暗殺者の矜恃

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スシブレードで人の頭部を貫通することによって、一切の物的証拠を残さず殺人を遂行する、スシ・アサシンと呼ばれるスシブレーダーがいた。そのうちの1人であるスシブレーダー・中村は、料理人としての矜恃さえも失った企業系闇寿司一派「暗寿司くらずし」のリーダーであるミスター・ライスフィールドの暗殺を依頼されたのだった。


「依頼はこれだけか?」

中村は尋ねた。

「ああ。この写真の男、ミスター・ライスフィールドをスシブレードによって殺してくれ。悪事を働いている証拠は掴んでいるが、アイツは国の法では裁けない。スシの世界に踏み込んだんだ、スシで殺されるのは当然だ。法で裁けないスシブレーダーを殺すのがスシ・アサシンの本分だろ?報酬は成功が確認され次第振り込んでおく。」

「決まりだな。じゃあ早速仕事に取り掛かる。これでな。」

中村は依頼主と別れ、仕事に取り掛かることにした。写真の男の特徴は痩せ型のメガネをかけた中年男性。何より、渡された後頭部の写真に写る右耳の裏のホクロで一目瞭然だろう。

必要な情報は一通り揃っている。翌日の22時30分、対象が店から出るのを見計らって尾行を決行、隙があれば対象を殺そう。中村はそんなことを考え、家路に着いた。

日付が変わり、予定時刻の22時30分。中村は対象が出てくるのを待つ。25分後、対象が出てきた。尾行開始だ。中村は自らの気配を消して尾行し続け、暫く歩くと、人気の全くない小さな路地にたどり着いた。殺すなら今だ。有村は自らのスシブレードであるイカスミ・オブ・サイレント・マーダーを構えた。こいつの射程は30メートルであり、まだ安定して当てるにはちょいと距離が遠い。中村は対象へと少しずつ近づいていく。対象への接近に成功する。その辺のスシブレーダーが言う「へい、らっしゃい!」は暗殺の時は言わない。中村は対象の後頭部に向けてスシブレードをシュートした。迷いなきスシが頭部を貫く。対象は血を流して倒れる。動く気配は微塵もない。成功を確認したので、中村はスシブレードをスシ・グラビティ・パワー1で引き寄せ、チャック付きのポケットに入れ、何事も無かったかのようにその場から去った。

3日後、依頼主からの電話が中村のもとに掛かってきた。

「もしもし。」

「ミスター・ライスフィールド暗殺の件だが…。」

「ああ。」

「お前が殺したヤツは、影武者であることが判明した。」

「何?どういう事だ?」

依頼主は驚きをよそに続ける。

「アイツの身元を調べたところ、アイツはミスター・ライスフィールドが闇洗脳を施した、ただの闇スシブレーダーであることが判明した。」

「…この件はどうなる?」

「こちらと敵対しているスシブレーダーだ。殺してくれたことには感謝しているが、この件に関しての報酬はナシだ。」

「…すまなかった。」

「ただ…あの一切の証拠を残さない殺人は見事だったし、俺が目星つけてた奴はしっかり殺してくれた。改めて依頼をさせてもらう。」

「いいのか?」

「ああ。あの一件で俺はあんたを十分に信用できると判断した。あの環境では、影武者を見抜けないとしても致し方なかったからな。」

「あの環境、というのは?」

「ああ。ミスター・ライスフィールドが日本生類創研という機関にクローンを作らせた記録が昨日サルベージできたんだ、恐らくそいつを使ったんだろう。もう少し早く手に入れられたら良かったんだがな。自らの記憶と人格を闇寿司の洗脳技術によってコピーするのも容易いだろうからな。」

「恐らく、そいつらは複数いるだろうな。」

「ああ。という訳で、改めて依頼したいのは、本物のミスター・ライスフィールドの殺害だ。そのために、お前さんには今週土曜日にこちらが指揮する作戦に参加して貰いたい。」

「…作戦の詳細は?」

「ざっくりと言えば、こちら側のスシブレーダーがクローンのミスター・ライスフィールドを引き付けている間に、お前さんが本物の方を殺すんだ。常識ではあるが、闇洗脳はオリジナルが居なくなれば効力を失うからな。ああ、後処理については心配しなくていい。作戦終了後、あのクソッタレ共の死体はこちらで処理する。」

「心得た。」

「一応、もっと詳しいことに関しては文書を部下に送らせておく。明日にはお前さんとこに来るだろう。幸運を祈る。」

電話が切れた。

翌日、中村は送られてきた資料と詳細に目を通し、スシブレードの準備をした。あそこでは何が起きてもおかしくない。暗殺用ではないが、スシブレードとして戦えるイカのスシブレード、インクフィッシュ・オブ・ホワイト・エグゼキューターを用意し、戦いに備えた。入念な準備は暗殺者の基本だ。

戦いの日、中村が到着する頃の暗寿司本部ではもう光のスシブレーダー共とクローン・ライスフィールド共がドンパチやっていた。自分が潜入したという確認は作戦がバレるという理由でされなかった。何はともあれ、いつも通りやれば良いだけだ。

潜入後、中村はクローン・ライスフィールド2人を視界に映した。勘づかれたら援軍だの何だのでマズいので1人ずつ処理していくことにした。最初の1人は後頭部を貫通するいつも通りの方法で、次の1人は頭が狙いづらい関係上、スシを股間にシュートすることによる金的で処理した。

2人を淡々と処理し、進んでいくと大きな扉があった。恐らく、ここにオリジナルが居る。暗殺は通用しないだろう。スシをエグゼキューターに持ち替え、突入する。

「随分と物騒な客も居たもんだ。」

扉を開けた先に居た人物が中村に向かって呟く。

「あんたが、オリジナルのミスター・ライスフィールドか?」

「如何にも。」

ライスフィールドは続ける。

「さて、俺様を始末しに来たんだろう?逆も然りだ。俺様もお前を始末出来るのを楽しみにしてたんだよ。俺様のクローン3人、始末したのはお前だな?」

「さあな。それを知ったところで、お前はここで死ぬ。依頼をこなさねばならないのでな。」

「あくまでしらを切るつもりか。まあいい、お前もここで死ぬのだからな!」

この言葉を言い終えた瞬間、突入したドアが突如として閉まった。

「逃がさないというわけか。」

「さあ始めようか。俺様と、お前の、命を賭けた戦いをなぁ!いくぞ!」

「3!」

「2!」

「1!」

「へい、らっしゃい!!」

2つのスシは勢いよく回り出した。中村のスシはイカに対し、ライスフィールドのスシは闇寿司の重鎮のみ扱えるスシネタであるカツ丼、それも全てが金色であった。

「フッハハハハ!!これが圧倒的強者の轟音!俺様が儲けることと強さのみを考え編み出した、俺様のカネと権力の結晶だ!」

「汚らしいスシだな。早々お目にかかれない。」

「なんとでも言うがいい!」

中村のスシがカツ丼の金色の衝撃波で2メートルほど吹き飛ぶ。

「まだだ!喰らいつけ!」

中村のスシは体勢を立て直し、丼の底面の出っ張りを狙い撃つ。カツ丼の回転の軸となる部分だ。

「命中だ!離れろ!エグゼキューター!」

「ほう…この急所を確実に狙うスタイル…やはりただのスシ・アサシンではないな?」

「どうだかな。」

ライスフィールドは多少の怒りを露わにする。

「折角のやり取りだってのに、つまらねえなぁ!俺はそういう素っ気ねぇヤツが大嫌いなんだよ!やれぇカツ丼!カツをそいつらにぶち込んでやれ!」

カツ丼からカツが中村とエグゼキューターに向かってミサイルのように勢いよく発射される。当然、まともに喰らったらひとたまりもないだろう。

「避けろ!」

「オラオラァ!まだまだあるぜぇ!」

中村とエグゼキューターは身を躱してどうにか避ける。ダイレクトアタックは闇寿司の基本中の基本である。

「クソ!奥の手だ!俺の目的はあくまでお前の首を取ることだからな!行け!サイレント・マーダー!ライスフィールドの背後を取れ!」

「そんな小細工など効かぬわぁ!まだまだお楽しみはこれからなんだからよぉ!!起爆しろ!」

ライスフィールドが指示をしたその時。カツ丼が撃ったカツが爆発し、金粉がフィールドが覆われる程に撒き散らされる。それが中村の視界へと急速にスーッと吸い込まれる。

「どうだぁ!嬉しいだろぉ!金色の世界だぞ!」

「クソッ!何も見えない…!狙いも定まらない…!」

中村の動揺を察知し、カツ丼は無慈悲なラッシュを仕掛けていく。

「オラァ!オラァ!死ねぇ!!」

エグゼキューターの回転がカツ丼の怒涛のラッシュにより今にも回転が止まりそうなほどに弱まっていく。いつ回転が止まってもおかしくない状況だ。

「クソッ…!だがまだだ!まだ俺の魂までは金色に染まってはいない!」

この瞬間であった!中村の視界が、エグゼキューターの視界と魂のリンクで繋がったのだ!エグゼキューターが中村の魂の炎とも言える純白の炎を上げて燃え盛り、回転力を取り戻す!

「生憎、俺達スシ・アサシンの信条はただ一つ。『依頼完遂』なんでな。俺とスシの魂に刻まれたプライドは守らなくちゃいけない。飛べ!エグゼキューター!奴を中身から喰い破れ!!」

「フン!火事場の馬鹿力など効かぬわ!迎え撃て!カツ丼!」

両者の純白と金色のオーラがぶつかり合っていたその時であった!カツ丼の米は熱により黒くなり始め、徐々に燃えカスとなりかけていた!中村のエグゼキューターは白炎を纏う一筋の刃と化す!

「なっ…!?」

「やれ!エグゼキューター!その白刃で金色の闇さえも焼き斬れ!!ホワイト・エグゼキューション!!!」

「何だとぉ!!この俺様が、負けると言うのかぁ!!」

ミスター・ライスフィールドのカツ丼は丼ごと粉々に割れ、砕け散る。辺りには光の反射で白く見える金粉が桜吹雪のように舞い落ちている。

「クッ…テメェこの野郎…!」

ライスフィールドをよそに中村は会話を続ける。

「さあ、俺が勝ったんだ。後頭部を俺に向けろ。」

「クソ!応援を今すぐ呼ぶぞ!俺様はまだ生きなければならねぇんだよ!そうだ!依頼してやるよ!俺様を殺す指示をした奴を殺してくれ!」

そんなことに興味はないと言うかのように中村は暗殺用のスシを構える。

「黙れ。死人に口なしだ。」

中村はサイレント・マーダーをライスフィールドの頭にシュートし、すました顔でその場を立ち去った。


電話が鳴っている。恐らく依頼主からだ。

「もしもし。」

「改めて、良い仕事だった。お前さんには礼を言う。」

「報酬は振り込んだか?」

「ああ、勿論。」

「そうか。」

中村は電話を切り、いつも通り次の依頼へと手を付けるのだった。


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