SPC-777-JP 鮫の姫

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タイトル: SPC-777-JP - 鮫の姫
著者: ©︎Karathh
作成年: 2020

中央情報管理局ならびにプロジェクト運営事務局C　　I　　C　　A　　P　　O　　C　　Oによる通達SPC-777-JPは可及的速やかに完遂しなければならないプロジェクトです。当プロジェクトはランクQUALIFIE/777-JP機密事項です。

プロジェクト番号: SPC-777-JP

鮫科殴打ケイパビリティ: SPC-777-JPを神格鮫科存在である｢豊玉姫｣に適用することで神格鮫科存在によるXS-クラス世界終焉シナリオを防ぐことが出来ると考えられています。また、SPC-777-JPは応用することで幽体鮫科存在、及び神格鮫科存在の殴打に効果が期待されています。

プロジェクト構成: SPC-777-JPはSPC-002-JP、SPC-710-JP等計23の既存プロジェクトと『古事記』に記載されている神格｢山幸彦｣と思われる人物、そして殴打対象として、同じく『古事記』に記載されている｢豊玉姫｣と推定される神格鮫科存在を構成要素に含みます。
山幸彦氏は極端に高齢である人間とタンチョウヅル(Grus japonensis)が入り交じっているように見える存在です。皮膚はケラチンの変化した鱗状のものに変化し、全身の体毛は羽毛へと置換されています。唇は嘴状に変形・硬化しています。両腕は小指が極端に延長され、翼へと変化していますが、発見当時は筋力不足により飛行は困難であり、数十メートルの滑空程度しか行えませんでした。その特性ゆえ、山幸彦氏は発声や複雑な道具の使用が極めて困難になっています。また、慢性的な心不全を患っていました。

山幸彦氏はその重篤な奇形にもかかわらず、高い身体能力及び野外活動に関する知識を有しており、野外、特に日本国内の山岳地帯において非常に高い生存能力を持っていたようです。保護時、自身の肉体の変化に合わせて設計・製作された、複数の道具を所持していました。¹しかしながら当時は慢性心不全及び加齢の進行によって激しく衰弱しており、病室からほとんど移動することができませんでした。

山幸彦氏の最大の特徴はその心臓部分にありました。左心室の内部に、直径█.█cmの翡翠の球体が癒着していました。このような位置に異物があることは循環器に絶大な影響を与えるにもかかわらず、この球体は血液の流れを阻害していませんでした。山幸彦氏の心臓が正常に拍動している間は特に何も起きませんでした。

ですが、山幸彦氏の心臓の拍動に障害が起こった時にその異常性は発揮されます。山幸彦氏の心臓の拍動障害に合わせ、北緯[編集済]、東経[編集済]の海域(以下、豊玉姫発生海域と表記)に海底地震及び、海底の盛り上がり、それに合わせた海水面の上昇が起こります。これは山幸彦氏の拍動障害の重篤さに比例して激しくなります。それと同時に、豊玉姫発生海域内に、多数のエリファスモデル型霊素生命体及び物質化した霊素(以降、豊玉姫護衛群とする)が出現し、山幸彦氏の元に向かって移動しながら婚姻イベントを発生させます。後の調査により、豊玉姫護衛群は豊玉姫を護衛する一種の鮫科信奉存在であることが判明しています。豊玉姫護衛群は第一豊玉姫護衛群と第二豊玉姫護衛群の2つに分類されます。第一豊玉姫護衛群は既存の海棲生物に似た外見をしています。一方、第二豊玉姫護衛群は既存の海棲生物を霊長類に似せた後直立させ、神道における婚姻の儀式に用いられる服装を着せ、また婚姻の儀式に用いられる道具を持たせたような姿をしています。これらの個体は全て死亡すると消失します。対霊素効果のある轟洲斗滅離拳や呪術攻撃、及びnPDN作動による強制顕現後の物理的攻撃豊玉姫護衛群に有効ですが、新たな護衛群が次々と出現するため効果は比較的薄いものとなっています。

以下は時間経過による婚姻イベントの移り変わりを表記したものです。

婚姻イベントからの経過時間	結果
約5分後	豊玉姫発生海域内の海底に物質化した霊素によって作られた鳥居が出現する。
約15分後	鳥居の向こうから大量の第一豊玉姫護衛群が出現する。
約2時間40分後	豊玉姫発生海域の海底に第一豊玉姫護衛群で出来た"道"が作られる。
約3時間後	鳥居の向こうから第二豊玉姫護衛群が行列を作り出現する。第二豊玉姫護衛群は第一豊玉姫護衛群によって作られた"道"の上を歩行して移動する。
約16時間後	第一豊玉姫護衛群群による"道"が上陸する。
約26時間後	第二豊玉姫護衛群が上陸する。
約45時間後	鳥居型の物質化霊素から、複数体の第二豊玉姫護衛群によって運ばれ護衛される、物質化霊素によって作られた駕籠が出現する。
約104時間後	第一豊玉姫護衛群による"道"が山幸彦氏の元に到達する。

この後は未だ不明ですが、神格鮫科存在である豊玉姫が顕現すると考えられています。

現在のセンターのシミュレーションでは、婚姻イベントが完遂した場合、以下のことが起こると予測されています。

約7時間の間、制御不能な神格鮫科存在、豊玉姫が完全顕現し活動を行う。対象神格を信奉しない存在のうち、特に対象神格に対しての涜神行為とみなされる行動を行ったものは、その血縁者を含め全員が豊玉姫による攻撃的改変の対象となる。

海域を中心とした約250km内の陸地は全て沈下し、海底となる。

全人類は神格の姿を知覚したことにより致命的な精神的影響を被る。

残存した全人類のうちおよそ16%は洗脳され、出現した豊玉姫の信奉者となり、既存の超常組織に対して積極的抵抗を試み始める。

以上から分かるように、婚姻イベントの完遂は豊玉姫から見て涜神行為と見なされ得る行為をしている鮫殴りセンターのみならず、全世界に対する脅威であるため、豊玉姫のみならず、全ての豊玉姫護衛群は鮫科存在であるか否かに関係なく殴打対象とされています。

現在では、以下の手順を用いた殴打、討伐が考えられています。

参加機動部拳²: F-5(一本釣り)³、F-6(必殺料理人)⁴、I-1(ダツ)⁵、K-14(ナックル工場)⁶、N-8(生で食べる派)⁷、T-5(サムサバ)⁸、X-9(ヒドゥン)⁹、Y-11(シャークバスターズ)¹⁰

参加センター: センター-55、181、489、8141

プロジェクト策定経緯: 当プロジェクトは山幸彦氏の保護並びに豊玉姫発生海域の発見をきっかけに策定されたものです。山幸彦氏は2011/06/12、飛騨山脈の森で大量の森林棲鮫科存在に襲われていたところをエージェント･ハーリンによって保護されました。¹¹

以下はセンターによる初めての山幸彦氏へのインタビュー記録です。山幸彦氏の発声に激しい訛り及び発語の障害があるため。山幸彦氏の会話には筆談によって行われました。

担当者: エルバー博士

対象: 山幸彦氏

[記録開始]

エルバー博士: 山幸彦さん。貴方が現在我々、鮫殴りセンターによって保護されていることはご存知でしょうか。

山幸彦氏: しかり

エルバー博士: では、これからあなたにはいくつか質問に答えていただきます。あなたはどうして、そんな姿になったのでしょうか？

山幸彦氏: とこよへ　ゆきて　こちらへ　かえりしゆえ

エルバー博士: とこよとはなんでしょうか？

山幸彦氏: うみのそこ　ひめのおる　ふじのくに

エルバー博士: そこで何があったのですか？

山幸彦氏: ひめと　ちぎりをばむすび　わがみと　あがみに　たまを　うめ　たがいに　えいごうに　めをとで　あれと　われ　えいごうを　えむ

エルバー博士: その結果あなたはそうなったのですね？

山幸彦氏: いな　わがあにと　あにがたみへ　こらしめを　おこなへり　われひめをよばいたまへば　うしお　わがあにをのみ　もどれといへば　うしお　ひきて　わがあに　われのもとにぬかずきぬ

エルバー博士: しかし、あなたは老いているではありませんか。

山幸彦氏: われ　ちからをもちいて　たみをひきい　あきつしまの　おうとなり　ひめを　むかえに　とこよへと　われゆきて　ひめが　やひろわにでありしこと　しり　おそれてにげり　やひろわに　われにかしりをばかけたり　なんぢにげようとも　なんぢとこよのものなりと　あがとこよにきしとき　われちのそこよりおきあがりて　なんぢをむかえん、わがてのもの　なんぢをむかえにゆかんと

エルバー博士: それで老いるようになったと？

山幸彦氏: しかり　ゆえに　われ　ちとせにいきるため　つるになりぬ　しかし　かめはよろづのよをいきるとききぬ　ましてや　やひろのわには　いつまでか　それよりも　はるかに

[記録終了]

付記: これ以降山幸彦氏は疲労を理由に筆談を拒否した。山幸彦氏による後半の文字は激しく震えていた。