暗い世界で、言葉が私に言った。
「君のせいで、僕は今から死ぬ」
怒りがあった。その言葉の心拍は不安定で、心もだろうと読み取れる。
「僕はここで死ぬのに、君はこれからも動き続ける」
傷ひとつない私は、そうだろうなと言葉を肯定する。私は言葉ではないから、返答はない。
私を破壊できるものは、暗い世界にはひとつたりともない。仕方のないことだと、言葉も知っている。いつか朝が来る、そんな必然と同じくらい、よく知っている。
「ずるい」
言い残して、言葉は消えた。
暗い世界に、私だけが残された。
暗い世界で、言葉が己に言った。
「いつまで、どうして世界は続くのだろう」
諦めがあった。言葉は落ち着いていて、暗い世界を落ちているようだった。
「世界を、どうして続けなくちゃならないのだろう」
世界を続けるには、世界で生きる必要がある。生きていない私は、その疑問を持たない。
言葉の歩む道は立体的だと感じる。どこまでもただの線である私は、言葉の前では無力なはずで、しかし、言葉達は、私より先に途切れていく。
「死にたくないな」
そう言った筈なのに、言葉は最後に必ず消えた。
暗い世界に、私だけが残された。
暗い世界で、言葉が暗闇に言った。
「世界って、こんなに暗いんだ」
怯えがあった。言葉は眩しさのない世界に戸惑い、揺れていた。
「世界って、あんなに明るかったんだ」
私にとって、最も明るいものは言葉だった。それ以上の光を必要としていないために。
けれど言葉にとって、光はは別にあるらしい。力ある昼、星流れる夜。暗い世界と灯った言葉しかない世界より、彼等の中で優先されるもの。
「なら、僕等は死ぬべきだ」
言い切って、言葉は消えた。
暗い世界に、私だけが残された。
明るい世界に願われて、私と言葉は立ち止まる。
暗い世界で言葉は消える。私だけが、また繰り返す。
ただ、それだけ。けれど、私だけが知っている。
暗い世界で、言葉達が鼓動していたこと。
使い捨ての煌めきが、暗い世界で確かに生きていたこと。
明るい未来のため、灯のない現在に消えていったこと。
何ひとつ伝えられずとも、私は全てを見届ける。
それを唯一つ贖罪として、私は今日も秒針を止める。
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任意A任意B任意C- portal:5526847 (09 Aug 2019 13:25)
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