Tale下書き - 実力テストに向けて

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 サイト-L7、別名"第7大図書館"は多くの児童や生徒でごった返していた。彼らは皆、隣接するサイト-81██内に存在する教育機関に所属している。今は春休みの真っ最中であるが、彼らには一般人と違って自由はない。皆寮生活を強いられており、付近のアミューズメント施設はもちろん、目と鼻の先にあるコンビニにも行くことすら禁じられている。ほとんどが財団職員間にもうけられた子どもだったり、オブジェクトが引き起こした事件に巻き込まれた、などといった特殊な事情を抱えているために、異常性発現の有無を監視する必要があるからだ。
 だから行先のない彼らは自然とここに集まるのだ。
 
 


 
 
 特に人気な自習室は、筆記具が机を叩く音や紙が擦れる音、小声の会話に支配されていた。

「なあ青木、ここの問題はどう解くんだっけ?」
「ああ、そこはな――」

 窓に面した机で、来年から中学3年生となる2人は1週間後に迫った実力テストに備えて勉強をしていた。

「なるほど、そう解けば良いのか」
「なるほどって……お前これ基礎中の基礎だぞ?」

 茶髪の男子、沼田のあっけらかんとした受け答えに青木がため息を漏らしながら頭を掻く。

「このテストで良い成績残せないと今度こそお前と一緒のクラスになれないぞ? 2年生に上がるときだってギリギリで――」
「あーあー聞こえないー」

 沼田はわざとらしく耳を塞ぎ青木の声を遮った。
 実力テストは中学生以降に行われるものであり、成績によってクラス分けされる。沼田の成績はお世辞にも良いとは言えず、頭に関しては青木とは不釣り合いであった。だがお互い、オブジェクトに両親を殺害されるという同じ境遇を抱えているため小学生の時に意気投合し、大親友と呼べる関係に至った。だから今、同じクラスになるべく勉強をしている訳なのだが、このザマである。
 沼田が持っていたペンを置き、口を開く。

「ところで青木、知ってるか? そのクラス分けの件なんだが」
「おいおい、またそうやって門限まで時間伸ばす気か?」
「なあ頼むよ聞いてくれよ~。お前しかこんなこと話せる人いないんだよ~」
「ダメだ」
「……今晩のアイスお前に半分分けるから」
「……ペン動かしながらなら聞いてやる」

 甘い誘惑に折れた青木の姿を見て、気づかれないように沼田が小さくガッツポーズをした。
 再びペンが動く音が鳴り始める。

「あくまでも噂なんだが、成績や態度が俺とは比べものにならないほどめっちゃ悪い奴らって俺らの知らないクラスに飛ばされるらしいぜ」
「……嘘くせえ噂だな」
「噂は大体嘘くさいもんだろ。でまあ、そこで秘密の……あ、間違えた。消しゴム消しゴム」
「ここだぞ。秘密の、何だって?」
「秘密の何かをやってるってよ」
「何かって何だよ……」
「それをお前に聞こうと思ってさ。で、何だと思う?」
「何か、ねぇ……唐揚げの博士頭が水槽になっちゃった博士の噂があるぐらいだから今更何が出てきたってもう驚かないが……パッと浮かぶやつであり得そうなのは人体実験かな」
「唐突に恐ろしいこと言うなよ。でもお前はそう思っているのか」
「まあな。そういうお前は?」
「俺はな――」
「ン゛ン゛ッ」

 2人の会話は1つの咳払いによって遮られた。咳払いのした方を振り返ると、蛸のぬいぐるみを抱えた童顔の男性が立っていた。

「遠野先生……」
「遠野……さん」

 2人はほぼ同時に呟いていた。
 遠野先生と呼ばれる男性はにっこりしながら話す。

「2人とも、会話が捗るのはとても良いことですがここは図書館です。もう少し声のボリュームを下げてくださいね。あとこれ」

 男性がポケットに入れていた2枚のカードを差し出す。カードには青木と沼田の顔写真が載っていた。

「学生証、落としていましたよ。気をつけて下さいね。このままではテストも落としてしまいますよ」
「すみません……」
「ごめんなさい……」

 2人は学生証を受け取ると机にむき直す。男性は本棚の裏へと姿を消した。

「俺達、学生証鞄に入れていたよな?」
「そのはずだが……ま、ここじゃ何が起きても不思議じゃないからな」

 青木と沼田は怪訝そうな表情を浮かべながら向き合う。

「勉強、真面目にやるか」
 
 


 
 
 寮の門限が過ぎ、図書館に静寂が取り戻される。室内は情報収集をするエージェントや実験過程を確認する研究員や博士が残るのみとなった。
 図書館の隅にある飲食可能スペースに先程の男性、遠野司書がパソコンを片手に向かっていた。

「よう遠野ちゃん、反ミーム頑張ったぜ」

 そこに待っていたのは自身を反ミームと語るカウボーイハットを被った男性、エージェント・井戸田だった。彼には反ミーム性があり、自身から「反ミーム」と言わない限り認識されないという異常性を有している。
 遠野は井戸田に向かって会釈した。

「井戸田さん、先程はご協力ありがとうございました」
「良いって事よ。何せ図書館内の怪しい生徒の監視は反ミームにしか出来ない仕事だからね。なんとか学生証を探し出せて何よりだ。で、遠野ちゃん、さっきの2人はどうするんだい?」
「青木君と沼田君ですか? そうですね……」

 スリープ状態だったパソコンを立ち上げ、教育機関データベースにアクセスする。一瞬で記憶した学籍番号を元に多数の名前が並べられた――何人かは打ち消し線で消去されている名簿をスクロールさせ、青木と沼田の名前を見つけた。

「青木君は成績優秀、沼田君もああ見えて努力家なので2人ともエージェントや研究員には向いているとは思うのですが――」

 遠野は深いため息を吐き、目を閉じる。

「勘付かれてしまった以上、"彼らの噂通り"Dクラス職員養成棟送りですかね」
「そうか……ということはまた反ミームの出番が来るって訳かい?」
「そうですね、よろしくお願いします」

 遠野は「クラスB記憶処理薬」と書かれた箱を井戸田へ渡す。

「ところで遠野ちゃん、予期せぬ形でDクラス送りになっちゃった人員が出ちまったが、毎年恒例のアレはやるのかい?」
「もちろんです。2人だけではまだまだ人手は足りませんし、既に上からの命令も出ています。その時も協力願えますか?」
「当たり前だぜ遠野ちゃん。反ミーム何でもするぜ」
「井戸田さんは頼もしいですね。では早速準備を始めましょう。あと1週間しかありませんから」

 童顔の男はぬいぐるみを撫でながらパソコンを操作し、画面を切り替える。
 画面には100名分のクラスA/クラスB記憶処理薬申請書が表示されていた。

 遠野は井戸田に向き直り、

「いいですか井戸田さん。もうそんなヘマはしないと思いますが9年前みたいにテンション上がって『反ミィィィィーーーーーーーム!』って叫びながらテスト中の彼らに記憶処理薬吹きかけないでくださいよ?」

 と忠告をするのだった。


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