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入社2ヶ月の木曾研究員は、今まで経験したことのない腹痛と悪寒に襲われていた。腸全体が内側から海栗で刺されているような痛みに襲われ、体温計は38.5度を示し、1分以上立っていられない程であった。
木曾研究員は、3日前にウィルス型アノマリー研究施設での研修を終えていたことを思い出した。嫌な予感がする。衛生管理には細心の注意を払っていたはずだが、もしもの事を考えると冷や汗が止まらず、すぐに医務室へ向かった。最初こそ至って普通の問診を受けたが、研修のことを伝えると、途端に緊張感が走った。
「SCP-███-JP収容違反の可能性あり。職員は直ちに最高レベルの防疫体制を整えよ」
サイト-8139は一瞬で厳戒態勢に移った。医師は患者そっちのけで防護服を着用し、サイト全体に大量の殺菌剤が撒かれた。木曾研究員はサイト-81██の医療施設に搬送され、隔離病棟へ入れられることとなった。
SCP-███-JP。致死性のウィルス型オブジェクトだということは、入社して間もない木曾研究員も知っていた。まさか、こんなにも早くオブジェクトに暴露してしまうとは……。しかし、これが財団で働くということ、つまり、死と常に隣り合わせであると改めて実感した瞬間でもあった。もっとも、実感した時には既に手遅れだったが。
入院した夜。激しい腹痛の中、木曾研究員は走馬灯を見ていた。厳しい受験戦争を勝ち抜き、難関大学に合格したあの日。サークルもバイトも行わず、ただひたすら勉強に打ち込んだ日々。なかなか研究成果が出ず、深夜の実験室で頭を抱えていたあの日。ようやくポスドクの座につくも、事故で全てを台無しにしてしまったあの日。
───思い返せば、本当にろくなことがない人生だった。もしかしたら、これはあまりにも体たらくな自分に神が与えた罰なのかもしれない。しかし、路頭に迷っていた自分を拾ってくれた財団に、何も恩返しができないまま死んで行く自分があまりにも情けなく思え、涙が止まらない。出来ることなら、最後に親へ感謝を伝えてから旅立ちたかった───
入院2日目。目覚めた木曾研究員は、自分がまだ生きていたことに安堵と困惑を感じていた。どうやら昨日の検査結果が出たらしい。
「木曾研究員、O157でした」
その言葉を聞いた瞬間、木曾研究員はベッドに倒れ込み、大きくため息をついた。客観的には全く油断できない状況だが、そんなことはどうでもよかった。ただ、一命を取り留めたという事実が、彼には神様が自分の罪を赦してくれた、自分はまだ生きてて良い存在だと教えてくれたように感じ、また涙が溢れてきてしまった。そして、二度と訪れない自分の生を全力で燃やそうと、気持ちを新たにしたのだった。
退院からしばらくの間、木曾研究員が「たかがO157でとんでもない騒ぎを起こした男」として同僚から白い目で見られたのは、また別の話。
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ジャンル
アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:5103066 (15 May 2019 12:45)
1200字掌編企画2019参加予定記事です。恐らくA部門になると思われます。
>厳戒態勢の中、木曾研究員はサイト-81██の医療施設に搬送され、隔離病棟に入れられることとなった。木曾研究員はあまりの急展開に困惑を抑えられなかった。
3日前にウィルス型アノマリー研究施設での研修を終えていたことを思い出した。とあれば、当然のような気がします
コメントありがとうございます。
ごもっともです。ただ、ここは新人研究員ならではの困惑を表したかったので、ここではなく少し前後の表現を変えることにします。
大幅な改稿を行い、それに伴ってタイトルを「消化不良」に変更しました。