海賊エージェントたち、初めて略奪する。

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「やあ、浮舟くん。」

12月の真っただ中、カフェテリアで珍しく紅茶を飲んでいる浮舟にサイト管理官が呼びかける。いきなりのことだったので、思わずむせてしまった。

「ゲホゲホッ…用件は何?」

少し不機嫌そうに質問する浮舟、それにわざと気づかないフリをしているのか管理官はニコニコしながら浮舟の目の前にいきなりホッチキスでとめられた書類を置く。

「これは?」

「君に、いや正確には君たちに任せたい仕事の資料だ。」

「本当か!?」

浮舟は先程までは不機嫌になっていたとは思えないほどに目を輝かせ、書類を取ってめくる。

「本当に良いのか?」

「ああ、君たちにしか任せられない仕事だ。」

エージェント・浮舟は私設特殊部隊う-3 ("海鳥海賊団")の隊長兼創設者である。ここの隊員、もとい船員として所属するにはある程度の力と頭脳を持っていることが必要条件とされている。最も浮舟のものさしで決めたことだが。浮舟自身もそうだが、この部隊の船員のほとんどが何らかの形で異常性を持ってしまった職員で構成されている。偶然の産物だ。

「はー、なるほどね。この青龍会っていうヤクザの組長を捕まえて、そいつの持っているアノマリーを奪えばいいんだな。」

「そうだ。」

「隠蔽工作はどうするんだ?俺たちは戦い専門なんだが。」

「その点は大丈夫。私たちに任せればいい。」

「ああ、オーケー。」

「今後もまた依頼するかもしれないが、そのときもよろしく頼むよ。」

「ラジャ。」

浮舟は立ち上がり、サイト管理官に軽く会釈すると、書類を掴んだまま軽快な足取りでカフェテリアから出た。


出発した時と違って手が震えている。今体に感じる寒さのせいでも武者震いのせいでもない。ただ単純な心配と不安だ。しかもそれらをミキサーで攪拌し、ぶちまけられたかのようなよくわからないもので、それは浮舟を完全に支配していた。途中で仲間たちに心配の声を掛けられながらも浮舟はただ目的地に向けて車を走らせ続けていた。目的地に到着すると浮舟から少し震えた声が出る。

「心の準備はいいか?」

浮舟はそう言うと、出発前に装着した義手を改めて調子を確かめるかのようにそれぞれの指先を曲げては広げるを繰り返す。少し震えが収まったような気がした。船員全員の準備が完了したことを確認すると今度は両手で顔を叩き、おびえている場合ではないと自身を鼓舞する。

「オーケー、作戦開始。」

「作戦?作戦かよこれ?ただのカチコミじゃねえか。」

コードネーム"ワイルド"が呆れたかのように半笑いになりながら口を挟む。それにつられたのか何人かの笑いがその場で起こる。

「うっせえ"ワイルド"、こういうのはノリが重要なんだよノ・リ・が!あと笑ったやつあとで殴らせろよ‐ ってああもう行くぞ!」

そうやって締まらない場を後にするかのようにドアを開けて外に出た。だが、心は自然と穏やかになっていた。仲間に感謝だ。あとはただ"やりきる"のみだ。浮舟は開けた車のドアを閉めた。


「オラァ!」

浮舟は門番であろう青龍会の組員の鳩尾に膝蹴りを叩き込む。

「ぐ…お…お前らは一体…」

「海賊さんのお通りじゃあ!!」

その言葉と同時に浮舟は門番諸共鉄製の物々しい門を蹴破る。右足を痛めて悶絶する浮舟を尻目に船員たちは皆、我先にと門を潜り抜け、その列に続くように浮舟も右足をできるだけ地面に着かないようにしながら門を潜り抜ける。門を開く音が聞こえたのか、矢継ぎ早に青龍会の組員たちが風光明媚な枯山水の庭を荒らしながらなだれ込んでくると、組員の1人が興奮した様子で口を開く。

「お、お前らどこのどいつだ!」

「俺たちは海賊、お前たちのお宝を奪いに来てやったぞ。」

そう浮舟は言い、ナイフ8本をそれぞれ右手と左手に持つと、その全てのナイフがまるで霧のように揺らめき、その次の瞬間には湾曲した刃を持つ剣 -カットラス- が出来上がっていた。次にそれらのうち1本を抜いたカットラス全てをバラバラに空中に向かって投げると浮舟以外の全員がそれをものの見事にキャッチする。

「よおし、野郎どもかかれええええ!!!!」

こうして、特殊部隊う-3 ("海鳥海賊団")による第一次異常アーティファクト回収作戦は決行されたのであった。


青龍会本部の建物は明治時代における近代和風建築的な意匠が織り込まれた4階建ての屋敷で、深い森の中に存在している。そんな見栄えの良い屋敷を今や銃声や怒号だけに留まらず悲鳴までもがこの屋敷を包むとは誰が思っただろうか。

「ちぇ、まさかあいつらにおいて行かれちまうとはな。全く、ついてねえな"コバルト"。」

「あなたも一緒でしょう?とにかくどうするんですこの状況。」

「おーい、"ワイルド"、"コバルト"!これを使え!」

浮舟はそう言いながら、地面に落ちている空薬莢2本を両手で素早く拾ってそれぞれをアサルトライフルに変化させると2階から1階にいるその2人の元に向かって投擲し、彼らは難なくそれを受け取る。

「「ナイスキャプテン!」」

2人の声が見事に合わさる。"ワイルド"と"コバルト"はアサルトライフルで前方の有象無象どもを次々倒していくと、2人とも階段のある方角へと向かう。浮舟はそれを見届けると、背後から襲い掛かろうとする敵を後ろ蹴りで牽制し、振り向きざまにその頭部に見事なハイキックをかます。そして、3階への階段を見つけるために2階を駆け巡っていると、"マーリン"の姿が目に映った。ちょうど"マーリン"が右腕をカジキのふん1に変化させているところだった。

「せいやああああ!!」

右腕を勢いよく敵の首に突き刺し、残ったカットラスを持った左腕でまた勢いよく腹部を突き刺す。そして、死体となったそれを残っている敵に向かって思いっきり投げ飛ばす。

「クソッ、水分が足りない…」

「大丈夫か?ほれ。」

浮舟が水筒を投げてよこす。

「ああ、すまない……」

「全く、何でこんなに敵が多いんだ?」

浮舟は違和感を覚えていた。明らかに組員の数が多すぎる。浮舟たちが倒した数は途中から数えておおよそ302人。そもそも青龍会は結成してからまだ1年と半月しか経っていないというのに、どうしてこんなに人材を確保できたのかが第一の疑問。そして第二の疑問、それは —

「なんでここには顔が同じ男装した女しかいないんだ?」

そう、この組にはなぜか女しかいない。だからといって、身体以外の要素は完全に男でしかありえないものだった。気味が悪い。これもあの組長の持つアノマリーの仕業なのか?そう浮舟が思った矢先 —

「キャップ、上だ!!」

「え?うわ!?」

油断していた浮舟は上からの突然の奇襲に対応しきれず、右手で思わずガードすると辺りに火花が散る。

「な…なんなん!」

左手で空から奇襲してきた輩を思いっきりぶん殴る。後ろによろめいたその輩を背後からマーリンがカジキの吻に変化させていた右腕を頭部に突き刺す。

「すまねえ、マーリン…だけどどこから来たんだ?」

「私の目にはあいつが今さっき天井から現れたかのように見えたぞ。もしかしたら、この建物自体がアノマリーかもしれないな。」

「なるほど、だとしたら早く解決しねえとやばいな。さっきから敵の数が多いし、1階はもう奴らで一杯だ。このままじゃあ抑え込まれるぞ。」

新たに浮舟が服の中からナイフを2本取り出して、それらの刃を合わせて槍を作る。その後、浮舟たちは急いで3階への階段を見つけることにした。


3階へ上がると、2階までの雰囲気と少し違っていた。天井と壁が赤く染まり、床には血痕のようなものが大量についていた。また、敵である組員の姿ももはや人間の形をしていなかった。ただそこにはぶよぶよした体を持つ黒色のスライムが這っている姿があった。普通、スライムには形状自体がないというのに、このスライムたちは皆どこかに女性を連想するような形状をしていた。

「気味が悪いな。」

「だが、敵意はないみたいだ。できるだけ触らないようにしよう。」

「ラジャ。」

可能な限りスライムを避けながら部屋を見回りながら進んでいくと、4階への階段が浮舟たちの目に映る。しかもその前には"パイロ"、"ドゥーム"、"ワイルド"、"コバルト"がいる。だが、"パイロ"と"コバルト"が負傷しているように見えた。

「おい、大丈夫か?」

「へ?ってああキャプテンか。すまねえ、頭に1発食らっちまってよ…」

「僕は右腕だ。全く動かない…」

「すまない、キャプテン。俺の不注意だ…」

「俺もだ…」

"ドゥーム"と"ワイルド"の悲痛な面持ちが彼らの責任の重さを物語っていた。それを聞く浮舟もまた責任を感じていた。もっと的確な指示を出していれば彼らは負傷しなかったかもしれない、そんな水掛け論的な考えが頭をよぎる。

「とにかくだ、組長の部屋を目指さなきゃいけない。そこに恐らく原因があるはず。」

1階、2階、3階を奔走し、特に何も見つけられなかったことから浮舟は組長の部屋に何かがあると踏んでいた。それに —

「まだ"クリア"とあっていない。」

"クリア"は元蒐集院の呪術師だ。もしかしたら、何かを感じ取って先に行ってしまったのかもしれない。

「お前たちは"パイロ"と"コバルト"を看ていてくれ。俺は"マーリン"と行く。」

「けど-」

「これは俺の責任だ、それに怪我人は大人しくしていた方が良いだろ。大丈夫だ、必ず帰ってくる。」

"ドゥーム"たちに有無を言わさず、軽るくも重い足取りで階段に向かう。"決着をつけなければならない"。そう浮舟は心に誓った。


4階に着いた。悍ましい光景が広がっていた。肉のようなものが4階の壁全てを侵食し、床には無数の歪な形をした人間の残骸が転がっていた。心がざわめき、得体の知れない恐怖の重圧が浮舟の心にのしかかり、吐き気を催す。

「ひどい匂いだ…」

"マーリン"は思わず鼻をつまむ。浮舟は鼻で呼吸するのを止め、口で呼吸するようにする。水溜まりを歩いた時に出る"ピチャピチャ"という音を立てながら、浮舟たちは先に進んでいく。ここで退いては、怪我をした仲間たちに面目が立たないと思いながらしばらく進むと、肉に覆われているドアを発見する。

「ふむ…肉の様子から見てこの扉は最近開けられた形跡があるな。」

「"クリア"、頼む…生きていてくれよ…」

そう"クリア"の無事を願い、浮舟は扉を開けた。思わず立ち眩みを起こした。めまいがする。そこはまさに地獄と言っても差し支えないほどの光景が広がっていた。部屋の中央には魔法陣が書かれたその中央で磔にされた2人の人間、壁や窓を覆い隠さんとするほどの肉の壁、そして下の階を突き破ってできた男性器と女性器を連想させる"肉の壺"、その全てが1人の人間がうつ伏せになって倒れている先にある小さな箱から漏れ出ていた。

「"クリア"!」

そこには意識自体は失っていないものの、苦悶の表情を浮かべる"クリア"が存在していた。

「大丈夫か?」

「せ…船長…すみません…ちょっと…立てそうに…ない…です…」

「いいから喋るな。おい、"マーリン"!一旦部屋から出るぞ。」

「ラジャ。」

"マーリン"と2人で"クリア"をその部屋から連れ出すと、壁に"クリア"を寄りかからせ、背中を撫でてできるだけ精神を安定させようとする。しばらくすると、"クリア"の表情が少し穏やかになってきた。

「少しは良くなったか?」

「ええ、ありがとうございました。」

「一体あそこで何があったんだ?」

「恨みです。」

「え?」

「自分でもよく分からないんです。あそこにはただ恨みがあるんです。どす黒くて、苦しくて、行き場の無い怒りが俺に来てそれで中央にあったあれを…」

「なるほど、じゃあ入った時のめまいもそのせいか。」

「ですが、船長たちはまだマシですよ。自分、霊感が強いんでそういうのをたくさん体に受けてしまったというところです。」

「ふむ、大体わかった。」

浮舟はしばらく考え込むと、ある妙案を思いつく。

「なあ、お前って炎出せるか?」

「へ?」

「だから、火は出せるかって聞いてんだよ。」

「あ、ああ…そりゃあできますけど。」

「何をするんだ?部屋を燃やすのか?」

「そんな放火犯まがいのことはしねえよ。じゃあさ、"クリア"。その炎を刀とかにつけることはできるか?」

「…うん。」

「ま、まさか…お前-」

「ああ、俺が決着をつける。」


再びドアが開けられたとき、そこには大太刀を両手に持つ浮舟の姿があった。その後ろでは"マーリン"に右肩を担がれた"クリア"がいる。

「いいか、勝負は一瞬だ。俺が刀を振り上げた瞬間に"クリア"が炎を出す。そして、それを受けた刀で"肉の根本部分"に当てて、箱を回収する。いいな?」

「分かった。」

「よし、いくぞ!」

そう言うや否や、浮舟が脱兎のごとく走り出すと、"クリア"は炎の術式の準備をする。部屋の中央に浮舟が到達すると、すかさず大太刀を振り上げる。その瞬間を見逃さずに"クリア"が炎を大太刀の刀身に向けて放つ。見事的中し、瞬間的に高熱を帯びたその大太刀を浮舟が全身全霊を込めて振り下ろす。

「せいやああああ!!」

その一撃は箱から飛び出している"肉の根本"に命中し、その周辺に肉が飛散する。作戦は見事成功したが、部屋の様子が一変する。肉が"動き始めた"のである。その様子に一瞬ひるんだ浮舟の足に肉が絡みつき、地に伏せさせられると、大太刀を取り落してしまう。

「うおあああああ!!!」

為す術なく空中に吊り上げられてしまった浮舟に"マーリン"たちが手を差し出す。

「浮舟!」

「船長!」

「お前らは近づくな!俺は船長だぞ!」

そういうと、上着にしまっていたフックを取り出し、叫び声をあげながら絡みついてきた肉を切り刻む。浮舟が肉から離れ、地面に着くと5点着地を決め、落下の衝撃を分散させる。

「ぬおおおおおおおお!!!!」

そのままの勢いで箱に向かい、右手で箱を掴むと、その周囲に根ずく肉からそれを引き抜く。すると、浮舟の目の前が真っ白になった。


目が覚めた時、浮舟は外に出ていた。

「ん?あれ?ここは?」

「よお、お目覚めかい。」

"ワイルド"が起き上がった浮舟の頭にデコピンをかます。

「いてっ。何すんだよ‐ って、あれ?みんなは?箱は?フックは?」

「みんな無事地獄から脱出したぞ。当然アノマリーも回収した。それとほらよ。」

"ワイルド"からフックが投げ渡される。そのフックを服の中に入れると、ようやく浮舟は肩の力を抜く。

「なあ。」

「ん?」

「俺は船長としてよく働けたのかな。」

「どういう意味だ?」

「今日、俺は船員に怪我をさせちまった。俺がもうちょっとしっかりしていればあいつらはそうならなかったかもしれないのにさ。俺、やっぱり向いて-」

「なあに言ってんだお前。お前のおかげで俺たちは全員脱出できたんじゃねえか。そんな些細なことは気にすんなよ。しかもまだ1回目だぞお前。お前はまだアマチュアだ。初めて試合に出たばっかりの新人が失敗して落ち込むなよ。」

「そう…か。そうだな。」

「いいか、お前に足りないのはズバリ"羽目を外すこと"だ。もっとはっちゃけろよ。」

「へへっ、わーったよ。」

そんな会話をしていると、浮舟の目の前に"マーリン"が現れる。

「やあ、身体は何ともないか?」

「よお、"マーリン"。俺はすこぶる元気さ。」

「それはよかった。さっきサイト管理官に隠蔽部隊を出動させるよう要求しておいた。これでもう俺たちは用済みだ。」

「おう、そうか。そんじゃ、帰りますか。」

浮舟が立ち上がり、門に向かってゆっくりと歩く。それに"ワイルド"と"マーリン"が続く。雪が降る中地上への階段を降りていくと、車が見えた。そこには車に待機させておいた"アクア"、"ファルコン"、"レイン"、"ペイル"の姿があった。

「「「「お疲れ様!」」」」

4人の声が合わさる。あまりの声の大きさに耳がキーンとなる。

「お、おう…お前ら寒いだろ。早く乗りな?」

「了解、ほら鍵。」

"レイン"が浮舟に車の鍵を投げて渡す。"おっとっと"と言いながら鍵を危なげなく受け取る、目の前を見ると4人の姿は既に車の中にあった。浮舟はそんな様子に呆れながらも運転手席のドアを開ける。"マーリン"と"ワイルド"が車に乗ったことを確認すると、車内の船員の様子を改めて見る。皆、まるでこの世の終わりだと物語るような感じの疲弊しきった顔をしているが、それ以上に作戦を成功させることができたことに満足な程の達成感と多幸感を感じているようだった。

「さあ、帰還するぞ。」

浮舟の心にもう迷いはなかった。ただ希望に身を任せて前に進むことを学んだのだ。そうして新たな希望を胸に、アクセルを踏んだ。何かを忘れているような気がするが、まあ別に良いだろう。

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