「困ったな……」
「困りましたね……」
私たちはこれまでに無い難題にぶつかっていた。
昨日納入された”食材”は変わった性質を有していたからだ。
「とりあえず、もう一回やってみてくれ」
「分かりました」
調理台の上に横たわる若い男性に出刃包丁を刺す。
ルビーのように紅く美しい血が流れ出る。
しかし――
「……またか」
「ダメですね」
傷は一瞬で修復され、それに伴って血も消失した。
私はため息を漏らす。
「これじゃあ血抜きが出来ませんよ」
「そうだな……」
先輩がキッチンを見渡す。
止めた視線の先には浴槽に似た大きな釜があった。
「まるごとボイルするか」
「え?血抜きしてないのにですか?」
「人肉に通用するかは分からんが、味噌やネギを入れてやれば多少の臭みは消えるはずだ。どれ、手伝え」
釜に水をためながら、数キロもある味噌やネギをキッチンへと運ぶ。
1度に使う量としては今までで一番多いかもしれないと先輩は苦笑いをする。
ネギを切ったり捌くとしたらどの部位にするかを話し合っている内に、水がたまったことを知らせる電子音が鳴った。
「さて、火を付けるか」
先輩が東弊重工製のコンロを付けると水は瞬く間に音を立てる。
構造はよく分からないが、どうやら300Lの水でも10秒以内に沸騰させられるそうだ。
男性を抱えて釜に静かに沈めていく。
口から水が入って内臓が劣化することを防ぐために頭は外に出す。
頃合いを見て味噌とネギを一気に投入する。
味噌に混じって肉の香りが鼻腔をくすぐり始めた頃、男性を釜の外に出した。
今度こそどうか――
「クソ、投入前と何も変わってない!なんなんだこいつは!」
先輩が珍しく大声を上げるのも無理もない。
身体から味噌の匂いはせず、それどころか火傷の跡すら無かったからだ。
釜の中の液体――味噌汁をすすってみるが出汁らしき味も感じられない。
この釜の力を持ってしても男は調理できないのか……。
二人が店を出てから10分後、男性が冷凍庫から這い出る。
「ふう」
男性は少々ストレッチを行い、身体を伸ばした。
あらかじめロッカーの中に仕込んであった服に着替え、携帯端末を取り出す。
「こちらエージェント・永明、”弟の食料品”への潜入に成功しました」
「お疲れ様。どうだった、今日の様子は?」
答えたのは今回の調査班メンバーの一人、萌里 菻だった。
「いやあ、酷いったらありゃしませんよ。今日は包丁で刺されて煮込まれました」
「そうだったんだ。ふふ」
「……なんか楽しそうじゃありません?」
「ん?ああ、調理されるってどんな気分なのかなって考えたら、ちょっとね」
「こっちの身にもなってください……。自分の身体に対して現実改変が使えるからってこの扱いですよ?」
「オブジェクト扱いされるよりはマシだと思うよ?」
「それもそうですけど……」
「それじゃ、頑張ってね。あ、あと簡易レポートの報告も忘れずにね」
萌里はそう言い残し、通話を終えた。
この時、永明は知らなかった。
まだ弟の食料品には73もの”調理法”が残っていることを。
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