耶悉茗茶
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六月の、三日程雨が降ることのなかつた或る日、支那で働いて居る旧友から耶悉茗茶の茶葉が送られてきました。木箱一杯に詰まつていたそれは、開けた瞬間に甘い香りを辺りに漂わせました。
その日の夜に、それを淹れ、妻と楽しみました。妻は茶器が好きですから、この山吹にはこの器が、いやあの器が、と楽しそうに飲んでおりました。私のほうは、もちろん料理人ですから、何の料理と合ふのだろうかと考えておりました。
しかし、どうしたことでせうか、不思議なことに、この支那からの茶に合ふ料理が中々思ひつかないのです。
魚より肉のほうが合ふ。そこまでは浮かびます。しかしそれが何の肉なのか。牛や鳥なぞは合はないでせう。となると紅葉か、桜か。どれもしつくりと合ふ感覚が無いのです。合ふことは合ふとは思ふのですが、すとんと納得できる味にはならないのです。
ウンウン考えながら数日が経ちました。梅雨が開けたくらいの暑い日のことです。夜、或る方々へ料理をお出ししてゐるときに思ひつきました。
或る方々と云ふのは、定期的に私の店で夜に集まり、特別な食材の料理を作り、楽しむ、美食家の方々です。私は恩師から紹介され、彼の後継として彼らに料理を振る舞つておりました。もう三十年程前のことになります。私も師のように後継を彼らに紹介し、それから関わりは無くなつております。
彼らが持つてくる特別な食材と云ふのは、珍しい"肉"です。余りに珍しいため、何の肉かは云へないのですが、私たちは其の"肉"を、ある果実の名で読んでおりました。其の"肉"が丁度、ぴつたりとあの耶悉茗茶に合うと思ひました。
其の肉は、果実の様な酸味、甘みがあります。玉露も甘みがある茶であり、其れを合はせておりましたが、耶悉茗茶のあの独特の甘み、香りこそ其の"肉"と見事に調和すると思ひました。
まだ茶葉は沢山残ってゐました。私は急遽、料理と一緒にお出しする茶を玉露から其の耶悉茗茶に変へました。透明な硝子でできた急須へ耶悉茗茶を淹れます。鮮やかな山吹色が硝子を透け、きらきらと輝いておりました。
何時もは玉露をお出ししておりますから、皆さんは驚いた様子でしたが、其の甘み、香りを大変気に入つてくださいました。
その日にお出ししたのは、其の"肉"を使つた肉寿司でした。下処理の際に、少し耶悉茗茶を使ひ、全体の食事に統一感を出しました。汁にはさつぱりとした豆腐のすまし汁を。副菜もいくつかお出ししました。
皆さんは、大変な食通であられたので、毎度料理をお出しするときにはとても緊張しておりましたが、その日は不思議と自信がありました。
その自信は正しかつた様で、皆さんもとても美味しいと云つてくださいました。今までの中で一番満足しておられるやうでした。
其の"肉"を食べる集まりの中で私は耶悉茗茶をお出しするようになり、やがて他の肉との合ふ料理法も見つけ、店のほうでも耶悉茗茶をお出しするやうになりました。
こういつた訳で、私の店は、お客様に支那のお茶を楽しんで頂いております。
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ジャンル
アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:5248731 (28 Aug 2019 13:38)
耶悉茗茶とはジャスミンティーのこと。
昭和中後期、石榴倶楽部の元料理人が書く随筆をイメージしてみました。
なぜ仮に蜜柑と呼ぶのか、不可解でした。話を無駄に複雑化させるような気がします。
おそらく話の本題と成り得る「なぜ耶悉茗茶が人肉に合うのか」がすっぽりと抜けているため、雰囲気だけ書かれていて無味乾燥な印象です。料理人の感性に従うのであればその感性が示すところを示さなくてはいけないと思います。
神話や料理人個人の過去など由来とするところは何でもいいですが、上の理由を説明する際にはそれなりのロジックを組む必要があり、そのロジックの魅力次第でこのTaleの評価は決まると思います。
批評ありがとうございます。"蜜柑"を其の"肉"に変え、また加筆修正を加えてみました。