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ぼくはおとうさんがだいすきです
ぼくはおかあさんがだいすきです
でも、きらいになるときがあります
ぼくのかいた え を██るとき
おとうさん は おこります
おかあさん は だまります
ともだちに██せると わらってくれます
でも せんせいは ともだちをしかります
ひとをわらうのはよくないそうです
でもぼくは わらってほしいな
笑った理ゆうを 知りました
ぼくは 友だちが キライになりました
しかった理ゆうを 知りました
ぼくは 先生が キライになりました
お父さんは僕のスケッチブックを捨てた。どうしても捨てないでと頼んだのに。なぜ僕の絵がそんなに嫌われるのだろう。分からない。分からない。
お母さんは僕の引き出しから見つけた残りの画を全部燃やした。僕の本当の友達は全部灰になってしまった。お父さんには面と向かって文句を言えたのに、お母さんには何も言えなかった。黙って灰をチリトリに入れる顔が怖かった。
父も母も、誰も僕を見てくれなかった。だから僕は何時でも僕を見てくれる友達を描こうと決心した。ただ普通に描いただけじゃダメだ。どうすれば他人を真っ直ぐに見つめる絵が描けるのだろう。まずは色んな絵を見て調べないと…
実家の子供部屋に失敗作が山のように並ぶ。父の葬儀の連絡があったが、とてもそんな時間は割けない。父の病気は僕の身体をもっと早い段階で蝕んでいた。医者によれば三十歳にもならない内に全身が菌に犯されるらしい。酷い置き土産を残してくれた物だ。
あらゆる技法を駆使しても僕の絵は完成しない。絵の人物と目は合っても、そこに目線はない。僕ではない誰かを見つめるばかりだ。
かき集めた画材を片っ端から試したが、どれもこれも酷い代物だ。高級な石や希少な植物を粉にしたところで、自然の色は視線を彩らない。
傷つけた手首から滴る自らの血ですら、自ずから僕を一瞥すらしなかった。
血が足りず朦朧とする意識の中、痙攣する手が引き出しに引っかかり中身を床にぶちまけてしまった。
小学校に入学する際、父と2人で家具屋に行って選んだ勉強机。久しく開けていなかったそこには、捨てられる前に隠しておいた紫のクレヨンがあった。
どれ程不気味と言われても、僕は僕の世界を描き続けた。一人きりでベッドに潜り、ボンヤリと闇を見詰める中に浮かんだソイツは僕の心の一番側に居てくれた。
油絵も水彩画も墨絵も砂絵も、あらゆる画法を試してやっと正解がすぐ側にあったと気付く。
幼稚でもいい。幼稚だからこそいい。あの頃の僕は何も知らなくて、それでも幸せだった。おとうさんも、おかあさんも、純粋に優しかったあの頃はもう遠くだ。
僕が死んでも、誰かを見ていてくれ。見放さないでくれ。そうねがいながら紙を██くる
友██に人生でさいし██でさ██後のな前をつけよう。
『死後評価された怪奇芸術の巨匠、栗見沢 仁』(1987年 芸術誌『ゴッホ』編集部 同輪書房)より、遺族から提供された幼少期から壮絶な死の直前に至るまでの本人直筆記録を抜粋。
※一部判読不能な箇所は黒塗りで表現。
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- portal:4952071 (05 Jan 2021 04:47)