再びキミに会うとき、ボクはどんな顔をすれば良いんだろう

アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの発生する地帯の周囲

説明: SCP-XXX-JPは██市の雑居ビルに定期的に出現する計2体の人型実体です。SCP-XXX-JPはそれぞれSCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP-2としてナンバリング指定されており、特徴は以下のような点が挙げられます。

ナンバリング	特徴
SCP-XXX-JP-1	20██年1月4日に死亡した岸田 誠也氏と同一の外見をした人型実体。104日ごとに出現して毎回所定の位置から飛び降り、地上への激突から1分後に消失する。なお岸田氏は同地点から投身自殺を図って死亡した。
SCP-XXX-JP-2	20██年11月20日に死亡した名取 彩華氏と同一の外見をした人型実体。101日ごとに出現して毎回SCP-XXX-JP-1がするのと同じ位置から飛び降り、地上への激突から1分後に消失する。出現から落下まで終始辺りを見回している。なお名取氏は同地点から投身自殺を図って死亡した。

SCP-XXX-JPは出現日時の17時27分になると(場所)の入り口に出現し、5分程度をかけて屋上へと到達します。SCP-XXX-JPは外部からの刺激に反応する様子を見せず、身体への接触は全て透過するため落下を妨害する試みは間接的・直接的アプローチの双方において失敗しています。

補遺1: SCP-XXX-JPの発見後に行われた調査により、岸田氏の自宅と名取氏の自宅からそれぞれ当該人物の日記が発見されました。現在これらの日記はSCP-XXX-JPの異常性が発現するに至る過程を示唆する資料として保管されています。

+ 岸田氏の日記の抜粋を閲覧

日付: 20██　11/10

もうすぐ彩華の誕生日だ。

日付: 20██年　11/20

今日ほど自分はつまらない人間だと思い知らされた日はなかった。
彩華の誕生日を祝うために、2人で買い物に行ってきた。これだけ聞くと偉大なる一歩、初めて地球を眺めたガガーリン、活版印刷を発明したグーテン・ベルクのようだが、実際はそんな華々しいもんじゃない。
言葉が、出てこない。何を聞かれ、何を話しても「ああ」だの「うん」だのとしか答えられず、返答できてもクソつまらない言葉しか出ず、早口になってしまった。決して彩華の話がつまらなかった訳ではない。ちゃんと意味の理解もできた。のに、出てこない。とても「会話」と呼べるものではなかった。辛い。吃音なのか？ どっちにしろ死んでしまえ。
楽しくなかった訳じゃないし、むしろすごく楽しくて、嬉しかった。俺と会うためにキメてきてくれたメイク、昔からずっと大好きな彼女の香り、透き通って心地よいあの声、全てが愛しかった。ずっとウキウキした気分でついて行って、少々恥ずかしがりながら対面してご飯を食べて、ほんの少しの秘密を抱えてアニメショップへ行った。本当に楽しくて、この気持ちに嘘偽りは一切ない。しかし今、その喜びを数段階上回るような自己嫌悪に駆られている。
空っぽ人間、面白み0マン、ユーモアの脱け殻。俺には、何もない。面白い人でいたかった。でも、本当の俺はあまりにも面白くない人間で、絶対に認めたくないこの側面が他人に、しかもよりによって彼女の前で出てしまった。さぞつまらないと思われたことだろう。さぞ一緒にいたくないと思われたことだろう。でも、これは正常な反応で、普通はこうあるべきなんだ。一緒にいて面白い人、つまり自分にとって有益な人物に好意・関心を抱くのが正常であり人間の本能である。その点俺はダメだ。彩華と一緒にいたい、でもいてはいけない。彩華にはもっと俺よりも話が上手くて、料理ができて、字がキレイで、パソコンに強くて、数学ができて、英語ができて、歴史に詳しくて、本が好きで、ネガティブじゃなくて、ムキムキで、服のセンスがよくて、よく気がきいて、チキンじゃなくて、ユーモアがあって、性格が良くて、より生活を豊かにできる人がいるだろう。俺はダメだ。死にたい。彼女はあまりにも素晴らしく、完璧だ。だからこそ、名取彩華という最高の女性の人生に岸田誠也という最低な異物が入り込むことが許せない。許せない。なぜ誘った？ 俺がいないほうが絶対に彼女は幸せじゃないのか？ もし彼女が俺に期待を持ってくれていても、下手に介入して失望させ、幸福の度数を下げてしまうのがオチじゃないのか？ 死にたい。クソ野郎め。
キェルケゴールは、相思相愛の想い人との婚約を深い悲しみを抱きながら破棄したという。本当はどういう理由でそのような行為に及んだのか、本人亡き今知る術はない。けれど、彼の気持ちはとても理解できる。要は今の俺の気分なんだろ？ 俺と彩華は一緒にいてはいけない、そうなんだろ？ 彼女が俺のことをどう思ってるかなんて実のところわからないが、俺が彼女を深く愛して、慕っていることは確かだし、やっぱり俺が身を引くべきなんだ。もう、合うべきじゃない。
ああ、彩華は今日のことをどう胸に抱いて生きていくんだろう。大切な思い出として？ 一切取るに足らず、すぐ忘却するような一日として？ 課題やるべき時間を無駄に過ごした、唾棄すべき一日として？ 俺は…俺は…やっぱり忘れたくない。少しでも彼女の影を、残滓を、記憶を残したい。もう関わってはいけないんだ。これくらい許してくれ。…そう、ダメか。そうか。
わがままなことに、ここまで言っておいて俺は彩華に忘れられたくないと思っている。消えてくれ。彼女の人生に俺は関わるべきじゃなかったし、これからも触れてはいけない。でも、覚えておいてほしいんだ…俺という虫ケラ以下のゴミクズがいたという証を。彼女と選んだ(と言っても俺は見てただけだが)あのコート、俺が渡したあの本、最後に一緒に飲んだコーヒーよ。どうか、俺と彩華をつなぐ鎹になってくれ。デートのようでデートでない今日よ、俺を一生呪い続けるいい。この惨めな気持ちを思い出させ、俺を彩華に近付けさせないでくれ。そして彩華よ、幸せでいてくれ。それが俺の一番の幸福なのだから。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　最愛の人よ、さようなら。

+ 名取氏の日記の抜粋を閲覧

日付: 20██年　11/20
誠也が誕生日プレゼントを買ってくれるって言うから、今日は一緒に買い物に行ってきた。結局当日まで欲しいものは決まり切らなかったんだけど、誠也が日記を書いてるって話をしてたから私もやってみようってことでこの日記帳を買ってもらった。もっと高いものじゃなくていいのかって聞かれちゃったけど、やっぱりまだ学生な訳だしお金を使わせちゃ申し訳ないし、何より誠也と趣味の共有ができるならちょうど良い機会だしね。
それにしても、シャイな誠也から買い物に誘ってくるなんて珍しいなぁ。体調も悪そうだったし。そもそも外出を好むそうなやつじゃないのに、一体どうしちゃったんだろ。
まぁいっか、楽しかったし。女性は苦手なはずなのに頑張って話そうとする健気なところとか、今日みたいな大胆でちょっと心の読めないとことか、やっぱ好きだなぁ。…なんちゃって。

日付:20██年　11/20
これであのとき買った日記帳の、最後のページだ。

天国か、地獄か、それとも煉獄か。一体どこになるか分からないけど…
また会えたら、ビンタとキスをしてやる。

メモ
男性と女性の人型実体(霊？)が別々の周期で定期的に飛び降り自殺。
半自伝
男の日記と女の日記形式（日付もちゃんと書く！）
男→好きであるが故に死ぬ
女→後を追う
周期が重なり、一緒に飛び降りる日の予測。

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