「ん-? おっ、場所は廃神社らしいぞ。何でも久しぶりに掃除しにいった管理人が行方不明になったんだとさ」
紙パックのブドウジュースのストローを引き抜いて噛みつつ、回転椅子をくるくると回す。またいつものか、とそそくさ何人か研究員の姿を消える。
「その家族が捜索願を出した。で、警察が動いた」
「そうですか」
ずずー。かみかみ。くるくる。
紫で少し美しく彩られた事案のレポートが自称天才他称財団では普通の人より贈呈される。この人のこの態度を見ていると、有能な人間的問題児を世界の為になるからと雇用した財団の人事部はGoIの構成員よりも信用にならないと常々思ってしまう。
「だが、現地での活動をしていた人員全員消えちゃって大変なんだってさ」
すぴー。
ストローを笛にするな。後ちょっと笑顔になるな。そして椅子の回転数を上げるな。白衣がまたカラフルになっているぞ。
「そうですか」
「…もう少しいい反応してくれよ、タイソウカワ君」
「田草川たそがわです。いい加減部下の名前ぐらい憶えてください。倉林博士。」
「…わかってるよ」
涙目になるなよ我が上司。だが、そんなだからこそ護ってやらないといけないと思ってしまう。
‐‐‐
財団の研究職にアノマリーじみた存在が雑多にいるとは聞いていたし、人付き合いは色々と覚悟はしていたがこういうタイプは初めてだ。
倉林 空。御年32歳。研究職でクリアランスレベルは4。まだその異常性は見た事は無いが、極度のストレスに曝されると文字通り”幼児退行”する人間であるらしい。要は若返る存在であるという訳だ。本来なら収容される筈だが、その天分の才をもって世界の為に雇用されている。
そして異常性の為、二十代前半の自分よりも遥かに年上の筈なのに自分の妹よりもずっと年下、7歳ぐらいのどこにでもいる女の子に見えるし、その中でも可愛らしい部類に入る外見をしている。しかも自身の老化の速度を自発的にいじれるときた。が、身長が120㎝ぐらいしかないので、職務の遂行に問題が出ている。中身は若返りしても変化しないとも聞いたが、言動には幼さを感じる。でも、そういったのの相手じゃないと俺の仕事は出来ない。
趣味は鉄棒、とか最初の自己紹介の時に言ってきたし、確認した人事欄にそう書いてあった。それを読んだ時は、目眩がしたし、人事部に対する信頼がまた薄れたのを肌で感じた。まあ明らかな人外魔境のラボで喋るウナギの御相手を仕る可能性が無くなった訳で、自分の仕事にそこまで支障が出なさそうで安心した。その時は。今はその安心を後悔している。こっちの方がヤバかった。
‐‐‐
レポートを読み終わったので返却した。両手でそっと両端を持って腰を折るポーズで受け取られた。そろそろその卒業証書授与みたいなやり取りはやめた方がいいぞ上司。
「で、私達が異常性の確認の為先に現地にき、その後に本格的な調査を行う訳ですね」
「現地は一般の人が今は全く来ない所らしいけど、わざわざ対処してもらってるのも悪いしすぐに行こうか」
どうも今対応できる人間がいないらしい。部屋の在室状況のホワイトボードには、さっき消えた人達がアノマリーの定期観察を1時間早めに前倒ししてお出かけしたことが書いてあった。今から俺はめんどくさいのとピクニックである。今回の件はサイト管理官には言わないでおいてやろう。でも癪だから後で焼肉をたかろうか。多分奢ってくれるだろう。
‐‐‐
サイトを出て、街と山地をいくつか通り抜けて、目的地に向かう。その目的地には人目が無い、と言ってもそこまでの道程はそうじゃない。だから俺達2人は外遊びに行く親子の様な格好(俺はジャージに長袖シャツ、上司は俺のをサイズダウンしたの)に着替えて車に機材を積み込んだ。
くぴー。ふぴー。ぬぴー。
上司はチャイルドシートに座していびきをかいて眠っていた。出発から30分後の事である。乗り物に揺られるといつもこうだ。人の真後ろで幸せな顔をしておられる。免許は黄金の紙製、見た目は子供、頭脳は異常に対しては一般の大人以上それ以外はそこらの子供より怪しい人は実地実験実働が出来るのだろうか。
‐‐‐
「すみません。この先交通規制をおこなっているんですよ」
さらに進んだ先に、青い服の男2人組が通り道に居た。こんな手前で道路工事…ああそうか、封鎖部隊か。年寄りの方は車種と車のナンバープレートを確認し、財団のトランシーバーで連絡をしている。工事現場の人間しからぬ自動車の免許証の提示を求めてきた若い方は私と上司の顔を交互に見て
「ピクニック楽しんでな。田草川さん」
とにやけつつはっきり言った。後で覚えてろよ元”エージェント・海原”。
‐‐‐
着いた。やっと着いた。運転する1時間半は同じだけデスクワークするよりも疲れる。上司が起きる前にヨダレを拭いておこうか。…いや今やったら起こてごねるよな? マジで育児が如くゆっくりとシートベルトを外して抱っこをする。上司は起きた。お荷物を降ろして機材を背負う。俺が大半、上司は記録用デジカメ1つ。
しばらく石段を上ると件の神社が見えてきた。ここまで現実改変や認識災害を感じられない、観測機器は無反応という物理的に正しい反応をしてくれている。
「あのさ、疲れた」
「到着したばかりですよ」
108歩は大敵であったらしい。
‐‐‐
今、俺達は異常現象の発生した場所の真隣の空き地で、ブルーシートを敷き昼飯を喰らっている異常存在です。俺はおかか、鮭、昆布の3種のおにぎり2つずつを正に食しています。上司はタコさんウィンナーブロッコリーピーマントマト卵焼き玄米お弁当を食べています。そのネーミングは流石に無理があると思いますよ上司。
‐‐‐
俺達が食事を終え、後片付けをしていると静謐な空間に似合わないトラックが山の麓に入ってきた。本格的な機材と本格的な仕事人並びに今日のVIPDクラス職員の登場である。
「あのですね。そこまでやるべきじゃないんですよ。何時も言っていますが」
「分かっているよ。でもここまでは計測したからいいでしょ」
「じゃあー」
下山してから俺の同期、麻縄研究員と上司は先程からVIPの待遇を話し合っている。当のVIPは武装した職員達に囲われる素晴らしい警備体制の元に居る。身の安全の為に要人はこうでなきゃいけない。ま、こいつはこの国の重要人物を暗殺する立場だった訳だが。そんな輝かしい経歴でも、世の中の為になる事をする時の立場は同じなのは平等でいい。気が楽だ。
‐‐‐
「D-78849、聞こえるか?」
『ああ聞こえるぜ倉林博士』
スピーカーから声が聞こえる。声は弱弱しい。そりゃそうだよな。何度も会っているとはいえ小学生が白衣を着ていてその隣に爆発ヘアーの猫顔、いや猫頭が居たら。んでもって毎度背後にはピストルにスナイパーライフルの照準があったらそうもなるわ。総理大臣の暗殺を計画、実行をけしかけられ、実際しかけたタマでも肝が冷え固まるこの裏側の世界の住人は、向かい合っている闇よりもかなり混沌としているのだろうか。
「何が見えるD-78849?」
『寂れた神社だな。写真で見た通りのままだ。何も変わらない』
頭に最新技術抗ミーム処置や記憶補強処理を得たD-78849はこの周辺だとうちのサイトぐらいにしかいない、何度も死線を超えている使い捨てのエリートだ。とても貴重な職員だ。
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任意A任意B任意C- portal:5466261 (17 Jan 2020 07:00)
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