止んでいた。
雨の中産み出された貴重なこのコーヒーを受け止めるほど豪華なカップは持っていなかった。だから、ちょっといいカップを買いにいこう。ダイソーの、300円のやつ。
皺のついた予定帳に「カップ買う」と書いて、私は外へと出ていった。
むかしむかし海無き土地に、一人の若者がおった。
その若者は幼きときに書で読んだ"鯛"という魚が一目見たくて、二十歳の朝に一人"鯛"を目指して家を飛び出したのである。
「鯛ってのはいったいどんな魚なんだろう。さぞかし美味いんだろうな…。」
若者は途中ですれ違った老人に話を聞いた
「じいさんじいさん、"鯛"って魚はどんな魚なんだい?」
すると老人は
「鯛は鯉見てぇに綺麗な色して輝いている魚だ。」
と言った。それを聞いた若者は
「美味くて、鯉のように鮮やかで、輝いている魚だって。そんな魚がこの世にいるなんて、わくわくしてきたな。」
と意気込んだ。
そして、いったい"鯛"はどんな魚のかと妄想しながら歩いていた。
そうこうしている内に漁港が見えてきた。
そこで若者、早く鯛が見たい一心で近場の魚屋に走り込み
「"鯛"って魚を見せてくれ!」
魚屋の主人は突然のことに困惑しながらも今朝獲れた鯛を若者に見せた。
しかしそれはマダイではなくクロダイであった。
クロダイは鮮やかというわけでもなく、釣られて時間が経っていたせいで輝きは失われ、店主が言うには味はまずまずという魚であった。
そこで若者は一言。
「そう大した魚じゃなかったな…」
通しでアルバムを聞いた、最後の一曲が耳から消える。イヤホンを外して、目を開く。真夜中の自分の部屋は静かで、先ほどまでの軽快なギターが嘘のようだった。
次のアルバムを探して、スマートフォンの画面に触れる。探す途中で上から降りてきた通知に、手が止まる。
「███████」
そう、か。いや、覚悟していたことだ。落ち着いている。とりあえずイヤホンを外して、ベットに投げて、机を蹴り飛ばした。少し、静寂が紛れた。
コンビニでも行こうか、そう外に出た。深夜の街は明るいくせに誰もいなくて、心細くて。俺はそれを誤魔化すために、口笛でも吹いてみる。
あ。ポケットに手を突っ込んで気付く。
「財布忘れた」
自分の間抜けさに、心底泣けてきた。
さあ500文字の文章を書け、と言われても何のテーマもなしに書くのは中々に困難である。無から有を作るというのだ、それは一を百にすることより難しいだろう。つまりまずパソコンを立ち上げるより、頭の中でアイデアを探しだす方が先決である。
アイデア出しには人それぞれ方法があると思うが、私はシャワーを浴びることが最も有効的だ。視界は一定、音は水音のみ、外界からの情報を遮断し思索に耽ることができる。そして頭の中でこれまでの人生でインプットした知識や経験などから使えそうな種を浮かび上がらせるのだ。この種は点のように小さくそれ単体では面白みもないが、何個もの点を繋ぎ合わせることでそれは一つのアイデアという図形に形作られる。
というわけで今私はシャワーを浴びながら、何を書くか練っている。最近のSCPでの流行はどうだろうか。だが財団を絡めなくていいのでここは関係ないことを書きたい。いっそ500文字の書き方について書くか?いやこれは安易な発想でネタ被りするに違いない。そんな中腹の音が鳴る。そうだ、絶品だった今日の昼飯について書こう。企画の参加者に飯テロを仕掛けられる。愉悦だ。そうと決まれば早速パソコンを立ち上げ(499字)
野犬の寝息だけが聞こえる午前一時。互いに付けたタバコの火だけが彼らを照らす。沈黙を破るかのように、ジャックはロイドに話しかけた。
「なあロイド。ジョンドゥはどこに潜むと思う?」
「…ヤツの話はよせ。一息くらい入れさせろよ」
「まあ聞けって。ヤツはな、きっと何処にもいるんだよ。食堂ならキッチンの冷蔵庫の中、学校なら体育館の倉庫の中、トイレなら便座の裏、浴室なら──」
「やめろと言っているだろ!もうヤツの話はたくさんだ!」
ロイドはジャックに乱暴に掴みかかり、苛立ちをぶつける。ジャックは一呼吸置いて、ゆっくりと口を開いた。
「──それでここなら、お前の後ろとかな」
ジャックは素早く距離を取り、拳銃を抜く。刹那、タバコの火は風で揺らぎ消え、暗闇が辺りを支配する。ジャックは焦りつつも、ライターの火を点けた。
目の前には、頭の潰れたロイドの死体が倒れていた。
ジャックは携帯を取り出す。
「作戦失敗。ジョンドゥの捜索を続行する」
電話を切ったジャックは、小さく舌打ちを鳴らした。
トラックに撥ねられて異世界に行くにはどうすればいい?
先輩は不穏な質問をした。
惨めな人がトラックに轢かれたデータを集めて共通点を探すとか。
迂闊に答えたのは間違いだった。
休み明け、大量の資料が集まっていた。
「この時間にこの場所でパンダのマークの引越しトラックに突っ込むと、異世界に行ける」
笑顔でそう言う先輩の声がどこか遠い。
「先輩は動機が足りないんじゃないですか」
動機ならあると先輩は言った。理系進学が許されないこと、物語を破られたこと、父親は出会い系アプリをやっていること、ロングの女が嫌いだから髪を切られたこと。
「手首を切っても死ねないし、だから私は異世界に行きたい」
トラックに撥ねられたような衝撃だった。
先輩と同じ世界で生きていると思いこんでいた。
「俺、今なら異世界に行けますよ。先輩の地獄が近所にあったのに気づかなくて、すごく惨めな気分だから。一緒に行ってもいいですか」
「私だって、君の地獄が私にあるなんて思いもしなかったよ」
先輩ははにかんだ。
明日、現場の下見に行こう。引越しのトラックが来るまでおしゃべりしよう。
そういう約束をした。
約束をした。
食事中、後頭部に走る鈍痛。暗く沈みゆく視界。
意識が途絶える刹那、父親と母親の笑顔がひどく印象に残った。
_
目を覚ますと、そこはコンクリート壁に囲まれた灰色の部屋。手足はガムテープで拘束されて動けない。背中に伝わる、床の冷たさが恐怖を煽った。
「こんばんは玲奈ちゃん。おじさんが今助けるからね」
小太りの中年男性が口を開く。こちらを見下ろすその顔は、照明灯に当てられて影となってよく見えない。何か応えようと必死に思考を巡らせるが、直後に腹部に打ち込まれた木製バットによって中断された。
「消えろ悪魔め!出ていけ!」
大粒の汗を額にかきながら、男は懸命にバットを振り下ろす。まだ未発達な筋肉と骨は容易く破壊され、痛覚を伝えるだけの存在に成り下がった。玲奈の苦痛は彼には届かない。
やがて喉が枯れ、痛みすら感じなくなった玲奈は、幼くも絶望を受け入れつつあった。視界の大部分を占める不快な男から、力なく顔を逸らす。すると、大好きな家族の姿が目に入った。
バットを力任せに振り下ろし続ける男
啜り泣き、居もしない神に祈る母親
両手の拳を握りしめ、ひたすらに応援する父親
玲奈は一言だけ呟き、瞼を閉じた。
みんな死んじまえ。
1867年、京都は戦火に呑まれた。
川も道も空も紅く染まり、橋は落ち、数百年の歴史を誇る堂舎も灰燼に帰した。
大王は弑され、志士も幕吏も等しく殉じた。
かつての内裏は血肉を滴らせる怪物の住処となり、天を照らす日は厚い朱色の雲に消えた。
百万神の宿る社には蠅蛆が湧き、天地を守る寺院は饐え腐った禽獣に食い荒らされた。
わが故郷は異境と化し、もはや元に戻ることはかなわない。
当時の私は、親族も知遇も恩人も故郷も捨て、恥も誇りも捨て去って、わが身可愛さに彼方へと逃れる以外の術をしらなかった。
それをなかったことにすることも、忘れることも許されない。
愛しき故郷は不浄に染まり、混沌に埋もれた。
けれども私はそこへ帰ることを誓う。
穢れようと、忌まわしかろうと。
いつだって都はそこにある。
上辺を取り繕おうとも1000年の間に幾重にも積み重ねた歴史を隠し去ることはできない。
消させはしない。忘れはしない。
(以下ライセンス表記)
http://scp-jp.wikidot.com/wrong-proposal SCP-001 ロングの提言 総意 by MrWrong
ピピピピ、という電子音で目を覚ます。皴一つない隣のベッドをよそ目に、1つ小さな欠伸をする。カーテンから差し込む朝日、昨日と何も変わらない朝。
寝ぼけ眼で2人分の飯を炊き、冷凍食品のナゲットをオーブントースターで温める。
ニュース番組を見ながら胃に流し込む。顔を洗い、歯を磨き、髪を整え、スーツに着替える。
「それじゃあ、行ってくるよ。」
家中に充満する線香の香り。妻の写真の傍らには、一杯の白飯と不慣れにカットされたグレープフルーツ。
冬でなくても、時間が経てば川の中は冷たかった。服はめちゃめちゃに重くなって鉛みたいなくせにへばりついてくる。ここに落ちる前は羽みたいに軽くて、それで浮き足立ってここに落ちてしまったのに、僕がこんなことになっているのは服よおまえのせいだ、と憎みもする。理不尽だろうけど、長くは続かないので許してほしい。
腹の上のアヒルがぷうと鳴いた。こいつは僕の宝物で、こんな状況になっても恨む気がしない。僕の人生の憂き日にまぬけな音をたてても、ああ水に入れて嬉しいのかなって怒る気もしなかった。幼馴染に対するのと同じような愛着みたいなものがあった。
だからせめて最後は一緒にいて欲しかったけれど、残念ながら僕の持つ手の方がついていかなかったらしくて、黄色いそれはぷかぷか浮いていった。ぷうぷうぷうとそれは間抜けな音を立てたままだ。なんて言ってるのかな、もしかしたらはしゃいで川なんかに落ちたお前の方こそまぬけなのだとぬかしているもかもしれないぞ。そう思えばちょっとむかっときて、でもあの音のせいでやっぱり笑けてきてしまった。沈んでいく。音が聴こえていた。……ぷうぷうぷうぷう、ぷうぷうぷうぷうー ……ぷかり。
(以下ライセンス表記)
CC BY-SA 3.0
http://scp-jp.wikidot.com/scp-200-jp
by shinjimao
「それは有難いですけど。でも、血液なんかどうやって調達するんです」
ざっと見た限りでも、この男は荒事に慣れているようには見えない。彼女の発言に、男は小さく喉の奥から音を漏らした。笑ったのかもしれない。
「知らないのか。人間なら肌を切ればすぐ血液が手に入る。そして僕は人間だ」
「そのくらい知ってますよ。それで、血が出ると人間は痛いから嫌なんでしょう。何十年人間を見てきたと思ってる」
今度こそ、格子の向こうから笑い声が聞こえてきた。
「人間をやっていれば五年もかからずに気付くものなんだけどね。さあ、もう出てしまおう。実を言うとね、僕はこういう暗くて狭苦しい場所は苦手なんだよ」
表情が見えずとも、嘘であると判断するのは容易だった。その程度には、彼女だって人間をよく見ているのだ。
満月が出ている筈だけれども、空の光は届かない。暗雲が全て遮ってしまっている。
嵐の夜だけれども、雨音も雷鳴も僕には届かない。雨粒が叩きつけられる水面は僕の遥か頭上にあり、今もなお遠ざかってゆく真っ最中だ。
……遥か頭上は言いすぎたかもしれない。でも、伸ばした腕が届かない程度には遠い。それだけわかれば十分だ。どこか苦しさの欠如した世界で暗闇を睨み、藻掻き、自分の口から溢れた泡を見上げる。
そうして意識が消えゆく中で、ああ僕がこんなことになってまたあいつはバカみたいに泣いちゃうんだろうなあもうこの嵐よりも酷い勢いで涙を流すんだろうなと他人事のような思考が頭のどこかを流れていく。そして、いやあいつって誰だよと思った瞬間、僕は現実へと帰還する。おはよう世界、おはよう光に満ちた朝の大気。
「またこの夢か」
自分に言い聞かせるように、声に出して再確認。土曜日の朝はいつもこうして始まる。ここ数年はずっとこの調子だ。本当に、いい加減にしてほしい。
「それで、結局どうなったんだっけ……」
酔っていたところを、この少女に声を掛けられて、この部屋――どぎつい配色から察するに、ラブホか――に連れてこられた、のだろう。たぶんそうだ。
「んん……ああ、お姉さん、起きたんだ……二日酔いは大丈夫?」
女の子が起き上がりながら、私に聞く。
「頭は痛いけど、まぁ大丈夫。それより……」
「うん?」
しょうがない。これは訊かねばなるまい。
「ごめん……そういうことだった場合本当に申し訳ないんだけど、どうして私たちは裸なのかな?」
「えー? 嫌だなぁ、裸のお付き合いした仲でしょ、私たち」
「……」
それはやはり、そういう?
「……お姉さんがゲボって私の服にぶちまけて、自分でもゲボかぶってたからお風呂に入れたんだよ。あ、お姉さんのスーツは無事だからね」
黙り込んだ私に、女の子が言いにくそうに説明する。
「よかった……安心した」
「いや、よくないけど……私の制服!」
「いや、よかったよ……あなたの制服姿は、なんていうか、見たくないから」
別に酔って変なことを言い出したわけじゃない。あの人を知っている者ならみんなそう言うだろう。
――あの人に似たあなたに、学生服はあまりにも似合わない。
「ではまず、あなたの名前を書いてください」
あの人に教えてもらった文字で、一つ一つ丁寧に文字を紡ぐ。私、に、は…
『私には名前がありません』
「あなたを創った人の名前は?」
『わかりません。私と主人様はずっとふたりきりでしたし、話す相手はお互いしかいなかったので。互いの名前は必要無かったのです』
とても懐かしい。あの頃を思い出すと心が締め付けられるような、そんな気持ちになる。それと同時に、後悔もどっと押し寄せる。
ペンを持つ手が、がたがたと震える。
「あなたはどうして"主人様"の遺体を――」
バァン!!
思わず机を叩いてしまった。そんなの、私にだってよくわからない。あの時は必死だったんだ。主人様が動かなくなって。
音に驚いた目の前の人間は、主人様じゃない。でも、きちんと説明しないといけない。主人様の為にも。
『主人様が私を創ったときのメモに、書いてあったんです』
『人の体を材料に、私を創ったと』
でも、私には主人様を創れなかった。創ることなんてできなかった。
『でも私は、人の言葉を話せませんから、呪文が言えなかったんです。ただ、私は主人様の体を傷つけて』
それ以降の文字は、人ならざる者の慟哭と涙で掻き消された。
「電気羊って美味しいんですか?」
「いきなり何を?」
煙越しの後輩が僕に言ってきたので、つまんでいた焼き肉を落としかけた。
「先輩はアンドロイドでしょ?」
「産まれはれっきとした人間だよ。というか、なんで電気羊?」
「機械が見る夢に興味があって」
「お前の方がよっぽど思考が機械だろ」
「寝るときはペアリング切ってるんですよ」
コツコツと後輩はこめかみの金属部を叩く。
「切らないとどうなるのさ」
「電気羊の夢を見ました」
「……なるほど」
「解体して食べようとしたところで目が覚めました」
「最悪だな」
焦げかけていた肉を皿にとると、横から伸びてきた箸がそれをつまむ。
「先輩なら食べたことあるかなって思って」
「……ないよ。そもそもそんな夢は見てない。幻肢痛は結構あるけど」
「じゃあ今度一緒に見ましょうよ!頭繋がってますよね?」
「一応埋め込んではあるけどほとんど使ってない」
「もったいないですね。ああ夢のお肉はこれより美味しいのかな」
「奢りだから味わって食べろよ」
「了解です」
後輩と一緒のベッドで寝る約束をしていたことに気がつくのはお店を出てから。
「仕事だよー」
廊下ですれ違った先輩が僕の耳元で囁く。言い返そうとしたときにはもう消えていた。くるりと180度回って、元来た道を引き返す。
『せめて内容を言ってください』
スマホに文字を打ち込みながら教材倉庫の扉を開ける。点滅する蛍光灯と少し埃っぽい匂い。
『私も知らないんだよ』
扉に鍵をかけて返事を確認。ため息を吐きながら、ゆっくりと本の入った棚を押してずらす。地下への暗い階段はこっそり学校を抜け出すには一番いい方法だ。
『ひとまずいつものセット持っておきますね』
『どもー』
電気を消して戸棚を内側から戻す。スマホのライトがないと真っ暗だ。しばらく歩くとロッカー室に着く。手探りでポケット鍵を出して、錆び付いたロッカーを開けた。中には防弾ベストと小銃とその他もろもろ。
「……狙撃セットも持ってってあげよう」
自分の分を着替えた後、ロッカーの下の小さな箱と銃を抱えて僕は先輩の待つ校門へと繋がる出口へ走っていった。
過去批評に出されていたことが確認されたので失格にしました。nekonekonyan14(もの)さんの作品です。
雌の獣が死んだ。
お産に耐え切れなったのだ。獣は大変希少で、僕らとは比べ物にならない程価値がある。
雌の代わりに子育てを行うよう指示が出された。
子育ては共同で行う。
雄の獣は雌が死んで気が立っていて、なだめるのに10人犠牲が出た。
雌が死んだ今代替品を用意するしかない。
人の母乳を与える。
だけど子供はあまり飲まない。
「母親からでないと駄目なのかも」
担当者だった僕が母乳を与えることになる。
匂いから慣れさせるため、雌の糞を水に溶いて僕に塗る。
子獣の舌はなんだかくすぐったい。
なんとか飲んでくれたみたい。これで一安心。
「え?」
唐突に挿入される雄の生殖器。
これがまずかった。生殖器は腸に癒着し、取り外すのは実質的に不可能になった。
そこから職場復帰。僕の職場はここになった。
繰り返される行為。だけど段々慣れていく。
1か月ほどで常食馴化が始まる。親がかみ砕いて与える。愛情表現でもある。
僕もお手伝い。獣の餌の味にも慣れた。
その後、正式な命令で僕は獣の所有物に。
妊娠はできないのに獣は僕に放精する。
雄が雌に甘える動作。
きっと僕は他の人に比べて幸せなのだろう。
だってこんなにも優しいご主人様に愛されているのだから。
「お腹空いたな」
ふと時計を見れば午前1時。作業に集中するあまり夕食を忘れてしまった。これからまともな食事を作るのも買い物へ出るのも億劫だ。
「何かなかったかな」
乱雑に物が押し込まれた引き出しを漁りながら呟く。返事をする人はいないが、外からの音も無い部屋の静けさが嫌になったのだ。返事があっても怖いが。
「っと」
どうにも捨てられなかったお菓子の空き箱の山の下から賞味期限切れ1か月前のカップラーメンが出てきた。
「これでいいか」
キッチンに行って、やかんをすすいで、湯を沸かして、注いで、3分。
その間ずっと鼻歌を歌っていた。仕事は納期ギリギリだし、安アパートから出られる見込みはないし、好きだった漫画は打ち切られたし、さっぱり何にもいいことは無いのに、幼い頃見たアニメの明るいオープニングを歌っていた。
スマホのバイブレーションが出来上がりを知らせた。湯気が眼鏡を曇らせた。ラーメンを食べる間、部屋に響くのはラーメンをすする音だけだった。
容器を捨てて、伸びをした。
「今日もまた、頑張りますか」
少しマシな今日を願って、明かりを消そうとしたその瞬間、部屋に1つだけの電灯が事切れた。
後悔、というものはいつでも人生について回るものだ。私たちは事あるごとにもしもの可能性について思いを馳せる。そしてそのほとんどは自分自身が原因だ。私たちは自分の手の及ばない物事に悲しむことはあれど、本質的にどうにもならないことを知っているからだ。
──アパートの狭い浴室、私はそこに立って飛び散った赤色を洗い流している。小さな浴槽には冷たくなった後悔が横たわっていた。なぜこんなことをしたのか、と問われても、恐らく大衆が望む答えは持ち合わせていない。ただありきたりな理由だけが私を突き動かしていたというほかない。
私はキッチンにある一番大きな包丁を持って先ほどまで生きていた後悔と向き合う。午前二時。腐臭が漂う前に、私は目の前の後悔を忘れなければならない。
「〇〇反対!」
それはもうウン年も前、8月のクソ暑い昼だった。
「〇〇粉砕!」
まるで暑さにやられ、ぼうっとして何も考えられなくなったように、ひたすら同じような文句を繰り返す。
異様な姿の集団 ー僕たちー は銀座の一等地を練り歩いていた。ヘルメットに覆面、長袖長ズボンという
狂ったような格好で。終戦記念日が近づき、反戦の機運が高まっているとはいえ、こんな無茶なデモ計画を立てた上には、文句の一つも出ても良さそうなものだ。まあ、そんなことをする奴は党にはいられないが…
僕たちのすぐ横を、これまた異様な集団が歩いていた。黒い甲冑のような出動服に盾、警棒…
権力の象徴にして暴力のプロ、機動隊だ。
たまに僕たちを歩道の側に追いやろうと圧縮を仕掛けてくる。その度に僕たちは「やめろやめろ」と押し返そうとする。
こんな様だから、参加者は誰もがヒートアップしていた。でも貧乏くじを引いたのは僕だった。
2時過ぎ、いよいよ地面が熱気を上げ始めた。顔を撮られないようにと、しっかり隠しているせいで、熱気が籠もって暑苦しい。ふらっと車道に向かって倒れ込んだが運のつき。一際偉そうなマル機が何か叫ぶ。僕はあえなくお縄になった。
「どうだい赤石クン、死神の仕事っていうのは。」
「あ、青柳先輩。…何か、思ってたのと違いました。移動はバイクですし、武器は銃ですし。」
「そりゃあ、冥界も現代化してるからねぇ。鎌なんて古い古い。」
「何やかんや言って、やってること探偵業ですし。」
「昔っからそう、霊感がある人とか死期が近い日ととかが私たちの存在に気がついて勝手に死神って呼んでるから。」
「それに…」
「うん?」
「死神の人って動物のパーツ付いてるんですね。」
「皆そーだよ。閻魔サマがランダムで動物の一部をくれるのよ。だから妖怪とも言われるんだけどね。赤石クンは…サルだね、何かフツー。」
「やめてください。僕はてっきり、青柳先輩は性格がキツネっぽいからキツネなのかと…。」
「シツレイな。」
「今日はどんな物を持ってきたんだ?」
テーブルを挟んで私の目の前に眉間にシワを寄せる男がじっと見つめている、その男が目的とするものは私のバックの中に入っていた。
「もちろんよ、これで文句ないかしら」
バックから取り出したのは私の掌程度の大きさである記録媒体だ、それの表面は指紋認証のためのセンサーと小さな液晶がついている。そのセンサーに私の人差し指を当てるとそれは小さく音を立てて液晶にはtrueと表示された。
「これでどうかしら」
それを男に渡すとすぐに横においてあったアタッシュケースからノートパソコンを取り出して、私が渡した媒体を繋いで中身を閲覧し始めた。
その間、私はじっと男の目の動きを追う、眼球が素早く左右に動いて中身を丁寧に見ているようだ。
「これであちらさんに送るデータは揃っている、よくやったな西東」
一通りデータを見終えた男は私に軽く微笑んだ、それに私も答える。
「数日以内に国内の強い酒のおすすめを用意しろなんて、あなたのポケットマネーでいくら飲んでもいいとは言ってもどうかとおもいますよ…イヴァロフ」
小学校に上がったばかりの頃だったか、なかなか寝付けずリビングに行くと、両親は居間で映画を見ていた。画面の中では外国人の男が横の女性と何か話している。男はしかめ面でグラスを干すと、グラスに入っていたサクランボのようなものを噛み砕く。たったそれだけの、時間にすれば30秒にも満たないワンカットだ。映画そのものの内容は全く理解できなかったが、そのシーンだけはなぜか強く印象に残った。私はあれと同じものをいつか飲みたいなとぼんやり思った。
先日、会社の付き合いでバーに寄ってマティーニを飲んだ時、ふとこのことを思い出した。逆三角形の小さなカクテルグラス、静かに満ちた透明な液体、ピンに刺さったオリーブ。あの時男が飲んでいたのはこれだったかと気づいた。図らずも子供の頃の夢が叶ったことになったわけだが、自分でも驚くくらい心は動かなかった。
マティーニが不味かったわけではない。ただ、自分の世界の外にある「特別」なものを楽しむ心が、大人になるにつれすっかり失われてしまったのだろう。私は子供の頃の追憶にもう一度浸ろうとしたが、アルコールのせいで頭の働きはすっかり鈍り、何も思い出せなかった。
ヒーローが死んだ、しかも僕の目の前で。
ヒーローがヒーローであることは誰もが知っていた。テレビで怪人を倒している姿など、飽きるほど見た。そしてその姿は、皆の憧れだった。
今日もそうだった。
ヒーローを殺した怪人は、少し疲れた様子でこちらに気がついた。害意が無いことは分かったので、逃げなかった。
そこで、僕はふと思ったことを質問してみた。
「どうして怪人たちはヒーローを殺そうとしてたの?」
怪人は慣れてないのか、引きつった肉食獣の笑いを見せて、
「善意、かな。」
と言って音もなく去っていった。
そして残ったのは、僕とそして頭を噛み千切られたヒーローの死体だけだった。
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