"お願い"
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白騒放送様へ



お世話になっております。白騒放送様の「最期のお願い叶えマス」に出演途中の宇津木塑羅と申します。
今こうしてお手紙を書いているのは、私から、本当に勝手ながら、件の番組に関して一つ重要な要望があるからです。口頭では上手く話すことが難しそうで、メールでは気持ちが伝わりにくいと考え、この形でお伝えすることになりました。出来るだけ早くお読み頂き、ご検討して下さると幸いです。これより、この要望をするに至った経緯を記載します。P.S.要望の内容は最初に書いておくべきでしたね…腰が引けてしまって。最後を見てください

私が出演を引き受けるまでは、私は迷っていました。自殺をしたいという欲求はありながら、結局出来ていない。いっそ「自殺しなくてもいいんじゃないか」等と思ったりもしました。そんな時、あなた達が現れ、番組に出演しないか、と声を掛けてくださいました。私は──こんな風に私を主役においてくれるのなんて初めてでしたし、断るのも悪いと思ったので──二つ返事で了承しました。あと、普通の番組ではないという特別感があったせいでもあると思います。

初めに違和感を覚えたのは、最初の収録、つまり梁取様が私の家にいらっしゃって私がこれまでの経緯を話した時です。テレビ撮影という事もあり予期はしていましたが、それでも自分の本心とはずれているように感じずにはいられませんでした。これが普通のテレビなら私としては構わないのですが、しかしこれは実質私の遺書代わりになります。出来れば、最後ぐらいありのままでいたいな、と思ったりしました。実際、確かに月には憧れましたが、そこまでの執着はありません。自殺の理由は、一応望んでいた通りにはなったけど、意外とこんなものか、と思ってしまったからです。しかし両親や他の視聴者がその事に気付くことはありません。

その撮影から私の最期の日まで約2週間。私はできる限り一つ一つ噛み締めて生きるようにしました。朝食のパン、登校時の混雑した電車、退屈な授業、友人とのくだらない会話、母の「おかえり」、父の「ただいま」。それらは余りにも他愛なく、珍しくもなく、ごくごく何にも変わらない普通のものでしたが、私はこれが最後かもしれない、と考えると意識せずにはいられませんでした。意識しすぎて、かなり精神的に疲弊していました。

私は平静を努めました。やはり最後は下手に特別なことをするよりもありふれた日常を送りたかったのです。正直ディズニーランドとか行きたいな、なんて思ったりもしましたが堪えました。

5日ほどして、ようやく私は、自分の死ぬ日が分かっているという事がどれほど恐ろしいのかに気付きました。少しずつ、確かに死が近付いてくる感覚は無視するには強大すぎました。鏡を見て笑顔の練習をしたりもしましたし、笑える動画を見て気分を紛らわそうともしましたが、その度に例の日の存在を思い出してしまい、吐きそうになりました。夜も寝付けなくなりました。

それでも必死で取り繕っていました。我ながら上手く演技出来ていたと思いますし、実際クラスメイトは気付きませんでした。しかし……不思議なこともあるものです。

"その日"まで残り1週間となった日の夜、私は両親に呼び出されました。そこで私は聞かれました。最近何か辛いことでもあるのか、と。何故分かったのかは分かりません。しかし、あの時の動揺は過去感じたことのないものでした。一旦その時は、何もない、と言って、とりあえず話を終えてもらいました。両親は深追いはしませんでした。しかし、最後に確かにこう言ったのは覚えています。「何かあったらいつでも言って。私たちは味方だから」

私は、気付きました。死がどれだけ恐ろしいものかを。家族がどれだけ私を心配し、愛してくれているかを。私には生きる意味があるということを。
みんなとっくに知っていたことに、私は今更になって気付けました。意外とこんなものか、と書きましたが、その"こんなもの"がどれだけありがたいものなのか。これに関して、白騒放送様には感謝してもし切れません。

さて、前置きが長くなり過ぎてしまいました。ここまで書けば私の考えていることは分かったでしょう。もちろん、こんな要望が余りにも勝手なものであることも、普通通る訳もないということも重々承知しております。ここまでギリギリになってなど、到底許される行為だとは思っていません。恨んでくださっても構いません。しかし私はそれでも、私が死ぬことで傷つきたくないし、誰かを傷つけたくないのです。ですからもし、もし少しでも良いと思われるのなら、

どうか、この企画をやめて頂けないでしょうか。

宇津木塑羅



本当に申し訳ないです……






「梁取さーん?そろそろ収録準備お願いします」
「はーい、今行きまーす」
梁取と呼ばれた男は、億劫そうに立ち上がりながら、右手の手紙をゴミ箱に押し込んだ。


tale-jp チームコン20



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執筆者: Tetsu1
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最終更新: 17 Oct 2020 10:05
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