SCP-2935-JP 「先人へ」

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クレジット

タイトル: SCP-2935-JP - 先人へ
著者: ©︎Tetsu1
作成年: 2020

部屋に、若い男が一人。

微塵も片付いていない机の前で、文字通り頭を抱える。震える手で、スマホを手に取る。恐る恐る、ホーム画面の、その例のアイコンに触れる。

警告:

機密指定

財団データベースへの許可無きアクセスは固く禁止されています
違反者は追跡、特定、拘留されます

相変わらず不安を煽ろうとするこの文字列。だが、それは男の心に僅かな小波を立てる事すら叶わない。

男は、肺の耐えうる限りの息を吸い込み、
「はあ。」
威勢のいい吸い込みからは想像し難い程、ごく小さくため息をつく。

男は、ここに来たは良いものの、そこで自分が何をしたいのか分からなかった。─というより、何もしたくなかった。只管に、あてどなく指を動かす。一気に最下部までスクロールし、また最上部まで戻る。またひとつ、ため息をつく。

ポチッ、ポチッ。無意識の内に、指で画面をタップする。その先は、自分だけに与えられた部屋。

何が目的でそこに着いたのか、男の理解の範疇にはなかった。戸惑う。ただ、意に反して男の指は止まろうとしない。

アイテム番号: SCP-2935-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: [内容]

説明: SCP-2935-JPは東京都のとある開けた丘にある直径5mくらいの入口が円形の洞窟です。SCP-2935-JPの内側の側面は常にうねうねと動いており、周囲の風景と見比べても明らかに異質です。SCP-2935-JPの奥の膜の様な部分は別世界と繋がっています。詳細は探索ログを参照してください。

気が付くと、いつの間にかこんな文言が男の視線上に存在していた。SCP-2935-JP。それがどのようなオブジェクトで、何を伝えたいのか、男にも分からなかった。だが、彼の指は次々と文字を入力していく。何かに操られるような感覚はなかった。少なくとも、自らの意思で動かしている事だけは、何故か理解できた。

2019/06/22、D-1104-JPとD-14134-JPによるSCP-2935-JP内探索が行われました。小型カメラと1週間分の携帯食が支給されました。以下はその探索ログです。

D-1104-JP、D-14134-JP。男は彼らを知っていた。本名、新田にった亮介りょうすけと吉川よしかわ祐一郎ゆういちろう。誕生日、何をしてDクラスになったかまで。だが、何処で彼らを知ったのか、それだけが思い出せなかった。

喉に突っかかるような、あと少しで出そうなのに何故かそれが叶わぬ、気持ち悪い感覚。それが男にはあった。

喉の小骨を取り除きたいのに、指は男を置いていく。男は暫し迷ったが、一先ず指に脳をついて行かせようとする。

新田と吉川は、SCP-2935-JPに入る。膜のような部分に触れた瞬間、視界が歪む。
歪みが収まり、外に出ると、そこでは一面に花が咲き誇っている。二人がなるべく音を立てずに慎重に歩いていると、そこに一人の男性が寝転がっている。二人は躊躇うものの、新田が勇気を出して男性に近づく。しかしよく見ると、男性は息をしておらず、死んでいる事が判明。更に周りを見回すと、蝶や蟻の死骸がある。
新田は、この冒険にワクワクしている旨を吉川に伝える。吉川はそれを主人公みたいだと言って少し笑う。

肝心の探索ログは箇条書きであった。男は別段驚くことはなかった。薄々、自分の中でそれに気付いていたのかもしれない。
男は、一面に花が咲き、皆死んでいるという状況に対し、一つ心当たりがあった。自分は、そこを舞台として何を作りたいのか。その先に何があるのか。

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