老生ノ常譚

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……ん。ん?俺か?俺に、話し掛け……ていっ……いるの、か?ははっ、はははは……ち、ちと時間をくれねぇ、かな。

ンン、ンン!ゴホッゴホッ…ゲホ…うむ。よし、喋る用意が出来た。じゃあもうちとばかり時間をくれや。話す相手もいなかったが、これからどうしても話したいことがあるんでね。まあ老人がいつもの様にする他愛の無い話だと思って聞いてくれや。

――さてと。じゃあ例え話から始めるか。

「風が吹けば桶屋が儲かる」ってことわざがあるだろう?風が吹くという始まりと桶屋が儲かるという結末だけを見ればつまらん話さ。ところがこれには色んな説があってだな、風が吹いてから起きる沢山の出来事の中には結構な災いが含まれていたりもするのさ。結果的にいい事が起きるとしても、そこまでの道程でどんな災いが起きるか分からねぇってこと。

ついでに「猿の手」ってのも知ってるかい。持ち主の願いを不吉な形で叶える道具の事だ。俺が出会ったのはそれに似たような物だった。ただ猿の腕のミイラじゃなく、何かを模した小さな木彫りの像でね。それを握って願いを3回唱えると、どんな内容でも叶うという話だったのさ。ところがこれを信じている人は周りに誰もいなかった。誰でも触れる場所にあったが、実際に触わって願いを言っても全然叶わないと言われていてな。俺もその頃はそう思っていた。

しかし実際は違ったんだ…まあまあ、こっからが面白いからソワソワすんなって。

あれはいつだったかな。俺が像に願い事をして暫く経った頃だ。友達のケンちゃんの家が突然埋蔵金を掘り当てた。俺はアイツの願いを覚えていたからね。偶然の出来事とは思えなかった。
次に幼馴染のトメさん。急に若返ったってんでちょいとした騒ぎになったね。何故だか半月もしないうちに騒ぎはパッタリ収まったんだが、今にして思えば不思議だなあ。妙に警官がウロウロしていた気もする。ただ俺は実際にちらりと見て覚えているから、トメさんが若返ったのは間違いない。
んで、俺はあの像が原因だなと薄々思うようになってきた。ケンちゃんもトメさんもきっと願いが叶ったからああなったんだろうってな。もしかしするとそうなるまでに何かあったのかなと思って、色んな人に聞いて回ったり資料を調べたりしてみたのさ。何せ時間はたっぷりあったからな。

そしたらまあケンちゃんもトメさんもロクな人生じゃなかったんだ。

まずケンちゃんだ。ケンちゃんの家が埋蔵金を掘り当てたのは山だ。その山は大漁の借金と共に押し付けられた屑土地だったのさ。今で言う連帯保証人かな、アレに巻き込まれたって話さ。
ケンちゃんはそんなお人好しじゃないけれど、まあ女に弱い。悪い女に騙されて連帯保証人に名前を書いちまっていた。
女に騙されるキッカケになったのは結婚していた奥さんとの大喧嘩。奥さんが若い男に貢いでいたそうだ。なんとまあ女運が無い奴だよ。
その若い男は医者で、ケンちゃんの病気を付きっきりで診ていた腕が立つと評判だった。ところがこいつはヤブ医者でね。ケンちゃんの二の腕はぐずぐずに腐って戻らなくなっちまっていた。
腕を腐らせた原因は戦場にあった。俺と同じ場所で敵を迎え撃ったんだが、逃げ遅れたアイツの腕を弾が何発か貫いてね。傷の手当もままならなかったから、あっという間に菌が繁殖したのさ。
撃たれた原因は左膝にあった。深刻な障害じゃなかったんだが、膝に僅かなヒビがあったらしい。ほんの少しヒョコヒョコとした歩き方で色んなやつが蔑んだもんだが、俺は気にしなかったね。ヒヨコのケンちゃんっつって二人で笑いあったものさ。
……そんで、膝をやったのは神社の境内だった。像から手を離した直後に段差でつまづいたのさ。

埋蔵金が全部でいくらだったのかは知らねえが、まあ大量の借金でその大半は消えたろうな。遺族は雀の涙しかない残りを死に物狂いで奪い合い。ペンペン草も生えないような争いだったとさ。
……ん?言ってなかったか。ケンちゃんは病気が祟って死んだ。埋蔵金が見つかった直後にな。

おっと、長い時間同じ姿勢でいると身体が凝るぞ?ちょいと解すといい。そう、そうだ。

……オホン。さて何処まで話したかな。そうそう、次はトメさんの話だ。

トメさんが突然若返った時、なんとトメさんは実験台にされていたのさ。やってたのは信仰心が明後日の方向にいっちまっている怪しげな教団さ。まあ願いを叶える像があるくらいだ。実際に姿のある神様を祀ったり、人間を人間と思わないような不気味な奴らがいても特段不思議でもないわな。もちろん実験台だから、トメさんの身体はめちゃくちゃに弄られていた。俺が後ほど手に入れた書類には、到底口じゃ説明できない程の邪法が記されていたさ。切るとかくっつけるとかじゃ済まない、吐き気がするような諸々さ。
んで、その教団がトメさんを実験台としたのはトメさんが一番熱心な信者だったからさ。ええっと…その教団の宗派でちゃんと名前があったんだが…そうだ!ナンタラ教だった。
そのウンタラ教で最も偉い奴…教祖様って言うのかな。ソイツも狂っていた。トメさんはそいつに身も心も金も全てを捧げていたが、教祖様は当然の様に何一つ与えることは無かった。
アホタレ教にトメさんが入信したのは、息子が言うことを聞かないからだ。息子は何度も家出した挙句、進学もせず悪い奴らとイチャついていた。トメさんが苦労して稼いだ金も次々自分が掠めとって使い込んでいたとさ。まあとんでもない息子だ。
一応息子側にもそれなりの言い分があってね。息子は完全にグレちまう15歳頃までずーっとトメさんに毎日頬を張られていた。要するに虐待だな。息子に直接話を聞いたが、トメさんは「自分も小さい頃そういう教育を受けたから」「今度はお前の番だよ」と言っていたそうだ。
なんでも虐待ってのは負の連鎖らしいな。つまりトメさんは親から虐待されていたんだな。遺品の日誌によれば、「言うことを聞かない子は痛めつけないと理解しない」と叫ぶのが常だったらしい。
そして俺が思うに、トメさんが最初に親から殴られたのは遅くに帰ったあの日だった。そう、像を握ってから神社で暫く遊んでいて、帰るのが遅くなっちまった。次の朝、トメさんは泣き腫らした顔で頬が腫れていた。それまでは仲のいい家族として村の評判だったのにな。

トメさんは実験台として散々全身を痛めつけられたから、二十代まで若返っても身体は1時間と持たなかった。実験台として弄られる内に正気に戻ったのか、ボロボロの身体を引きずりながら家に帰って、息子に向かって土下座した直後に息を引き取ったのさ。

こんな訳で、あの日俺と一緒に像を握ったダチは4人いたんだが、その内の2人は不幸な年月の末に下らねえ願いだけが叶っちまったのよ。あとの2人は行方知れずだが、まあ想像はつくさ。願いの内容はうろ覚えだが、サッちゃんは「空を飛びたい」。ヨシくんは「日本一強い男になりたい」だったかなぁ。はてさて、そうなるまでにどのような不幸に遭ったのやらだ。

像は願い事を確実に叶えてくれる。引き換えとして叶うまでの歳月を苦しみながら過ごし続け、そして死ぬ間際になってようやく願いを叶える。苦しみはどんな願いも釣り合わず、願った内容も結局意味が無くなっちまう。まとめるとこんなものか。兎に角ろくでもねぇ呪いの品なのよ。

俺がどんな不幸に遭ったのか?俺は…そうさなぁ、忘れちまった。いや本当は覚えているさ。物覚えはいい方でね…うん…。だが話す気にはなれねぇな。ダチが俺のせいで不幸になっていく顛末見るのも充分辛かったが、もっと嫌な事も沢山経験したのさ……それにだ、俺は俺で役目を果たせたんじゃないかと思うんだ。あんた、財団だろ?チャンチャラ教の資料にあったよ。その印には見覚えがある。

もうこの洞窟で坐禅を組んでから何年経ったかも分からんが、何もしなければ不幸もそれ程じゃないと気づいてからはずっと座っているな。それにこの像を然るべき所に預けなきゃなんねえと思っていたからだ。だがそこらの馬の骨に渡すなんてとんでもない。俺は待っていたんだ。不確かな伝承を調べてこんな所まで来るような財団の構成員さんをな。

俺が村を離れてから何人がこの像に願い事をして、今どれだけの不幸を味わっているのか分からん。だがそれも昔の事よ。盗んでから肌身離さず握っていたからな。まあそろそろ右手が取れちまいそうだったんだが……やっとこさ渡せるよ。

ああそうだ、今は西暦何年か分かるかい?……ふむ、そうか。俺も随分と長い間を“健康に” “長生き”したんだなあ。あと何年この苦しみを味わうのか、それとも終わりは無いのか。多分この像は俺が一番癪に障っているから、最低でもこれから100年はあの世に逝けないなんて有りそうじゃねぇか。もう胸から下に左腕も骨になっているのになぁ。ふふふ。

それにしても、アンタの笑い方はちと気色悪いね。少しは鏡を見た方がいいよ。まるで俺みたいじゃねぇか……まあ、なんでもいいさ。顔は良くなくても目を見りゃ分かる。他の奴には使わせないつもりだろう……ふん、図星かい。知った上で自分が使うなら勝手にしな。

……なあ、ちゃんとその像を守ってくれよ。埋めても出てくるから見える場所に置くのが良い。俺かい?別にいいよ、何もしなくたって。じっとしてりゃあアンタ以外誰にも気付かれなかったもの。このまま一人で朽ち果てらあ。人払いだけしてくれると有難いね。やっとこさ眠れると思えば、まあなんと安らかなことよ。

長生きするつもりってんなら、それなりの覚悟くらいしておけよ。

では、おやすみ。
お前さんの人生に幸多からんことを。


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