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世界を救う造るための会議機械
「世界が滅ぶ?」
電話越しの第一声を、少し裏返った声でオウム返しする。
「ああ、滅ぶ。これは確定事項だ」
電話越しに聞こえる低い声が、淡々と言葉を繰り返した。返す言葉もない此方に、彼は続けてその言葉の根拠を語る。
曰く、複数の「未来を知る」オブジェクトが、一斉にある日の世界の終焉を見た、らしい。なるほど、確かに緊急事態だが……「滅ぶ」と断言するほどだろうか?これまでも数回、予言されたKクラスシナリオの危機はあった。しかしそれを乗り越えたから、人類は今ここにいる。
断言した理由がほかにある筈だ。O5-1は複数のオブジェクトの予言だけを理由に、ここまでの断言をするような人間ではない。
「……それだけですか?」
「いいや。問題は終焉が予言されている日が、今から64日後だということだ」
舌を巻く。ほぼ2ヶ月。世界終焉への対処を行うには、あまりにも短すぎる。なるほど、これは世界が終わる可能性が、それを断言できるほどに高い。情緒は追いついていないが、頭だけはそれを理解した。O5-1が続ける言葉に耳を傾ける。
「すぐに会議を開く必要がある。既に君以外のメンバーには招集をかけている。サーティーン、君も今すぐサイト-01に来てくれ」
招集命令に異論はない。終焉への対策はトップシークレットにしなくてはならない。そして機密保持を考えれば、直接集まって会議をした方がいい。
「了解しました」
短く肯定を返すと、電話は切れた。
……64日後?突然すぎないか?何故終わる?飲み込めない疑問が、無意識に受話器の軋みを生んでいた。深呼吸して手の力を抜き、受話器を置いた。席を立ち、側で待機していた秘書からコートを受け取る。今大事なのは、一刻も早くサイト-01に向かうことだ。
「サイト-01行きアンダーシャトルの手配を頼む」
「わかりました、すぐに手配します」
早口で秘書に必要な事を言って、必要な物だけを入れた鞄を持ち、必要な事をするために、コートを羽織り部屋を出て、通路を歩く。
焦りからか、気が付けばその足は小走りになっていた。額から汗が垂れる。秘書に水も頼めば良かったな。喉の渇きが、ただ鬱陶しかった。
“プロジェクト・リブート”。でかでかと中央に掲げられたその文字は、世界終焉を回避するプロジェクト名だ。このプロジェクトの先駆けとして、先程サイト-01で始まった会議は、64日後のX-DAY、コードネーム「尽日The COUNTOVER」に発生が予測されるK-クラスシナリオの解決が不可能に近いことを証明するためだけに6時間を費やした。O5たちも人間だ。休憩を取らず6時間も議論すれば、その顔には疲れが見える。
発生するK-クラスシナリオ 詳細が不明なことから、SD-クラス:“シャットダウン”シナリオという呼称が新たに作られた に備え、体勢を整えておく?備えを行おうにも、具体的にどう終わるかがわからない。わからなければ対処のしようがない。SD-クラス:“シャットダウン”シナリオについて分かっている特徴はその一点のみだ。よって備えに具体性が生まれず、このプロジェクトは却下された。時間操作オブジェクトによって、尽日を探索する?時間操作オブジェクトの使用はただでさえ時間軸を揺らす危険な行為であることに加え、発生するK-クラスの種類によっては、持ち帰った情報が現在に影響を与える危険性がある。よってこのプロジェクトも却下された。その後提案されたものは地球外への逃亡や他Keter級オブジェクトによる相殺などの、最終手段である上にSD-クラスを回避出来るかわからない、賭けのようなプロジェクトばかり。そんな現状からの逃避か、SD-クラスが本当に起こるのかを問うものも出てきたが……運命を教えるフォーチュンクッキー、未来から過去へと進む老人、正確に終わりまでを刻む時計等々、大小関わらず未来を示すオブジェクト群の全てが全て同じ日付、64日後のカウントオーバーを指していることから、信憑性は非常に高いものとして確定され、それを疑問視するものはいなくなった。
そして今、会議室には静寂がある。誰もが深く椅子に座り、下を向いている。誰かが小声で吐き捨てた。“畜生”。“もうどうやってもダメだろう”。それに反論するものは、俺を含め誰一人いない。
絶望感と溜息で崩れ落ちそうな頭を支え、新たな資料を手に取る。表紙に書かれている名称には見覚えがある。昔ある博士がO5に提言して、不可能だと笑われ却下されたプロジェクトだ。それは今見ても、本当に、本当に不可能に思えた。これまで出てきたどの案よりも馬鹿馬鹿しく、発案した博士の正気を疑うほどに。
だが、何故だろうか。ページを捲るたびに、絶望感が少しだけ和らいでいく気がして、俺はそれを2回も読み返してしまった。筐体計画プロジェクト・アルカ……掠れた声で、プロジェクト名を呟く。その声を聞いてようやく、自分の酷い喉の渇きに気付いた。6時間飲むことを忘れていた水を、会議が始まってから初めて手に取る。これからしでかすことのために、ペットボトルの軟水を喉に一気に流し込んだ。
バン。空になったペットボトルを、机に叩きつけるように置く。会議に参加した全員が、怪訝そうな顔でこちらを見た。俺は立ち上がり、手元に持つ資料を確認して、それから会議室を見渡す。今から俺が提案するプロジェクトは、アホだ。荒唐無稽だ。無茶だ。一笑に付されるかもしれない。
だが、これしかない。
「提案がある」
実行するプロジェクトが決定し、会議が終わった。O5評議会のメンバーはその準備のため各地に散らばり、それぞれが別のサイトで仕事を果たしてから再集合する手筈だ。
アンダーシャトル。財団によって地中深くに作られた鉄道設備。高速での移動が可能な上、財団関係者以外知り得ないこの地下鉄は、緊急時に非常に重宝する。O5評議会のメンバーは、彼を使い各地のサイトに向かった。
もちろん俺も利用する。次の電車まであと5分といったところか。無人のターミナル、設置されたベンチに座って足をぶらぶらさせていると、エレベーターのドアが開いた。ソイツは俺を睨みながら、鋭い足跡をターミナルに響かせながら、こちらに歩いてくる。
「どういうわけだ?何か企んでるのか?サーティーン」
俺の目の前まできた彼は、椅子に座る俺をキツい視線で見下ろしてそう言った。
「は?」
言葉の意味が理解出来ず、ただ聞き返すと、彼は舌打ちをしてから口を開く。
「あんな提案を押し通すなんて、一体何を考えている!まで、あと64日しかないんだぞ?もっと他に方法はあったはずだ!」
憤りをぶつけるように、彼は一気にまくし立てた。確かに、彼は会議でも最後まで反対していた。俺は宥めるため、柔らかな口調で反論する。
「……落ち着けイレブン。提案したのは俺だが、押し通してはいない。8対5と拮抗したとはいえ、最終的には多数決による合意の上だ。今俺を殺しても、世界の終焉もプロジェクトの実行も覆らない」
「だとしても、文句は言わせてもらう。 世界の再構築を行う機械の作成なんて、不可能だ。正気とは思えない!」
イレブンは俺の言葉を跳ね除けそう断言する。その苛立ちは、俺に向けられた、というよりは恐怖から来る八つ当たりに見えた。苦笑して、俺は返答する。
「いいや正気だ。財団なら可能だと判断されたからこそ、“筐体計画”は認可されたんだからな」
それと。俺は文句を言おうとしたイレブンを制し、言葉を続ける。
「他に選択肢があったか?Keterオブジェクトを使いこなせるなんて本気で考えてたのか?無理に決まってる。地球外へ逃亡したからといって、滅ばない根拠は何処にもない。原因が分からない以上、回避しようとせずに一度予言の通りに滅ぶこのプロジェクトは、1番SD-クラスへの対処としては適切と言えるんじゃないのか?」
そう、反論を許さず一気に言い切った。
イレブンは、無言だった。しばらく、俺を視線で射殺そうとするかの如く、強く長く睨んでから、一応は納得したということか、ため息を吐いてからベンチに座った。少しの間、無言で時が流れる。
その無言を破る轟音で、迎えのシャトルがやってきた。ちょうどいいタイミングだ、運転手に感謝しなくては。そう思いつつ俺がシャトルに乗り込もうと立ち上がり歩き出すと、イレブンは俺の背中にキッパリと言った。
「……アンタ、おかしいよ。すべてを元通りにすることなんてできない」
止まって、振り返る。俺は笑って答えてやった。
「なぜ出来ないと?やったことがないんだ、試してみないとわからないだろ?」
座ったまま、唖然とした顔で俺を見ているイレブンから視線を離し、シャトルに乗る。
たしかに、正気とは思えない計画かもしれない。だが……2ヶ月は、諦めるには早すぎる。シャトルが高速で動き出した。アンダーシャトルなら目的地までそう時間もかからないが、その時間すら今は勿体ない。筐体計画プロジェクト・アルカの資料に、現状考えうる全てを書き込んでいく。
ゲームオーバーまで、あと64日。
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- portal:5526847 (09 Aug 2019 13:25)
ここの部分、資料形式にして、O5がそれを見ている、って言う形にすると視認性が上がるのではと思いました。