H.E.R.O現在編(81BB後)
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チャイムが鳴った。

小熊月子は書類から顔を上げた。アポイントは入っていないはずだった。彼女の職場は飛び入りの仕事が多いものの、そういった案件のほとんどは急を要するがために、上長である彼女の携帯端末に直接コールが入る。彼女のオフィスを直接尋ねる人間は少なく、そして大抵の場合、密室でなければ話せないたぐいの面倒事を持ち込んでくる。

「入ってください」

新たな予算編成指針を今週中に纏めるようにとの指示があり、彼女は忙しかった。ただでさえ彼女の部署にデスクワーカーは足りていない。だから小熊はカメラの映像を確認することなく訪問者を部屋に招き入れた — そしてすぐにそのことを後悔した。

「事前に言伝もなく、一体何の用ですか? 調停官」
「そんな風に睨まれるようなことをした覚えはありませんが……」

訪問者、ジョシュア・アイランズは肩を竦め、脇に抱えたグレーの書類綴をこれ見よがしに掲げた。小熊の額に一筋の皺が寄った。いくつかの理由から、彼女が個人的にこの男を嫌っていることはよく知られていたが、当人は素知らぬふりを決め込み、事務連絡という名目で幾度となく彼女のオフィスに顔を出していた。

「メールで済む連絡事項ならお帰りくださって結構です。私には仕事がありますので」
「私も仕事ですよ。81BBの一件の事後評価です」
「なぜ貴方がこれを?」
「担当でしたから」

渡された書類綴の中には、見覚えのある面々のプロファイルと大量の資料が収まっていた。眉をひそめ、小熊は部下たちの更新された心理評価と財団製超常兵器の起動プロセスへの審査記録を一瞥した。多くの書類は倫理委員会のものだ。いくつかは渉外部門、機動部隊司令部、医療部門、工学技術部門の印章が入り、審査済みの判が押されていた。

「今回は随分危ない橋を渡ったようですね」

アイランズの言葉に込められた等量の感心と非難を、小熊は無表情に受け流した。工学技術部門のリバースエンジニアリング研究に倫理委員会が口を出したのは、人体への作用が未知数のアノマリーを用いる以上は当然の帰結だ。しかしサイトが襲撃に遭い、小熊の部下が現場の判断で超常兵器を監督権限によって起動したために、事態は指揮官である小熊の頭上を飛び越えて、今や会議室における工学技術部門と倫理委員会の一大抗争に発展していた。

「スーツの使用は許可が下りていた。そういうことになりました。問題が?」
「いいえ、着地点としては最良です。亦好の調整手腕は実に見事でした、文句のつけようがありません」
「それはどうも。うちの自慢のエージェントです」
「まったくですね。ここには勿体ないくらいだ」
「────」

静かに、しかし苛烈に小熊はアイランズを睨みつけた。栗毛の白人は特段応えた様子もなく、彼の視線は小熊から逸れて、デスクの脇に掲げられた小さなプレートに固定された。赤と黒の英字が印字された白の石膏ボード。小熊がこのオフィスを手に入れたときに作成したプレートは、彼女の信念の顕れでもある文字列を刻み込まれている。

渉外部門われわれは貴方がたを評価しています。H.E.R.オペレーション、倫理・人道的即時対応動員、その前は……即応救助作戦群でしたか? 貴方がたの活躍は我々にとっても望ましい。職員の生存性を向上させ、士気を高め、対立組織に対する財団の正当性を誇示するうえでも有用です。だからこそ亦好が部隊を守ろうとするとき、今回も含めて、我々は貴方がたの味方をしてきました」
「協力には感謝しています。私たちの行動理念を理解してもらえるのなら、」
「ですが、それも常にではないのですよ」

アイランズの口調は柔らかかったが、その言葉には底冷えのする響きが混じっていた。唐突に、小熊はこの訪問の意図を理解した。この男の言葉は彼自身のものではない。顔の見えない渉外部門の誰か、おそらくは小熊たちに肩入れしている人物による警告だ。

「我々は提携相手にも相応の力を求めます。今回のような案件でいちいち騒ぎを起こしているようでは先が思いやられる」
「雉園の判断は正しかった。」

*


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