義体と機械

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「いやあ、申し訳ないね、護衛までつけてもらえるなんて」

厳重な装備に包まれたえらく身長の低い男がマシンに、正確には義体の男に言った。

「全くだよ、なんで俺が探植家の護衛なんかに……」

文句をいいながら義体の男は探植家の周りを監視しながら歩く。
身長の低い男は義体の半分にも満たない背丈であり、ハーフリングのような姿をしている。
探植家と言われたその男は笑いながら義体の男に言った。

「しょうがないじゃないか、トップが決めちまったんだ。俺らじゃ何も文句が言えない」

「それにしても暗いね、太陽は偉大だったんだな」

30世紀初頭に起こった多国籍超巨大複合事業体「アトラスタ財閥」が引き起こした「Re:BREAK」。それにより人類は常に無尽蔵に増殖する金属構造体、ひいてはインクの脅威に怯えながら生きることとなった。金属が蹂躙するこの世界では、自然由来の物はほぼ存在せず、人類も数多く死んでいった。
そのような悍ましい金属に唯一対抗できるものが植物であり、インクの侵食に対抗できる成長速度の植物の研究や、植物兵器の設計・製造をしているのが探植家である。

2人が探索している場所も例外ではなく、金属が蔓延り、植物があるところの方が少ない。

「ところで君はこの世界では珍しいよね、インクに侵食されてない義体なんて。なんで義体になったんだい?」

「ああ……これか。んん……」

腕を軋ませながら、頭を掻き……目線を逸らす。しかし、義体の男は装甲に包まれた頭を掻く必要はなく、目線といってもカメラセンサーを動かしただけである。
そして義体の男は明らかに話すことをためらっている。

「あ、話したくない感じか?」

「いや、話すよ。あれは確か……」

「俺……人間だった頃は梶木って名前だったんだがな?俺が生まれた頃には既に世界は金属に包まれてた、ただ俺は親がいたから周りのヤツよりは幸せだったんだ」

「だが俺が……12歳だったかな、その時に狂ったマシンどもが俺らの生存圏を襲撃したんだ」

「幸い俺は無事だったが……俺の世話とかしてくれたヤツや俺の両親はみんな死んじまった、ひでえもんだ」

「それで俺はマシンを恨んだんだ。あいつらに対抗できる力を手に入れたかった。だから俺はありったけの力を使ってマシンどもを潰してきた」

探植家は熱心に聞いている。が、それ以上に熱心に草むらを掻き分け目を凝らしている。
「それで?」

「ああ、だが俺が32歳の時だ、忘れもしねえ。ある生存圏の護衛に行ったんだがな、一発くらっちまってよ」

「死にかけたのか?」

「ああ、死にかけた。だが俺は所詮傭兵。誰も助けてはくれなかった、ただ一人を除いてな」

「……誰なんだ?」

「換装屋だよ、あの忌み嫌われてる換装屋だ」

換装屋とは、28世紀頃から登場した人間を義体化することを生業とした小さなグループである。
換装屋にも幾つかのグループがあり、グループごとで義体のパーツや性能などが異なっていた。

「えっ、あいつらに助けられたのか……」

「XANET事件以降あいつらマシンの味方とか言われたらしくて依頼が来なかったそうだ。だから部品は大量にあった。あの事件以前の義体はみんなインクに飲まれたんだと」

「んでまあ義体化されたってわけだ。おかげで命は助かったが……あいつらと同じ見た目だ、皮肉にもな」

梶木は自分の体は叩く。金属と金属のぶつかる音が響く。

「そいつはまぁ……皮肉だね」

二人が話しながら歩く中、探植家はパッと草むらに駆け寄る。

「おっ!これは!」

「なんだ、何か見つけたのか」

「これは今回の探索で見つけたかったものだよ!確か……」

そういって探植家は懐からボロボロの本を取り出し、ペラペラとページをめくる。

そうして指刺したページには、そこにある花と酷似した絵と、「lucet flos」と書かれた見出しがあった。

「これで光源が確保できた、なんなら夜を越せるぞ」

「夜を越すにしてもちゃんと見つからない場所にしろよ、んで気は抜くな、いつマシンに襲われるか……」

梶木が忠告しようとした瞬間、ガサッと足音がした。

「おい、止まれ。誰か別にいるぞ」

出てきたのはマシンだった。鉄パイプのようなものを持ち、フラフラと歩いている。
しかし体は傷だらけで肩のパーツは外れかけている。

「う、うわぁあ!!」

探植家が大声を上げたが、それがマシンを刺激してしまった。
腕を振り上げ、探植家目掛けて走ってくる。

「頼んだぞ!」

そう言って探植家は地面にはいつくばって逃げだす。
マシンは依然、探植家を追いかけていた。

「気を抜くなって言っただろ……」

梶木が走り抜けるマシンの腕を掴む。マシンはゆっくりと梶木の方を向き、腕を振り上げた。
振り降ろされたパイプは空を切り、梶木の拳がマシンの頭部に当たる。
が、マシンはよろめきもせず、背中にかけていた銃を取り出し、梶木に向かって撃つ。

「そうこなくっちゃな」

梶木も隠し持っていた銃を取り出し、腰に搭載されたエンジンで高速移動しながら連射する。
人間では到底当たらない速度で移動しているが、センサーは確実に反応をしている。
発砲音が響き渡り、金属と金属がぶつかる音、そして関節部分が軋む音が辺りを木霊する。
梶木の銃弾でマシンの腕が火花をあげ、オイルが漏れ出す。
梶木も上半身パーツの装甲に穴が開き、中の配線が顔を覗かせる。

しかし梶木の傭兵としての腕は確かであり、マシンは腕の関節部分は機能しなくなり、頭部のレンズにはヒビが入っている。
そしてマシンは最期の抵抗と言わんばかりに、錆びついた関節部分を回し梶木に向かって猛進する。

1発の発砲音。そして辺りは静寂を取り戻す。

「お、おい、大丈夫か……?」

探植家が恐る恐る近づく。

そこには、オイルまみれ、ススまみれの梶木がいた。
古いオイルの臭いと導線の焦げる臭いが辺りを充満する。

「おう、片付いたぞ」

そう言いながら梶木は倒れたマシンをバラし、記憶チップを取り出す。

「何してんだ……?」

「こいつが俺の両親を殺したやつか確かめてんだよ、記憶チップは嘘をつかねえ」

そういって梶木は腕にある読み込み口にチップを刺した。

██/██/32██
マスターより待機命令。実行する。

██/██/32██
マスターの待機命令から10年が経過。実行を継続する。

██/██/33██
マスターの待機命令から100年が経過。実行を中断し、マスターの安否を確認する。

██/██/33██
Incrinitiumの侵食を検出。

██/██/34██
メンテナンス不足。至急メンテナンスを要求する。

██/██/34██
メンテナンス不足によりIncrinitiumの侵食が進行。至急メンテナンスを要求する。

██/██/35██
活動停止を要求する。活動停止を要求する。

「……インクか、どうやらこいつも違うらしい」

「違うのか、じゃあ先に行こう」

「だがまあ……なんだ、こいつらも生きてるんだな」

「何か言ったか?」

「いや、何も。行くぞ」

梶木の憎しみは消えず、されどマシンは生きている。

梶木は複雑な感情を抱きながら護衛を続けた。


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