探査記録XXXX-JP - 20██/06/04
対象: D-4593(元海上自衛隊。強盗殺人により死刑判決。)
目的: SCP-XXXX-JP-1内部の調査
付記: D-4593は標準的な録音録画装置を装備、食料を所持している。映像は██博士により監視されていた。不必要な部分は省略している。
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D-4593の手により録画装置が起動され、映像に多数のSCP-XXXX-JP-2実体が確認される。
D-4593: クソ、出るところが悪くていきなり流れに捕まっちまった。博士、聞こえてるか。
██博士: 聞こえています。あらかじめ指定しておいた動作をしてください。
1分後、D-4593がカメラの前で中指を立てる。
D-4593: クソッ、何も聞こえないぞ。見えてるか知らないが、とりあえずこの流れに沿って進む。
10秒後、映像が断絶し、D-4593が報告する。
D-4593: おっと……カメラが壊れた。モニターが反応しないし何も映らない。原因は分からない。
D-4593は1時間ほどSCP-XXXX-JP-1を進む。
D-4593: ここを進んで1時間ほど経ったが、石畳の舗装された道と、寺にある灯籠みたいなのがずっと並んでる。それだけ見れば、まるで神社の参詣道だ。露店が並んで、馬鹿騒ぎしてる奴らばかりだ……先の方は赤い霧がかかって何も見えないし、晴れるような気配もない。試しに転がってた小石を右手の方向に投げてみたが、水音はおろか地面に着く音すらしなかった。
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D-4593: ここに来てから今までずっと歩いて、馬鹿騒ぎにも付き合っているが、一向に疲れを感じない。というより、どうもここは歩くのも騒ぐのもやめさせてくれないらしい、止まろうとしても止まらない。ほかの人間も、犬やら猫やらもノンストップで歩いている。それと、歩いてたらすぐ目の前に下っ腹が異様に膨らんでるハゲが虚空から出てきた。正直驚いたが、あんたらの飼ってる奴らだと思えば案外いけた。昔の絵に出てきそうな奴で、りんご飴食って口から火を吹いてた。マジシャンには見えないが……また報告する。
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D-4593: 3日目、とりあえずここでは腹は減らないらしく、食欲が微塵も湧かない。一応の分量を残して食糧を放棄した。露店では色々と食いもんやら、面やら、地域の祭りみたいなもんが並んでる。一応焼きそばを貰って食べてみたが、体に異常はない。露店のくせにタダってのは驚いたな。時々、クソみたいに大きい鬼みたいな形をした真っ黒な奴が道の横で突っ立ってる。そうだ、行列にはアライグマもいたぜ。一応、犬猫以外からは一定の間隔を開けてるが、襲ってくる様子はないし、酔っ払ってるみたいに四本脚で千鳥足だ。みんな踏まないようにしている。あと、ついさっき気付いたが……霧の中に時々、何かの目があるような気がする。俺を見てるのか?
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D-4593: 6日目だ。血の色をした川を、京都の観光地にでもありそうな橋でもって渡った。船に乗っていたり、競争だって言いながら泳いで渡ってる奴もいた。口や鼻いっぱいに血の匂いが残っている。多分あれは本物の血だ。渡ってる間、時々子供の泣き叫ぶような声が聞こえたが、どこからかは定かじゃなかった。渡った先、対岸に爺と婆がいて服を何から何まで交換させられたが、録音録画装置とペンは口の中に入れて隠し通せた。アライグマは生きたままで毛皮を鉈か何かで剥ぎ取られていた。奴ら、持ってった服はや毛皮は何やら巨大な木の枝に引っ掛けていた。他にも、皮を剥がれた馬や犬やがワンサカ、何事もなかったように歩いている。もう訳が分からねえ。今は裸足のうえに白い和服を着て騒いでいる。幽霊になるには三角の布が足りねえがな。あと露店の野郎は目が死んでるが、愛想はいい。
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D-4593: 8日目だ。昨日、見覚えのある裁判所がいきなり道の上に現れた。あまりに突然だったんで地面から生えてきたのかと思った。中を見て分かったが、俺が死刑判決を受けた時と全く同じ造りをしていた。黒い影が検察の場所に立っていて、裁判官は無表情な仏像みたいだった。傍聴席もあったが、誰も見に来てる奴はいなかった。そこで俺は裁判を受けた。罪は殺人だと。そんなもん数年前に裁かれた、今更何を裁こうってんだか分からない。ただ、判決文は有罪と言われただけで具体的な刑罰は言われなかったし、拘束される事もなかったし、気付いたら裁判所や仏像、影は消えていて俺は元の明るい参道で同じように毛皮のないアライグマの後ろを歩いていた。夢か幻か、まったく分からねえが、とりあえず焼きそばを貰って食べた。ただ一つだけ気になったことがある。あの裁判は俺が受けた裁判と何かが違った。具体的には思い出せないんだが、確かに、どこかに違和感があったんだ。影とかそんなもんじゃなく、もっと根本的な何かがあったはずなんだが、思い出せない。クソ、馬鹿騒ぎに邪魔される。
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D-4593: 11日目だ。馬鹿騒ぎに疲れたってんで……精神的にやられたって話な。それで、ようやく落ち着いた話ができる相手を見つけた。大体80位の爺さんだが、話す内容はここに来てから体が軽いだの、最後は苦しかったとかなんとか。この爺さんは自分が死んだと思ってるらしい。間違っていると信じたい。まあ俺は死刑囚なわけだが。相変わらずの喧騒とデブと石畳、夜は来ない。白夜のナイトフィーバーってか。
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D-4593: 昨日は7日目と同じような裁判所だった。変わったことといえば、裁判官の仏像が別のものになってたことと、罪状が強盗になったことぐらいだ。それ以外は変わらず、気が付いたら裁判所は消えていたし、相変わらずグロいアライグマも見飽きた。遠くを覆う赤い霧が少し黒くなった気もする。ちなみにここのたませんは最高だ。クソうめぇ。
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D-4593: ようやくまともな人間2人目と話ができた。50くらいのおっさんで、そのおっさんの話によると、どうやらここには俺がいた所とは別に道の始まりがあっておっさんはそこからずっと歩いているそうだ。そこには本当の意味で、この道だけしかなかったらしい。暗いのか明るいのか、奈落なのか壁なのか、それすら分からなかったらしいし、そんなものじゃないとまで言っていた。どこまで信用するかは知らないが、とにかくそんなものだ。相変わらず俺はそんな道を歩いている。
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D-4593: また昨日も裁判を受けたんだが、今度は不貞が云々だと。しかも俺が知ってる法廷と違って、急に家庭裁判所みたいな場所だったから少し拍子抜けした。お察しの通り有罪だとよ。浮気なんてしたことなかったんだがな。ただ、これまでと違って、あの裁判所が消えてから体が重い。倦怠感とは違うが、背中に重しを乗せられたみたいだ。何だってんだ。
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d-4593:
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パニック状態のD-4593が報告を開始する。
D-4593: おい、どうなってんだこれ!おい!クソ、ああこの[編集済み]、このままだと……ああ……すまん、見えないし口出せないんだったな。ああ、前回の報告の後に俺の脚が透明になって、ああいや、俺だけじゃなくてアライグマもだが、脚、脚の……4足なら後脚か?が透明になって石畳の踏んでいる場所がはっきり見えている。そのくせして俺の足の感覚は変わらずに歩き続けてる。何が起きているのか分からねぇ。クソ、相変わらず360度同じ景色に同じ色の空。そろそろ騒ぎ声にも頭が痛くなってきた。周りの奴もそんな感じで、時々苦悶の表情が見えるが騒ぐのはやめない。頼むから静かにしてくれ。
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D-4593: そろそろ限界かも知れない。初めて認識テストでミスが出たし、足はもう太ももから無くなった。クソ、俺も狂い始めてるってのか。ここは相変わらず何もかも血の色だ、空も道も暖簾まで、何もかも全部。ああ、うるさい黙ってろ。ベビーカステラを腹に入れて脳を落ち着かせる。落ち着かないが。
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D-4593: ハハ、足じゃ足らねえってのか。
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d-4593: あれから周期的に体の所々が透明になっていくし、その時の感覚も感じられるようになってきた。俺はそれが、誰かに腕や内臓を引っ張られ、捥がれ、奪われているのだと直感した。実際どうなのか、俺は四肢欠損も内臓喪失もしたことがないから実際は分からない。幸福だったな、俺は。
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D-4593: もう俺にあるのは鎖骨から上だけだ。昨日、また裁判を受けた。もはや影さえいなくなった法廷でだ。裁判官の顔も、これまでと違って妙に赤かった。俺は途中で奴の話を聞くのをやめて、この誰かが俺の体を奪っていくような感覚の正体を探っていた。結局のところ、全く分かりゃしなかったが。俺の心の救いだった露店が無くなってしまって少し荒んでいる。それでも奴らは騒ぐのをやめない。踊りながら、歌いながら、喧嘩しながら、それでも一方向に歩いている。俺もだ。
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D-4593: 馬鹿どもの騒ぎ声の中に、聞き覚えのある声が混ざっているような気がする。
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D-4593: ああ、昨日から聞こえる声の正体がはっきり分かった気がする。俺が憎いか?殺したいか?奪いたいならさっさとやれよ。なぁ、早くしてくれ。
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D-4593: 昨日の裁判所を出てから辺りが暗い。真っ黒だ。足元以外何も見えねえ、頭の中であいつの声がループしてる。お前なんだろ?なぁ早く終われ、終われ、終われ。終わらせてくれよ。こんな体じゃ耳も塞げねぇんだ。
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D-4593: 死ぬ、殺した、殺される。殺せ。
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D-4593: おちる。
D-4593は落下したと思われる。3秒後、録画装置が蘇生し、SCP-XXXX-JPとは異なる空間とSCP-XXXX-JPに酷似した建造物、四肢が存在するD-4593が撮影される。数秒おきに建造物から人型のSCP-XXXX-JP-2実体が出現する。
D-4593: まだ続くのかよ。
映像が切断される。数秒後、音声が切断される。
終了報告: この後1か月に及び反応がなかったことにより、7/23をもってD-4593は失われたと判断されました。また、SCP-XXXX-JPへの機動部隊の配属が申請されました。差し当たり明確な危険性が存在しないことから申請は却下されました。
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ルーキーコン参加作です。よろしくお願いします。
黒塗りの前に空白があります。それを消すと太文字になるはずです。
何故壊れたと分かったのでしょうか?
私は元自衛官ではないので詳しくはわかりませんが、海自での数字の読み方はヒトゴー、ナナのように言うのではないでしょうか。
最後のここは説明にそのままくっつけてもいいかと。
ありがとうございます。
修正しました。
デジカメではないですが、撮影者が撮影している映像を覗くことができることを想定していました。文章を変更しようと思います。
日常会話においても海自の読み方をするのか?と考えました。ここは変更するかも知れません。
仰る通りです。変更しました。
読みました。
異常空間、探索記録物ですね、楽しく読ませて頂きました。
これらは探索記録がメインになる為、異常空間の独創性、ユニークさが無ければ記録も得てして同じようなものになってしまいます。記録のリアリティは良いと思いますが、一本道のゆるく続く地獄、という空間はあまり面白いものではありませんでした。もう少し独創性のある異常空間と、その中での異常な挙動やコミュニケーションを考えてみると良いと思います。
・独創性が乏しいと感じた理由
地獄、死んだ後をテーマにした探索記録系のオブジェクトが既に存在している。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-513-jp
一本道と似たシチュエーションの探索記録系オブジェクトが既に存在している。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1777-jp
入ると戻れない一本道の空間という探索記録系オブジェクトが既に存在している。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1562
上記読んでいただければと思います。これらは成功した探索記録系オブジェクトですが、どれもが
「音声記録の中の緊迫感」
「独創的な空間と記録による描写」
がなされていると思います。
文体やフォーマット、話の筋書き等にもリアリティがあり、まとまった記事としてはとても良かったので、どのように地獄を面白く独創的に記録で描写するか、を突き詰めてみると良いかもしれません。
ありがとうございます。
仰る通りです。改稿での参考にさせていただきます。
具体的にありがとうございます。今回のモチーフは六道における地獄への転生前にあたる十王裁判だったのですが、改めて読み返すとその要素が途切れ途切れであったり、隠れてしまっているように自分でも感じました。改稿で善処いたします。
挙げていただいた記事との差別化はこれらで計ろうと思います。重ねて感謝いたします。
十王裁判はあまり解らず、要素をくみ取った批評とはなっておりませんでした、申し訳ありません。
実際に知られているものに当てはめたSCPの面白さ、とは、
ヒントから何を意味しているか読み取る面白さ
自分の知っている「アレ」がこのようにSCPの文体で再現されている面白さ
となります。turezureさんが目指されているのはそちら方向かとは思いますが、別案として
「地獄は実は思っていたのとは全然違った」という方向の面白さも表現可能かと思います。
この場合の面白さは
ユニークな世界観を親しみやすい音声記録という口語体で見せられる面白さ
自分の知っている「アレ」が全く別の形になっている予想外の面白さ
等があります。
どちらを狙うかによって、ヒントの出し方や表現の仕方が変わるので、ご参考まで。完全再現するだけだと、よっぽど「アレか!」ってならない限りはあまり大きな面白さに繋がらない場合があるので、どこかに独創性が欲しいですね。