必死で働いた後の、一杯の酒と一本の煙草

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暗闇の中、最後のオブジェクトを収容室に再収容する。

終わった。



プロトコル・ヴェルダンディ。世界が終わる前時、世界を止める暴論でもって猶予を作り出す財団の最終手段。それが発令されてから、既に主観で100年以上経過した。複製された僕が今何人いて何人目なのかも知らない。僕はただ、淡々と世界のために動いて、動いて、動いて……ついに今日、世界終焉の原因を解決して。

長い道のりだったが、達成感はない。プロトコルの最後は自身の最期。時を止めた時点で死んでいる僕に、そんな感情はなかった。代わりに脳裏に浮かぶのはこんな言葉だ。

「さて、何処で死のうか」

街中は良くない、財団のサイト内が良いだろうか。遠く離れているから、自宅という選択肢は選べないな。

自分のライトが照らす場所以外、完全な暗闇。海でも見ながら死にたかったが、こんな世界じゃ楽しめるわけもない。結局死に場所に選んだのは、片付けの楽さを考慮してシャワールームだった。

バックパックを床に下ろし、漁る。拳銃と、光源と、えっと……あった。1本の缶ビール。誰が収容室に持ち込んだのかわからないが、僕はソイツに一生分の感謝をしたい。銘柄の趣味も合っている。バックパックに座り、僕はプルタブに手をかけた。プルタブを引くことも、響いた軽快な音も全てが懐かしい。虚空に向けて、缶ビールを突き出す。

「乾杯」

そして、飲む。

一気に喉に流し込む。ホップの苦味とともに、かつての同僚が脳裏に浮かぶ。働いた後の酒と煙草ほど旨いものはないと言う彼に誘われて、僕は毎日のように彼と飲んでいた。

そして同僚は、ある日死んだ。

良くあることだ。フィールドエージェントとしての任務中のことだったらしい。それを知った日、1人で飲んでいたのも、この缶ビールだった。涙は出なかった。ただ、誰もいない対面の寂しさと、彼の好きだった煙草の匂いと、舌に残るビールの苦味だけを、僕は覚えている。

一度も止めることなく流し込み、最後の一滴を飲み干した。あの日と同じように、いつもと同じように、名残惜しさごと缶を握り潰して、床に置く。

拳銃を握り直す弾を込め、セーフティを解除する。拳銃は、灯の下で存在を主張している。なんとなくそれが怖くて、ライトを消した。

完全な暗闇の中、引き金に手をかける。さあ、最後だ。手が震えている。目を瞑り、深呼吸して、目を開く。手元の拳銃が、弱すぎる光源に照らされて、まだ震えていた。


  光源?


不思議に思い視線をあげる。目の前に黒いスーツの男が立っていた。火のついたライターで辺りを優しく照らし、煙草の箱を僕に差し出す彼は、静止した世界で僕が初めて見る、自分以外の人間だった。

「ありがとう」

礼を言ってから、煙草を一本取る。彼のことは報告書で知っている。1人で死ぬ人の最後の元に現れる男、ただ見守る者。

煙草に火を貰い、咥えて吸った。彼がライターを消す。目には、2本の煙草の火だけが残る。

1つ、煙を吸い込むたびに。少しだけ光が強くなる。少し縮んだ煙草、この先を考えて少しだけ震える。

彼は僕の肩に優しく手を乗せてくれた。僕は煙草の灰を落とし、また吸って、吐く。

ビールの苦味と煙草の匂いが口の中で混ざる。すっかり煙草も短くなった。最後に味わってから、煙草の燃えかすを地面に落とす。

ああ、やっぱり  

「働いた後の酒と煙草ほど、旨いものはない」

口に拳銃を突っ込む僕を、対面の彼はただ見守っていた。

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