「好きと仕事を両立して見せます!」彼がそう言って独立して早15年。当初こそは理解されなかったが、認められるのにそう時間はかからなかった。財団ゲームセンターの店長を務める鈴木高登(39)は、博士でもある。一見交わらなそうに見える二つの職業だが、どのように両立し、そしてどのような一日を送っているのか。
博士店長の朝は早い。
我々が朝6時に鈴木の自宅に伺った時にはもうすでに朝食を食べ終えていた。
鈴木(以下、鈴)「おはようございます、今日は一日よろしくお願います。」
スタッフ(以下、ス)「おはようございます、早いですね。毎日この時間にはもう?」
鈴「ええ、開店作業も自分でやるんで、この時間に起きないと間に合わないんですよ。」
そう言いつつ鈴木は朝の準備の手を止めない。食器を洗いつつ、こう続けた。
鈴「従業員に任せていた時期もあったんですけど、最初のころの習慣が抜けなくて、朝の時間が手持無沙汰になるのが嫌で譲ってもらっちゃいました。」
ス「最初のころというと、15年ほど前のことですか?」
鈴「そうです。あの頃は全部ひとりでやっていたから大変でしたよ。まあ、その時にあきらめなかったから今の自分があるんですけどね。」
鈴木は笑いながらそう答えた。
ス「ちなみに朝食にはなにを?」
鈴「炒飯です。」
ス「朝からがっつりですね。」
鈴「最初からトップギアで仕事をするにはエネルギーは重要ですからね。簡単に素早く作れるので時間がない朝にもぴったりです。さ、行きましょうか。」
いつの間にか準備を終えていた。手際の良さも鈴木の長所だ。車に乗り込み出勤する。仕事場は鈴木の自宅から車で15分ほどのところにある。我々は車の中に気になるものを見つけた。
ス「この写真はどなたで?」
鈴「ああ、妻と息子ですよ。私は単身赴任でここで働いているんですが、私だって一人の人間ですから、寂しくなっちゃうことだってあるわけで。写真を置きたくもなりますよ。」
ス「しかしなぜ家ではなく車内なんですか?」
鈴「恥ずかしい話なんですが、私事故を起こしやすい性格でして。何度か事故を起こしちゃったことがあるんですが、思い返してみると必ず一人で乗っているときなんですよ。そこで、物は試しにと写真を置いてみたらなんと事故らなくなったんですよね。きっと家族が守ってくれているんでしょう。あ、もちろん家にも写真はありますよ。」
そういう鈴木の目には、家族への満ち溢れた愛が映っていた。
そうこうしているうちにゲームセンター兼研究所に到着した。裏口のカギを開け、慣れた手つきで開店作業を進めていく。5分ほどたつと2人の人影が見えた。
近藤(以下、近)&横山(以下、横)「おはようございます、店長」
鈴「おはよう、今日も一日よろしくね。」
ス「今の二人は?」
鈴「従業員の近藤と横山です。」
ス「今日はこの3人で?」
鈴「はい。ほんとはもう1人いるんですけど、今日はOFFです。」
ス「なるほど。それはそうと、8時に開店するんですか?早いですね。」
鈴「ええ。8時に開店して14時に閉店します。そのあとは研究の時間です。我々も研究者ですからね。研究する時間も取らないといけないわけです。」
そのあと鈴木は「ちょっと失礼します。10分後には戻ってきます。」と言って裏に消えていった。我々は従業員である近藤に話を聞いてみることにした。
ス「お疲れ様です。少しお話いいですか?」
近「いいですよ。」
ス「このお仕事は店長さんに誘われて始めたんですか?」
近「はい、そうです。最初は何言ってんだと思ってましたが、店長は温厚でいい人ですし、そもそも自分もゲーセンが好きだったので。自分で言うのもなんですが、馴染むのにそう時間はかからなかったですね。」
ス「なるほど、ありがとうございました。」
近藤は朗らかに答えた。従業員からも、鈴木の明るい性格が垣間見える。
鈴「お待たせしました。」
どこからともなく鈴木が現れる。
ス「いえいえ。何をなさっていたんです?」
鈴「定時連絡ですよ。15年ほどたった今でもまだ遊んでるんじゃないかと疑っている人がいるらしくてですね(笑)。連絡が義務になっているんです。」
ス「そうなんですか。個人的に何回かこちらに遊びに来たことがあるんですが、鈴木さん仕事に真摯だとおもうんですけどねぇ。」
鈴「はは、ありがとうございます。さて、そろそろ開店ですよ。」
時計を見ると7時55分。鈴木たちは簡単な朝礼を済ませて開店する。朝8時だというのにお客さんがなだれ込む。
ス「すごいですね、朝早いというのに。」
鈴「いらしているお客さんのほとんどが9時始業の方です。朝は時間があるわけですね。仕事柄ストレスもたまりやすいでしょうし。一種のオアシスになってくれるとうれしいです。」
お客さん「おーい!店長さーん!」
鈴「はいはい、今行きますよー!」
鈴木は駆け足で向かっていく。スタッフは、店が落ち着くまで邪魔しない位置で待機することにした。
9時30分頃。客足も落ち着き、店員の間でも緩んだ空気が流れる。ここで鈴木は30分ほどの休憩に入る。
ス「いやあ嵐のようでしたね。ところで、この時間に休憩に出て大丈夫なんですか?」
鈴「大丈夫ですよ。この時間はお客さんもほぼいないですし、従業員も優秀ですからね。安心して任せられます。」
従業員間の信頼関係も抜群のようだ。ここで、休憩室のドアがノックされる。
鈴「どうぞ―。」
横「休憩中失礼します。今大丈夫ですか?」
従業員の一人である横山が入ってくる。鈴木はこちらに目をやり、確認する。断る理由も特にないので、遠慮なくどうぞという視線を送る。
鈴「いいよー。で、どうしたの?」
横「はい、お客さんがこういうのを見つけたといってまして。」
そういって、金属で構成されたそれを見せる。それを見る鈴木の顔がみるみる青ざめていくのがわかる。
鈴「ちょっ、おまっ、それ収容チャンバーのドアノブとその周りじゃねえか!じゃあブツは───」
するとけたたましい警報音とともに警告灯で部屋が赤く染まる。
──緊急警報。緊急警報。SCP-████-JPの脱走を確認しました。機動部隊へスクランブルを要請。至急、客の避難を開始してください。繰り返します。緊急警報。緊急警報。SCP-████-JPの脱走を確認しました。機動部隊へスクランブルを要請。至急、客の避難を開始してください。
鈴「まずい、客を避難させて俺らも逃げるぞ!」
撮影を中断し避難。幸いにも、けが人もおらず、店の備品被害も軽微に済んだ。
ス「いやあびっくりしました。それにしても避難誘導がスムーズでしたね。」
鈴「今回はお客さんが少なかったんで。それに、日ごろから避難訓練も行ってこういう事態に備えています。仮にも異常物品を収容しているので、万が一に備えてですね。」
そういう男の背中はどこか頼もしかった。
流石にこれでは営業できないとのことで、今日は店を早めに切り上げて従業員は14時まで休憩に出すという。
ス「休憩長いですね。」
鈴「こういうことがあるとストレスもたまりますし、何より2人ともよく動いてくれましたからね。ちょっとぐらい休んでも罰はあたらないでしょう。」
こういった従業員を思いやる鈴木の性格も、この店が長続きしている一つの要因だろう。
ス「鈴木さんはこれから何を?」
鈴「今回のインシデントを上に報告して、今日はもう早いですが研究に勤しもうと思います。」
ス「わかりました。」
時は飛んで夜。仕事を終えた鈴木は夕食を食べに行くと言う。
鈴「██(スタッフの名前)さん。一緒に夕食でもどうです?」
ス「よろしいんですか?それでは」
一行は鈴木の車で店へ向かう。到着したのは2年ほど前に開店したばかりのラーメン店だった。ガラガラと扉を開け、店員の威勢のいい声が聞こえてくる。
店員(以下、店)「いらっしゃっせー!あ、鈴木さん!お久しぶりです!」
鈴「おう、ちょっと撮影してるんだけどいいかな?」
店「もちろんいいっすよ!」
鈴「ありがとう。じゃあ、2人で」
店「こちらの席へどうぞ―!」
2人で席にかける。
ス「お知り合いで?」
鈴「はい、実は彼は高校の後輩なんですよ。実は私、ラーメンが大の好物でして、開店前から味や店の雰囲気についてアドバイスしていたんです。」
店「そうなんスよー!めちゃめちゃ助かりました。鈴木さんがいなかったら開店はもう5年は遅れてましたね(笑)」
水を持ってきた店員が話に割り込んできた。
鈴「おい、話に割り込んできちゃあだめだろう。」
店「へへ、すいません。でも鈴木さんが来てくれたことがうれしくて。」
鈴「次からは気をつけろよ?」
店「へーい!あ、ラーメン何になさいます?」
鈴「ここは豚骨ラーメンがすごくうまいんですが、どうです?」
ス「じゃあそれにしましょうか。」
店「豚骨ラーメン2つですねー!少々お待ちください!」
後輩との会話からも鈴木の寛大な性格が垣間見える。この男に運転以外の弱点はあるのだろうか。
鈴「こんなところでいうのもなんですが、実は私一つ直したい癖があるんですよ。」
ス「なんでしょう?」
鈴「実は、たまに口が悪くなっちゃうんですよ。」
弱点、あった。だが、そこまで悪いようには見えない。
鈴「周りの人は『そんな気になるほどじゃない』って言ってくれるんですけどねぇ。でも、自分で後になって『やっちまった』って後悔することがよくあるんですよ。」
店「気にしすぎじゃないッスか?」
鈴「何?」
店「長年一緒にいますが全然です。口が悪いっていうのはこのようなことを言います。」
そう言って店員はとある映像を見せてきた。
『なめんじゃねえぞこの████████が!』
『は?████████████!』
とてもじゃないが放送できない単語が並ぶ。
ス「これは…」
店「俺の友達ッス。いつもはこんなこと言うやつじゃないんすけどねぇ。ま、俺が何言いたいかっていうと、下には下がいるから気にすんなって事っす。」
フォローになっているかどうかわからないが、鈴木の心には響いたようだ。
鈴「そうか… そうだな!」
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任意A任意B任意C- portal:5513886 (12 Oct 2020 05:45)
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