黒の女王-ニケのレポート(没)

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20██/01/20

私が他のタイムラインへの影響を懸念し、放浪者の図書館を切り離してから既に1週間が過ぎようとしている。L.S達に何かメッセージを残すためにとこの本を持ち出したけれど、生憎とこれは不良品だったらしい―相互にやり取りできるはずだったのに、一方的な通信手段となっている。
魔力の流れから通信自体は上手くいっているのは分かっているので、いつもの会合とはまた違った形式にはなるだろうが、今のこのタイムラインについてレポートを送ろうと思う。

先に私のことを知らないL.Sに向けて自己紹介を。私の名前はアリソン・チャオ。イギリス産まれで現在17歳。父親であるギアーズ博士との再会を願っているが、財団に対して積極的に敵対しようとは考えていない。しかしギアーズ博士と接触を試みるという行動は財団にとって許されるべきものでは無かったらしい…少なくとも今までは。

コードネームとして私は“ニケ”を選んだ。ギリシャ神話における勝利の女神だが、最も有名な像には首がない。そして私もそうだ。ある事故がきっかけで私は頭部に致命的な損傷を負った。当時のギアーズ博士は、何かの禁忌を犯し私の存在定義を神に近づけたと思われる。結果として私は放浪者の図書館へのアクセス権と僅かながらの超能力を手に入れ、ギアーズ博士は家族の元を去った。目と耳と鼻と舌とついでに口も無いが、大きな不便はない。

カオス・インサージェンシーと戦闘した際には「何故再会を願っていないであろう父親に接触を試みるのか」という旨の質問をかなりの侮辱と共に投げつけられた事があるが、私はこう返答した覚えがある。即ち、「娘だから」。私は叶うならば人としての姿を取り戻すか、土に還ることで世界に許されたいと思っている。それが出来るのはギアーズ博士だけだと分かっている。

では話を戻そう。私が生まれ育ったこのG-815では人類がある病に侵されている。『幸せ』だ。人としての姿を持つ者達はみな、あらゆる行動に『幸せ』を感じる病に罹患している。しかも、このレポートを執筆するまでにあらゆる場所を訪れたのだが…人間であれば漏れなく罹患していると言っても差し支えない状況だ。唯一罹患していない人類を見つけたが、数日後には連絡が取れなくなっていた。財団に収容されたと思われる。
現在の財団は事実上敗北を認めており、『幸せ』こそが人類の正常な状態だと定義している。彼らは『幸せ』に罹患していない人々を収容しようと躍起になっている様だ。

この『幸せ』の影響可能範囲は、最小でもこの地球全体と分かっているだけで依然として不明だ。L.Sの殆どは人型を保っている者ばかりだろう。そちら側から放浪者の図書館を通じて探索を試みるのは止めた方がいい。どの様な影響があるか分からない。もしこの『幸せ』が感染する類の疾患だとすれば、多次元宇宙全体に広まり取り返しがつかなくなる。慎重に観測を続けて欲しい。

20██/01/21

「常に幸福を感じている状態」はやはり異常だ。全人類が副作用の一切ない麻薬を四六時中摂取している状況と言えば多少は伝わりやすいだろうか。彼らはあらゆる事象を幸せと定義する。サイコパスによる大量殺人事件も、大規模災害による首都壊滅も、全長200kmに渡る巨大魚の目撃情報も、全てを笑顔で迎え入れている。
特に最後の巨大魚は財団が隠すべき案件に該当するはずだが、財団に動きが全く見られない。今の世界であればあらゆる異常現象が許容されてしまうだろう。蛇の手の幹部が喜びそうだが、皮肉なことに『幸せ』を感じないような異形の存在は相変わらず収容対象だ。

道中で捨てられたと思しき犬を拾った。名札から名前はフレディというらしい。初めは私を怖がっていたが(私の認識阻害は人間にのみ効果を及ぼす)、この犬は賢い。私が通常の情動を有していると理解したのか懐くようになった。

現在の私はギアーズ博士の元を目指している。恐らくはサイト-19にいると予測しているが、ギアーズ博士…パパもまた『幸せ』に罹患している恐れが高いだろう。私の目的はそれを確かめることだ。
フレディの餌をペットショップで購入。この世界にも残念ながら利点が数多く存在する。素性がしれない人間でも即座に雇ってくれるし、即座に辞めても嫌な顔はされない。恐らく目の前で盗みを働いても重罪にならないだろう。「今日もいい天気ですね」と話しかけつつ盗めば通報すらされない可能性もある。私はしないが。

20██/01/22

フレディが死んだ

20██/01/23

私が目を離した隙に、フレディのことを「可哀想だ」と思った幸せな若者が、繋いでいたリードを切り離して手に抱えたらしい。フレディか暴れ、よろめいた若者が道路に倒れ、そこにトラックが通りがかったという訳だ。

フレディを土に埋めた。若者の遺体は葬儀屋によって運ばれ、遺族が付き添った。

私以外誰も泣いていなかった。私に涙腺は無いが。

私だけ笑顔になれなかった。私に口角筋は無いが。

20██/01/24

サイト-19に侵入。財団職員に認識阻害が通じているらしく、笑顔で見学に来たと告げると笑顔で通してくれた。ここまで来ると滑稽としか言い様がない。

ギアーズ博士のオフィスまで案内されるも不在。
机の上のメモにはこう書いてあった。

「もうあまり持たない。幸福は歯車をも狂わせる」

早く探さなければ。

20██/01/25

私はパパと幸せになりたかったのだろうか

20██/01/26

たすけて

20██/01/27


20██/01/28

パパと再会して、私は人の形を取り戻した。パパはとっても幸せそうに笑っていた。

私も楽しい。

全てが 幸せだ。

[以降の記録は無価値と判断。黒の女王-レテによって消去済]


tale jp 黒の女王 相貌失認



ページ情報

執筆者: MeltRose
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最終更新: 22 Jan 2021 14:04
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