物語の伝え方

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物語についての話をしよう。

世の中には妙なものが溢れてる。見えないところで動き回る小人人形の話を聞いたことは? 夜ふかししてるガキの顔を覗き込みに来る森の妖精を知ってるか? 絞首台の階段を登った後も獲物を握ってそこらをさまよい歩いてる殺人鬼は何人いると思う?

こいつらが物語だ。

おい、おい、まあ待て。引鉄に指をかけるなよ。何事にも順序ってものがあるんだ。そうカッカしてないで五分ばかり、そうそれだけさ、私の話を聞いていくといい。

いつの時代にも物語は存在する。大昔、私たちの爺さん婆さんがまだほんの小さなガキだった頃から、こいつらは私たちのダチだった。もちろん時には仲違いしたことも、殺したり殺されたりってこともある。けどな、大抵の物語ってのは、ただ人から人へ伝わっていくだけの無害なおとぎ話だったのさ。そうでなかったらご先祖様は、銃やナパームにプラスチック爆弾、それから戦車やヘリだののあれやこれやがない時代、どうやって荒野の獣どもから私たちの街を守ってたんだ?

そうだとも。

物語は存在する。実在とはちょっと違うな。形があることもないこともある。私たちに語りかけてきたり、何か取引や厄介事を持ちかけたり、ひどい目に遭わせてきたりする。そうかと思えば、数百年も音沙汰なしってこともある。神話や伝説に語られるような連中はそのたぐいで、たぶんとっくの昔に人間に飽きたか、もう死んでるか、どこか遠いところに行っちまってる。

サイト-44の愉快な連中に言わせると、人間と物語の間には、創作による自己増殖の相互作用とか……そういうものがあるらしい。私に聞くなよ、連中は四六時中そのことを考えてるが、私にそんな暇はないんだ。帰ったら直接聞いてみろ。ミームがどうたらこうたら、数時間は喋り倒してくれるさ。

そうさ、私は帰るつもりでいる。当たり前だろう? おい、いくら新人だからってな、この程度でヘタレてしまうようじゃ困る。私は早いところ宿舎に戻って熱いシャワーを浴びたいんだ。こんな息の詰まる場所に押し込まれて、誰のものだかわからないクソの臭いを嗅がされ、百年前から溜まってるような粘液に体中溶かされるのは御免被る。こんなのは何も楽しくない、そうだな?

思うに、今の私たちは物語なんだ。

妙なことを考えたか? ハハハ。この世界は誰かの創作物だとか、そんなたわごとを吐いてる連中の話を真に受けるなよ。あいつらが何を考えてそんな不毛なことを研究してるのか知らないが、そんなものはこのくだらない状況には大して役に立たないからな。

要するにだ、足を踏み入れた人間を食っちまう地下室があったとして、運悪く罠にハマった人間がみんな死んじまってお終いなら、その話が残ってるわけがないんだ。その場合、話は根っから全部創作か、あるいは生き残った人間が、日記を書くのが趣味の物好きな知り合いに聞かせるだけの余裕があったってことになる。そして私たちはその罠にどっぷり浸かってるわけだが、まずもって地下室のことは先に聞いてた、そうだろう? つまりこのクソッタレなびっくり箱から生きて出る目があるってことさ。キッチンの床が丸ごと落とし穴になってることは知らなかったがな。

重要なことは、物語と私たちは相互作用していて、私たちの行動は物語の一部になるってことだ。人を怖がらせるためだけに存在する物語なら、私たちは哀れな犠牲者その一からその四、化け物の胃袋の中で溶かされちまってハイおしまい。ところがだ、私たちが仲良く肩を組んで賢く立ち回ったならば、これは仲間との絆を教える教訓物語に早変わりだ。

そういうわけだから新兵、まずはその銃を仕舞うことだ。天井板をひたすら撃ちまくったところで見栄えが悪いだけさ。消化を早めちまったらどうにもならないし、食い物を逆流させるだけの効果があるとも思えない。

そうさ、いい子だ。落ち着け。おいおい泣くなよ、そういうのは最期まで取っとくもんだぜ。

五分経ったな。

まあ、この話の結論としては、世の中に蔓延るほとんどの物語は無害だし、そうでない奴らも物語である限りは、解法があることが多いってことだ。出口のない部屋は存在しない。それは本質的には無意味だし、無価値だし、そういうものは伝わっていくことはない。本当に危険なのは誰も知らなかったものだ。私たちはこの物語を知ってたし、だから来た。つまり帰れるんだ。

分かったな? 半信半疑ってところか? それでもいい。自棄になってバカみたいにぶっ放すよりは、私の物語を信じるほうがまだしも上等な結果になる。保証するとも。

さあ行こう。うまくすればドアがあるか、腹の中に隠された急所が見つかるか、同じように食われたご同輩に出会えるさ。そいつが生きてるか死んでるかは知らないが、幸い私たちは耐酸性のブーツを履いてて、三日分のメシと霊体が見えるゴーグル、それから全員がライフルを持ってる。針一本を武器に巨人の腹に入っていくよりかはマシな勝負ができるだろう。

希望を捨てるな。私たちはいま、主人公なんだ。


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